映画や小説などのホラージャンルでは、時代に応じてさまざまな流行の移り変わりがある。最近注目を集めているのは、「家」を主題とした作品群だ。
とくに家を舞台とするだけでなく、家自体の不気味さにスポットを当てているのが、「家系」ホラーの大きな特徴となっている。

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たとえば、覆面ホラー作家・雨穴(うけつ)氏のデビュー小説『変な家』はその典型例といえるだろう。同作は家の間取りに注目した新しい視点の不動産ミステリーで、もともとはWEBメディア「オモコロ」の特集に掲載されていた作品だ。

そこから自身のYouTubeチャンネルで発信を行ったところ、1200万回以上再生されるという大ヒットを記録。2021年7月には書籍化も果たし、今や累計発行部数は60万部を超えている。さらに2023年6月にはコミカライズ版も発売され、2024年春には映画の公開も控えているという。

そんな今最も熱いホラーの1つである『変な家』だが、同作はタイトル通り「家」が主人公となっている。

物語は、オカルト専門フリーライターの元に“とある相談”が持ちかけられるところから始まる。その相談とは、東京で売りに出されていた一軒の中古物件について。外見はどこにでもありそうな普通の民家なのだが、その間取りには不可解な点がいくつもあった。

台所とリビングのあいだに存在する「謎の空間」、窓が一つもない「子供部屋」……。いったい誰が、何のためにこのような家を建てたのか。
建築設計士の知人と共に推理を進めていくなかで、徐々にその家の不気味な謎が明らかになっていく。

単なるホラーではなく、読む者を飽きさせないミステリー的な仕掛けが同作の秀逸さだ。無機質な「間取り図」が徐々に恐ろしく思えてくる展開は、「圧巻」のひと言に尽きる。

同じ方向性のホラーとしては、2020年に映画化もされた『事故物件怪談 恐い間取り』が挙げられるだろう。同作は事故物件住みます芸人・松原タニシのノンフィクション書籍で、間取りを通して独特な不気味さを感じさせてくれる点が共通している。

同作で松原が綴ったのは、これまで事故物件で体験した不思議な出来事の数々。殺人犯が住んでいた家や、前の住人が続けざまに自殺した部屋、住んでいるとひき逃げに遭う部屋など、不気味な家とそれに関連する事件が“間取り付き”で紹介されている。

作品を通して感じられるのは、心霊スポットに行く「遭遇もの」にあるような派手な恐怖ではなく、“普通の部屋が実は一番怖い”という日常のすぐそばにある恐怖。一見、何の変哲もない部屋を舞台に、むごたらしい事件や不思議な出来事が語られることで、何の変哲もない間取りが急遽変貌を遂げるから恐ろしい。

2020年にNetflixで配信された『呪怨:呪いの家』も、同じ類の「家系」ホラーといえるのではないだろうか。同作はタイトルから分かる通り『呪怨』シリーズをドラマ化した作品だが、設定はよく知られている清水崇監督のオリジナル版と大きく異なる。

時代設定が話数を追うごとに進んでいく構成で、80年代後期から始まり、最終話では90年代後期に。
それぞれのエピソードは当時世間を騒がせた凄惨な実在の事件を思い起こさせるものとなっており、視聴者は強烈なリアリティを体感せざるを得ない。

オリジナル版同様、登場人物たちに理不尽な恐怖が次々襲いかかるが、この作品はあくまで「呪いの家」それ自体が主役。家という密室ならではの恐怖感や、凶悪事件の現場としての家という巧妙な設定を堪能させてくれるのが、一般的なホラー作品との違いだ。

こうした「家系」ホラーが流行した背景には、コロナ禍で家がより一層身近な存在となったことも関係しているのかもしれない。誰もが多くの時間を家で過ごすようになった現代では、家をめぐる恐怖が勢いよく伝染していく──。時代の最先端を突き進む新たなホラーの世界から、今後も目を離せない。

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