格差・貧困問題に取り組み、メディアで積極的に発言をしている作家・雨宮処凛が、バンドやアイドルなどを愛でたり応援したりする“推し活”について深堀りするコラムシリーズ。3回目のゲストは、ファンから“推される”側の立場であるゴールデンボンバーの鬼龍院翔。
バンドマンなどステージに立つ人へ向けた実用書『超! 簡単なステージ論 舞台に上がるすべての人が使える72の大ワザ/小ワザ/反則ワザ』(リットーミュージック)を出版し話題になっているが、実は本書はバンドマンならずとも、あらゆる仕事や人間関係に応用可能な優れた1冊だった。本書に込めた思いについて話を聞いた。文・雨宮処凛(前後編の後編)

【写真】ゴールデンボンバーの圧巻のライブショット【15点】

【前編はこちら】ゴールデンボンバー・鬼龍院翔が語るステージ論「音楽性よりエンタメに振り切ったほうが夢破れない」

バンド活動において、観客が多くなればなるほど様々なトラブルが発生する。暴言などの迷惑行為も出てくるが、鬼龍院氏は「一切反応してはいけない」と説いている。

「本当に難しい話なんですが、これは完全に数の問題で、人数が増えると変わった行動をしてしまう方も出てくる。わかりやすい例で言うと、『〇〇のファンってマナー悪い人多いよね』って言われたりしますが、それって大抵ファンの人数が多いグループの話なんです。パーセンテージの問題だと思うと、暴言を吐く人がいても、『今日はお客さんが結構入ってるからな』って傷つかないようになったというか、冷静に対処できる。理系の脳みそで処理しています。僕、得意教科は理科と数学でしたから(笑)」

本書にはファンサービスの持続可能性についても触れられている。例えばファンメールを返していたのにある時期から返せなくなったら不具合がないのかなど。駆け出しの頃はどんなサービスでもやってしまいがちだが、それが続けられるかどうかも重要だ。

「例えばCD発売時の握手会も、いずれどこかでやめなればならないというのは早い時期から思ってました。
例えば3年間やっていたら、お客さんにとってはそれが当たり前になるのでやめた時、不満に感じる。あるツアーではアンコールが3回あったのに、1回しかなかったら損した気分になる。ファンメールの返信も同じで、ずっと続けるのは自分たちも大変だし、やめた時にファンは大きな不満を感じる。あまりにも過剰なサービスっていうのは諸刃の剣なので、持続可能なサービスを最初から考えるのが僕のスタンスですね」

そうして本書には、掛け軸にして飾っておきたいくらいの名言がある。それは、「仕事で関わっていない異性をSNSでフォローするな」。

「これ、表紙にしたいくらいの言葉だったんですけど、反応は多いですね。僕、根暗なんですけど、欲深いのでみんなが友達を作ってるのが羨ましくてしょうがなくて、誰かが呼んでくれる誕生日パーティーとかに喜んで行くんですよ(笑)。人見知りのくせに。そこで人間観察をしてしまうんですが、ステージに立つ仕事をしている方々も、その場でSNSをフォローしあってるんです。そういうのを見ると、『あ、この人は売れる気がないんだ』という結論に達するわけです」

なぜなら、ファンは自分の推しが誰をフォローしているかまで必ず見ているから。

「不信感を募らせることになりますよね。当たり前すぎるけど、でも結構やってる人が多いんです。
それくらい、分別つけてやらなきゃいいのに⋯⋯」

ドキっとした人は、今すぐなんとかしたほうがいいだろう。

一方、本書で鬼龍院氏は、ファンになってもらうために音楽以外で大切なのは「清潔感」と「愛嬌」と強調しているのだが、もうひとつ加えるとしたら? と聞いてみた。

「あとは滑舌ぐらいですね。整った顔とか鼻の高さではなく、いかにその人の心に住むかだと思います。イケメンを売りにしているわけではない方々は、清潔感と愛嬌が抜群にあると思いますし、何より伝える力がすごいんですね。なので、何を言ってるかがわかるというのが、実はすごく大事です」

