【写真】監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二夢のタッグ『怪物』場面写真【6点】
同作は第76回カンヌ映画祭で脚本賞を受賞、さらに、LGBTQを扱う作品が対象の「クィア・パルム賞」を日本映画として初めて受賞した。
この作品が生まれたのは、是枝監督の演出や故・坂本龍一氏の音楽、キャスト陣の演技力もあってのこと。しかし、坂元氏の脚本の素晴らしさが改めて語られる作品であることは、脚本賞受賞からも見て取れるだろう。坂元氏の脚本が描くものの正体は何なのか、過去作品を絡めながら改めて見ていきたい。
19歳のときに、第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し脚本家デビューした坂元氏。以降、1989年『同・級・生』や1991年『東京ラブストーリー』など、数々のヒットドラマを手がけた名脚本家の一人だ。
近年では、2013年『最高の離婚』、2017年『カルテット』、2021年『大豆田とわ子と三人の元夫』など、社会問題や人間関係を鋭く描く作品で高い評価を得ている。映画では、2007年『西遊記』や、2021年『花束みたいな恋をした』などの脚本を担当し話題となった。
坂元氏のこれまでの作品を振り返ると、さまざまな“家族”の形を描いてきたものが多くある。なかでも感動的なのは、テレビドラマ『Mother』『Woman』『anone』の三部作。それぞれに独立した作品だが、メインスタッフが共通しており、家族再生や人のつながりを疑似家族的に描いている点はよく似ている。
同シリーズは多数のドラマ賞を獲得したほか、海外での評価も高く、リメイク作品が世界的にヒットした。三部作の放送を終えた2019年の「マイナビニュース」のインタビューで、坂元氏は以下のように話している。
「(『Mother』『Woman』『anone』を)作っている時は日本人に限定された物語だと思っていましたが、国境を越えて別の場所で別の方が演じて、物語をつづっても、伝わるものは同じだということが分かりました」
「僕が書いていることは、個人的なひとりの人間が考えるとても狭いものだと思っていたこともあり、こうして外国に伝わることは、脚本人生で一番うれしかったことです」
今回の『怪物』も海外で高い評価を受け、複数のメディアで取り上げられている。「羅生門構造」と呼ばれる一つの世界を異なる視点から見る構成は、惹きこみがあり、発見があり、言葉にできないミステリアスさがあり、観る者の関心をつなげ続けた。そして、全体の構造が浮き彫りになって立体的に見えてきたときに、なるほどという腹落ち感・納得感とともに“何とも言えないままならなさ”を体験する。
それぞれの立場の苦しい感情がすべて回収されるわけではないのだが、私たちに考えさせ、自分なりに消化させる時間を与えるからこそ、心に残る作品に仕上がっているのだろう。その“何とも言えないままならなさ”こそが、坂元氏の描くものの正体であり、最大の魅力のように思う。
さらに、同作はそこに是枝裕和監督の演出が加わってより深みと繊細さが増している。今月19日に行われた同作の大ヒット御礼舞台挨拶にて、是枝監督は「(坂元氏の脚本は)勉強になりました。できあがった映画を観ると、さらにこことここがつながっているんだなとか、画になってつながった時に気づくことも結構あるんですよね。それが本当にすごいなと思っています」と話していた。
坂元氏の作品は、人間ドラマを描きながら随所で事実を咀嚼する時間を与えてくれる。
来年には、悩み迷いながら生きる若い女性たちの姿を描く映画『片思い世界』の公開が予定されている坂元氏。同作の監督は『カルテット』や『花束みたいな恋をした』でタッグを組んだ土井裕泰が務める。次はどんな感情を残してくれるのか、今から楽しみだ。
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