9月29日に『葬送のフリーレン』(日本テレビ系)の1話が2時間スペシャルとして放送された。アニメは通常30分とされているが、その4倍もの時間で放送されたことには驚きである。
とはいえ、アニメの1話が30分よりも長く放送されることは珍しくない。

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2023年4月に放送された『推しの子』は90分、2020年1月に放送された『Re:ゼロから始める異世界生活 新編集版』は60分。また、『鬼滅の刃』シリーズでは、2021年12月に放送された『遊郭編』、2023年4月に放送された『刀鍛冶の里編』はともに60分だった。また、10月21日からスタートする『薬屋のひとりごと』も初回3話一挙放送が予定されている。

2話以降は基本的には30分のなるが、1話だけ長い要因として視聴者の価値観の変化が大きく影響しているかもしれない。株式会社アクロスソリューションズと株式会社オークファンが9月下旬に発表した調査結果によると、「アニメを初めて視聴する場合、何話まで視聴して継続するか否かを判断しますか?」という設問に、約6割が「第1話で判断」(59.0%)と回答した。

1話では登場人物の置かれている状況の説明、2話では登場人物の周辺の人間関係の説明が行われ、3話でストーリーが大きく動き出す傾向が強い。『魔法少女まどか☆マギカ』『Angel Beats!』などはその典型と言って良い。一昔前までは「3話までは様子見」という認識、いわゆる“3話の法則”が広まっていたが、現在は“見切り”が早くなったようだ。

というのも、現在は自宅や移動中に楽しめる娯楽があまりにも多い。アニメをはじめ、漫画、ドラマ、YouTube、Vtuber、TikTok、スポーツなど選択肢が豊富。限られた時間の中で優良コンテンツを効率的に消費しなければいけないため、現代人は3話まで待ってはいられない。


加えて、3話分見る時間を空けられたとしても、3話が放送されるまでには2~3週間待つ必要がある。しかし、次回の放送を楽しみに待っていても、様々な選択肢によって上書きされてしまう。2~3話が放送されても、余程気に入った作品でなければ続きを見ようとは思えない。

こうした傾向はアニメファンでも例外ではない。1990年代中期から多くの企業が出資してアニメを制作する“製作委員会方式”が一般化して以降、アニメの数は劇的に増えた。1990年代に放送されたテレビアニメは966本だったが、2000年台(1839本)にはほぼ倍。2010年台(2310本)も右肩上がり。2023年秋は配信などを含めると約90タイトルが始まる。どれだけアニメが好きでも90タイトルをすべて視聴することは不可能であり、筋金入りのアニメファンであっても取捨選択は必須。

アニメ以外の競合が増加しただけでなく、アニメそれ自体も本数が増加したことによって視聴者側が待ってくれなくなったため、第1話を長くすることで作品の面白さをアピールする手法が増えているのかもしれない。

『葬送のフリーレン』は“フリーレンとフェルンが旅を始めること”が軸になるが、2人が旅に出るのは2話の中盤からである。もし初回放送が30分で終わっていたら、「どういうストーリーなのか?」ということが伝わらず、1話で切っていた視聴者は多かったのではないか。
2時間にしたことで作品の方向性や魅力が伝わったからこそ、現在の盛り上がりにつながっているように思う。

テレビ放送がメインだったが、最近では動画配信サービスをキッカケに人気を集めるアニメは少なくない。テレビサイズに囚われないアニメも出ていきそうな予感がする。“アニメは1話30分”という常識は変わっていくのではないか。

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