異色のニュース番組『ABEMA Prime』が、ここに来て存在感を増している。新しい未来テレビ「ABEMA」のニュース専門チャンネル「ABEMA NEWS」で平日21~23時に生放送されている同番組のキャッチコピーは「みんなでしゃべるとニュースはおもしろい」。
番組では侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が繰り広げられ、その内容がネットを中心に議論を呼んでいるのだ。

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MCを務めるのは、EXITの2人や安藤美姫益若つばさ、ひろゆきなど、普通のニュース番組ではあまりお目にかかることのない面々。「上手いコメントを求めているわけではなく、裸になって、自分の本音をさらけ出してくれる人がいい」そう語るのは、チーフプロデューサーの郭晃彰氏だ。郭氏に異色のMC陣のキャスティング理由と、彼らのコメント力について聞いた。

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まず前提として、番組製作にあたって、知識量バトルにならないように意識しているという。そのため出演者には事前に“予習”をしないように頼んでいるそうだ。

「たとえば大学教授のように、ちゃんとした人がちゃんとしたコメントをするのがオーソドックスなニュース番組の構成ですよね。でも、それだとハードルが高すぎる気がして。知識量のハードルも下げたいし、ニュースを語る行為のハードルも下げたい。専門的な知識がない普通の人が、ニュースについてカジュアルにしゃべってもいいじゃないですか。

うちの番組出演者にはアクティビストもいるし、学生もいるし、起業家もタレントも文化人も外国人もいる。なるべくいろんな人をキャスティングしたいっていう思いがあって、レギュラーメンバーだけでも60人が揃っている。
多様性という観点からも、いろんな職業の人に集まってほしいんですよね」

その言葉通り、キャスティングはかなりオリジナリティに富んでいる。MCやコメンテーターとして登場するのは、ひろゆき、あおちゃんぺ、紗倉まな男色ディーノ、成田修造、呂布カルマなどなど……。おおよそ普通のニュース番組では見かけないメンバーだ。

「情報番組に出演する方には、テレビの中で求められる設定やキャラクターのままで話をする方もいるじゃないですか。申し訳ないけど、うちでは基本的にそういう方には出てもらわないんです。裸になって、自分の本音や価値観をさらけ出してくれる人がいい。識者や専門家が出てくると、『こういうことをしゃべるんだろうな』って先が読めることがありますよね。パズルのピースを当てはめているような感じで。だけど、それでは番組を作っているほうも観ているほうもワクワクしない。だから意図的に違う価値観の人に出てもらっている面はあります」

郭氏自身、レギュラー陣のコメントでハッとさせられることが多いという。たとえばEXITの兼近大樹。若い頃、不良グループにいた経験もある彼は、番組でいかにそのコミュニティから抜け出すのが大変だったかを詳細に語ったことがあった。


更生してまともな人たちと付き合おうとしても、それまでとは言葉遣いから遊び方まで何もかも違っている。したがって強烈な違和感に悩まされる。だけど元の不良集団に戻れば、今まで通りの価値観だし話も通じるから居心地のよさに引き戻されそうになる。訥々と(とつとつと)語る兼近の言葉は説得力に富むと同時に「その発想はなかった」という気づきがあったという。

「そのときは少年犯罪の再犯問題について語っていたんです。兼近さんが話していたのは、残念ながら社会には“犯罪をする”という選択肢がある人が一定数いると。良くないことだけれど、その存在を認識しながら、話をしないと上っ面のトークで終わってしまう。こういうコメントというのは、いわゆる”文化人”の方からは出ないと思う」

番組内で「所得が低い人は投票に行かない」という話題になったときも、兼近は「そりゃそうっすよ」と平然とした様子でコメント。「自分自身も生活に余裕が出たから政治に関心を持つようになったけど、カツカツの暮らしをしていたら選挙なんて無理っすね」と述べた。炎上してもおかしくはない。しかし、収まりのいいコメントに逃げないところが兼近の持ち味でもある。

「加えてEXITは2人のバランスがいいんですよね。
りんたろー。さんは世の中の出来事にアンテナを張っていて、時流やトレンドを読むのが上手。音楽のサブスクやジェンダーといった話をしていても、価値観が今に合わせてアップデートされているから感心させられます。結婚した相手のことも『妻』とか『嫁』ではなく、必ず『パートナー』って呼びますし。役割分担みたいなことが2人の間で自然にできているから、コンビとしても番組としても非常にバランスがいい」

安藤美姫がスポーツ指導について語った回も大きな反響を呼んだ。「選手時代に“お前はダメだ”くらいのことを言われたこともある。でも私の場合、優しい指導だと気持ちが入らない。悔しいから“やってやる!”と思ったし、それで優勝したこともある」と過去の経験を振り返りつつ、「一方で同じコーチは他の選手のことをめちゃくちゃ褒めていた。でも、それが指導というものなんですよ。その選手は、けなされると落ちるタイプだったので」と解説。「0か? 100か?」では決してない指導の奥深さを視聴者に伝えていった。

益若つばさは、EXITがこの番組でコメントする姿を見て、自身も社会問題を語ることを決めたという。
生理や避妊リング、アフターピルなど性にまつわるテーマを発信する理由について、「最初はすごく恥ずかしかったし、躊躇した。オープンに話したくない人の気持ちもわかる。自分が芸能界にいなかったら、誰にも届かなかったかもしれないが、"モデルの益若つばさ"だったら同じ悩みを抱える人に届くかもしれない。そう考えて、発信することを決めた」と語った。

ニュース番組のコメンテーターは大学教授や新聞社の解説委員が務めることが多い。それ故に勝ち組の理論に傾きがちな側面もあるだろう。だが、『ABEMA Prime』の出演者は多種多様。過去に一度失敗を経験した人も多い。負けた気持ちも分かる彼らが「裸の言葉」で語るからこそ、視聴者はそこにリアルを感じ取れるのかもしれない。

▽『ABEMA Prime』 放送概要
キャッチコピーは「みんなでしゃべるとニュースはおもしろい」。これまでの常識や価値観が大きく変わる中、今の時代らしい新しいネット言論に挑戦します。レギュラーメンバーは60人。
色んなバックグラウンドをもつ論客たちと多様で新しい議論をお届けします。
放送日時 :毎週月~金曜 夜9時~夜11時  ※生放送
放送チャンネル:ABEMA NEWSチャンネル

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