【写真】“バラエティ界のカリスマ”と呼ばれる演出家・マッコイ斉藤氏【6点】
書籍出版のオファー自体は今でも何度かあったというが、「30代とか40代で自叙伝を出すなんて、調子に乗っている感じしかない」という理由で断り続けてきた。しかし50代に突入したことで、その考えも徐々に変わったそうだ。
なぜこのタイミングで本を出そうと考えたのか? 若い世代に伝えたいこととは? 今後、メディアやお笑いはどのように変わっていくのか? “バラエティ界のカリスマ”がすべてを語った。
「普段はお笑いをやっている人間が、なにを真面目に仕事論や半生を語っているんだという照れ臭さは強かったですね。だけど、もうそんなことも気にすることもないかなと思ったんです。今の20代~40代のテレビ関係者に読んでほしいという思いもありましたし。やっぱりね、今の若いディレクターなんて俺から言わせるとナメているんですよ。あいつら、俺らがしてきた苦労の半分もしていないので。
こういうことを口にすると、『今は時代が違う』とか老害扱いされるんでしょうね。ふざけるなっていう話ですよ。お笑いに新しいも古いもないですから。何1つわかっていないやつらが時代のせいにして、本質から目を背けているだけ。
本書はテレビ制作の最前線で戦ってきた男の半生記であると同時に、章の間にはマッコイ斉藤氏が仕事を通じて獲得した思想が名言・格言としてまとめられている。このパートを読むとテレビ業界のクリエイティブ部門という特殊な世界だけでなく、あらゆる社会人にとって普遍的な“気づき”が散りばめられていることに驚かされるはずだ。
「サラリーマンだろうが公務員だろうが基本は同じだと思う。俺は周りに好かれようとするやつや上司に媚びる奴が大嫌いなんです。好かれようと周囲の顔色ばかり窺っている人間は、仕事のクオリティも低いし、結果的にそれで嫌われることも多いですしね。
特にテレビ業界というのは、群れの集団なんですよ。『誰々はあそこの班に異動したので、今度はあの芸能事務所と仲よくしなくちゃいけない』みたいな話ばかり。テレビ局は2~3年で人事異動することも多いですからね。そのたびにコロコロ態度を変える人をいっぱい見てきた。
ある意味、彼らは反面教師です。仕事が終わってから、メシとかつき合うことも俺はまったくしなかった。
このように眉をひそめながら語るマッコイ斉藤氏だが、人付き合いが悪いわけでは決してない。むしろ実際はその逆で、どんなに過酷な編集作業に追われていたとしても、どうにしかして遊ぶ時間を捻出しようと躍起になっている印象すらある。そのバイタリティは常人離れしていると言っていい。
「40代半ばくらいまでは、ろくに寝なかったですからね。俺自身は酒が飲めないんだけど、朝の6時とか7時まで仲間と飲みの場で遊んでいました。で、そのまま仕事に行ったりもしていましたよ。夜の街で知り合うのはカッコいい人たちが多かったし、実際にそれが仕事に結びつくことも山ほどありました。会議室でパソコンを広げながら会議するより、遊びの中から生まれる企画のほうが当たるというのは断言できます。結果が出るのは圧倒的にそっちですよ。
コロナ以降、ZOOM会議とかも増えたじゃないですか。でも、そこからハッとするようなアイディアが生まれることって本当に少なくて……。たとえば車に乗っていると、『面白いオバサンが歩いているな』とか『今はこんなものが流行っているのか』とか気づくことがありますよね。そこが大事なんです。外観はすごく汚いのに、なぜかいつも行列している店がある。その発想で生まれたのが『きたなトラン』という企画。“買うシリーズ”は俺が札幌で演者さんに時計を買わされたところからはじまった」
こうしたマッコイ斉藤のアプローチを“身内笑い”と批判する業界人もいるそうだ。しかし当人は「身内も笑わせられないやつが、世間を笑わせられるはずない」とどこ吹く風。「学校でも笑いは基本的に遊び人が作る文化」というポリシーを持つだけに、「ろくに遊んでもいないようなガリ勉くんが作る番組は、目も当てられないほどつまらない」と容赦なくこき下ろす。
「企画の立て方やアイディアのまとめ方ということに関していうと、あまり詰め込みすぎないことも大切かな。幕の内弁当じゃなくて、カレーだったらカレー、ラーメンだったらラーメン一本に絞ったほうがいいんです。たとえば歌番組で視聴率を取ろうと焦って、『クイズ要素も入れよう』とか『ミュージシャンにメシも食わせよう』という発想は間違い。
今やっている『芦澤竜誠と行く ぶらり喧嘩旅』(ABEMA)なんてまさにそうでした。どこでもブチ切れるという芦澤選手の得がたい才能を活かすべく、ひたすら旅しながら喧嘩しているだけですから。『この野郎!』とか吠えている旅番組って観たことなかったから、新鮮で面白いかなと思ったんです」
現在はテレビだけでなく、YouTubeの世界でも才能を遺憾なく発揮するマッコイ斉藤氏。記事後編ではテレビ業界への危機感とバラエティの未来について、忖度一切なしの剥き出しトークを展開してくれた。
(取材・文/小野田衛)
▽マッコイ斉藤
伝説的お笑い番組『天才たけしの元気が出るテレビ』でディレクターデビュー。以降、
数々の人気深夜番組を手掛け“深夜のカリスマ”と呼ばれる。近年はとんねるずの石橋貴明と「貴ちゃんねるず」を立ち上げるなどYouTube でも活躍している。