ヴィジュアル系バンドだと、シャウトしすぎて何を言ってるかわからない場合も多い。特に自分たちのバンド名を言う際、「俺たちが、”(聞き取り不能)”だー!!」と絶叫するので一文字もわからないことも。その上、チラシを見ても難解な英語や見たことのない漢字ばかりでなんと読むかもわからない。CDジャケットやアー写などで判断しようと思っても、多くのバンドが、まるで間違い探しみたいな見た目をしている。

鬼龍院氏は本書で「自分たちの説明、紹介」の大切さにも触れているが、自己紹介からして聞き取れないバンドのなんと多いことか。

「何言ってるかわからないのは僕もパロディしてて、『†ザ・V系っぽい曲†』というゴールデンボンバーの曲の最後に『セ(聞き取り不能)ァー!!』って言うんですけど、それは僕が見に行ったライブでのことなんです。最後にキメで『次のエリアで会おうぜ!』みたいなカッコいいこと言おうとしてるけど、何言ってるか全然わかんない(笑)。
だから滑舌は大事ですね」

さて、そんな秘策を詰め込んだ著書『ステージ論』だが、「ステージに立つ人は『読んだ』とは言わない方がいい」と言う。

「参考にしたとわざわざ明かさなくても…。それも本に書いとけばよかったな、と思って。僕がなぜ現役でステージに立ってるのに、マニュアル本を書いたのかというと、優しい人と勘違いされるのが嫌だったからです。優しいのではなく、ロジックでやってる。あと昔から『これをやればモテる』みたいなマニュアル本が好きなんです。そういう本を読んで、いつか試してみようって未来に期待することをひとつでも増やすというのが、精神衛生上良かった。明日以降楽しみなことが何もないみたいな時、マニュアル本は心の病に良く効いて。他には、宝くじを買うのも効きましたね。何か未来に楽しみがあるというのは(笑)」

では、今の知識でゴールデンボンバーを始めた頃の20歳くらいに戻ったら、どう変わっていただろうか。

「もうちょっと苦しんでなかったでしょうね。僕はいつだって考えすぎの人間なんですけど、ブレイク当時の僕には『プライバシーなんか全部暴かれるから一喜一憂しても時間の無駄だ』って言いたいですね(笑)。
当時、嫌なことが一個ずつ起きていったんです。例えば銀行にしても、職業を明かしてないのに向こうから述べてきたりとか、有名になるとそういうことが確実に起こっていく。いろんな段階で傷つくことがあまりにも多かったので、もし当時の自分と話せるなら、相談相手になりたいですね。活動のことに関しては、こうしたほうがよかった、みたいなのはひとつもないです。当時から十分、考えすぎるくらいに考えてたので」

なんと清々しい言葉だろう。でも、心から納得だ。私自身、彼らを見るたびにいつも「こんなに楽しませてもらっていいのだろうか」と思ってきた。

さて、最後の質問だ。本書を読んでいて嬉しかったのは、鬼龍院氏が「活動の継続」を第一の目標にしていること。駆け出しの頃は継続よりも「売れる」ことしか考えられないだろうが、いつ頃から継続が目標になったのか、聞いてみた。

「初めての武道館をやるあたりまでは、活動が大変すぎて売れるとか続けるとか考えてなかったんです。金もなくて、貧乏だし。
でも、近年の話ですけど、19年にGLAYさんとニコニコ超会議でツーマンライブをやったことがあって。そこで強く感じたのは、僕らが中学時代にめちゃめちゃ聴いてた曲を、いまだにやってくれてるのがすごくありがたくて。

続けていくことってファンにとって一番尊く大事なことなんじゃないかって思ったんです。あとはX JAPANのYOSHIKIさんが、確かVISUAL JAPAN SUMMITの打ち上げで、LUNA SEAさんかGLAYさんに、『メンバーが生きているんだから続けていくべきだよ』みたいなことを言っていて、重みがあるなぁと。そういう素敵な先輩たちを見てきたから、続けるという気持ちになったかもしれないですね」

最後に紀元前バンギャも胸がいっぱいになるいい話を頂けて感無量だ。ということで、ステージ論をうかがう中で見えてきたのは、自らが客席で培ってきた冷徹な観察眼や人間心理の分析までをも総動員した鬼龍院氏の徹底的なプロ意識である。

考えすぎでネガティブな異才が積み上げてきたステージ論、ぜひ、あなたの人生にも役立ててほしい。
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