【写真】モンゴルロケも敢行、大草原の中馬を駆る役所広司、二宮和也ら【5点】
「今回の日曜劇場『VIVANT』には一部過激な制裁シーンがありますので視聴にはご注意ください」
『VIVANT』第6話は、こんなテロップで幕を開ける。え、何ですかこれ。いきなり動悸が止まらないんですけど。
テロ組織テントの決算報告会議。どうやらこの組織は世界各国で誤送金工作を実施しているらしく、その総利益は5億9780万ドルに及ぶ。だが幹部の一人が金塊を現金化する際に、相場の差額で得た利益を着服していたことが発覚。怒りに震えるノゴーン・ベキ(役所広司)は、裏切り者を日本刀でバッサリと斬り捨てる。
この<制裁>の瞬間はシルエットで描かれ、血飛沫も上がらない。個人的には、「一部過激な制裁シーン」と警告するほど過激とも思えなかった。むしろ初っ端からテロップを流すことで、観客の不安を煽る効果を狙っているのではないかとさえ思えた。トゥーマッチなコテコテ演出がこのドラマの魅力だが、第6話も期待を裏切らないスタートだ。
そして今回は、天才ハッカー太田(飯沼愛)がその天才ぶりを発揮。
それにしても、最初は誤送金事件の被疑者の一人でしかないと思われていた太田が、ここまで物語に大きく関与するキャラクターとは思わなかった。たった数時間のうちに乃木と黒須(松坂桃李)との間にバディ関係も築いていることだし、今後も別班のサポート・メンバーとして活躍する場面が見られそうだ。
ジャミーンの手術も無事成功に終わり、薫(二階堂ふみ)との仲も急接近。「どうしてくれるんですか。乃木さんのこと、もっと知りたくなっちゃったじゃないですか」とド直球な告白。二人の関係性の変化が、これからのドラマの鍵になりそうだ。
だが今回のエピソードで明かされたのは、乃木が“愛という感情が分からない人間”であること。幼い頃に両親と生き別れ、親の愛を知らないまま記憶障害になってしまった彼は、人を人たらしめる最も重要な感情が抜け落ちている。その愛という不確かな存在を知るために、彼は大金を注ぎ込んで手術費用をまかない、ジャミーンの手を握って必死にその生還を願う。
「僕は、あなたとジャミーンが一緒にいる姿を見るだけで、すごく温かい気持ちになれるんです。薫さんを見ていると、母親を思い出すんです」
薫とジャミーンの二人に、乃木は自分自身と母親の姿を重ね合わせていた。そして彼は実の父親であるベキとも会って話をしたいと、別人格のFに訴える。父に会って愛を確かめたい乃木と、テロ組織のリーダーは抹殺すべきだと語るF。二つの人格は完全に対立する。
薫という仮の<母親>と結ばれ、自らの手で<父親>を殺す物語になるのだとしたら、それはもう完全にギリシア神話におけるオイディプースの物語だ。そうと知らずに母親と結ばれ、父親を葬ったオイディプースは、エディプス・コンプレックスの語源でもある。
となると別人格のFとは、オイディプースの物語へと導こうとするFATHER(父親)の頭文字なのだろうか。乃木の中に、父親と息子が共存しているのだろうか。『VIVANT』はここにきて、ギリシア神話的な輪郭を帯び始めてきた。
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