「8050問題(7040問題)」が注目され、中高年のひきこもりが明るみになった。9月11日に放送された『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系、毎週月曜夜10時 )の9話では、中高年のひきこもりが軸となってストーリーを展開。
中高年のひきこもり問題を解決するためのヒント、そして課題が見えてきた。

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人材会社・シェパードキャリアに務める来栖成田凌)と未谷千晴(小芝風花)が、毎回様々な転職希望者と接しながら“働くことの意味”を示していく本作。9話では社長の落合洋子(石田ゆり子)の元恋人であり、10年近く引きこもりを続けている43歳の五十嵐君雄(金子ノブアキ)がメインとなる。

元小学校教師だった五十嵐。かつて担任を務めたクラスの生徒・藤川孝介(野村康太、小学生時代:井上涼太)がイジメに遭っていることを知り、なんとか手を差し伸べようと奮闘。しかし、かえってイジメを助長してしまい藤川は不登校に。
五十嵐は藤川の家を訪れ、「もしどうしても学校に行きたくないなら無理していく必要はないと思う。学校だけが居場所じゃない」「でも、どんな形でも良いから人と繋がることを諦めないでほしい」と励ますが、藤川から「学校に行けなくなったのは、先生が余計なことをしたから」と言われる。

教え子を救えなかったことに罪悪感を覚え、教師を辞めて引きこもるようになった過去を口にする五十嵐に対し、洋子は「あなたに見せたいものがある」と言ってシェパードキャリアに連れていく。そこでは引きこもりや不登校を経験した人達が集まる交流会が行われており、その中には成長した藤川の姿が。藤川は「学校だけが居場所じゃない」「人と繋がるのを諦めないでほしい」という五十嵐の言葉があったから、外に出られるようになり、今は無事に就職することができたと他の参加者の前で話していた。

その話を鏡越しで聞いていた五十嵐は勇気をもらう。
さらには、来栖から「過去は変えられません。でも未来は変えられます」、洋子から「休みながらで良いから少しずつ歩いていけばいいと思うよ」とエールを送られ、引きこもりを脱することを決意。それからは周辺整理や体力作り、家事といったできることから取り組み、徐々に社会復帰を目指そうと前を向くようになった。

いきなり五十嵐が就職活動をするのではなく、今できることから取り組むラストだったことは良かった。洋子の「休みながらで良いから少しずつ歩いていけばいいと思うよ」というセリフにもあるように、体力的にも精神的にも負担にならない範囲でやれることをやることは、社会復帰のための大切な第一歩である。“自分のペースでゆっくりと”という締め方には優しさだけではなくリアリティもあった。


前向きなエンディングだったが違和感も残る。五十嵐が一歩を踏み出すことができたのは洋子の存在が間違いなく大きい。洋子は10年近く五十嵐の家に足繫く通い、五十嵐が社会復帰するためのキッカケを作った。裏を返せば、“10年近く熱心にアプローチする誰か”がいなければ、中高年の人が引きこもりを脱することは難しいと言える。五十嵐の言葉をちょっとだけ借りるなれば、“自分と繋がることを諦めない人”の存在が不可欠と言って良い。

また、ただ単に粘り強い人、というだけでは駄目である。
五十嵐は「僕はみんなを不幸にしている。藤川も、親も、君(洋子)のことも」と口にしていたが、中高年で引きこもっている人は両親を含めて誰かしらに対して罪悪感を持っている人もいる。また、五十嵐は「君(洋子)の負担になりたくなかった」と藤川の件を洋子に一切相談しなかった理由を口にしていたが、五十嵐同様に「助けを求める=迷惑」と考え、人に頼ることに後ろめたさを覚える人も少なくない。

洋子並の根気強さに加え、罪悪感を抱き、責任感が強く、心に傷を負った人と信頼関係を築けるコミュニケーション能力も、“自分と繋がることを諦めない人”に求められる。中高年の引きこもり問題を解消するためには、専門的な知識やスキルを持った人が、長期的に携わらなければいけない。簡単な問題ではないことを痛感させられる内容だった。


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