趣里が主演を務めるNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(総合・月曜~土曜8時ほか)。第39回で、主人公・スズ子(趣里)の母、ツヤ(水川あさみ)が病死した。
SNSでは”水川あさみ”がトレンド入りし、「ツヤさん、もう少し生きていてほしかった…」「涙止まらん」など、悲しみの声があふれた。いつどんな時でもスズ子を励まし、愛し、絶対的な味方であったツヤ。そんなツヤは物語でどんな母親として描かれていたのか、これまでのエピソードを振り返っていきたい。

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ツヤを語る上で外せないキーワードは、やはり”義理と人情”だろう。ツヤは、幼き頃のスズ子に「この世は義理と人情でできている」と教えていた。スズ子は節目節目でこの言葉を思い出すことになる。
そしてツヤ自身も”義理と人情”だけではどうにもできない感情や欲に悩まされているのだ。

第1週から第3週にかけてのツヤは、スズ子から見ても視聴者から見ても、意志が強く、しっかり者のお母ちゃんだったのではないだろうか。夫である梅吉(柳葉敏郎)には厳しい態度が多かったが、スズ子や六郎(黒崎煌代)に声を荒げて怒る場面は一切ない。

どんなときでも「すごいなぁ」「えらいなぁ」と褒めて伸ばす教育をしていたツヤ。第9回で熱を出したスズ子のために、季節外れの桃を探しに行ったツヤの姿は誰の目にも子供思いの良い母親に映ったことだろう。

しかし、第4週に入るとそんなツヤのイメージが変化する出来事が起きる。
ツヤは、自分の実家でありスズ子の実母・キヌ(中越典子)がいる香川に、スズ子と六郎の2人だけで行かせたのだ。何も知らずに香川に行ったスズ子は、そこで自分が花田家の本当の子ではないと知らされる。

放送当時、SNSでは「どうしてツヤも一緒に香川に行かなかったのか」「ツヤさんの口からスズ子に本当のことを打ち明けた方がよかったのでは」といった声が多く見られた。おそらくツヤは、キヌとの約束を破り何年もスズ子を香川に連れて帰らなかった罪悪感、本当のことを知ったスズ子がキヌの元に行ってしまうかもしれない恐怖心があったのだろう。もしくは、スズ子が真実を知ることなく帰ってくる可能性もある、と淡い期待を抱いていたのかもしれない。

また、これまでスズ子に怒ることのなかったツヤが、唯一スズ子に声を荒げた場面がある。
スズ子が、梅丸少女歌劇団を離れ、「東京に行きたい」と打ち明けたときだ。いつもはスズ子のことを全力で応援していたツヤだが、このときは「あかんもんはあかん!」と大反対。てっきり応援してくれるだろうと思っていたスズ子は、ショックを受けて涙したのだった。

このあたりから、ツヤの純粋な親心とは少し違った「スズ子を自分だけのものにしたい」という”義理と人情”に背いた感情がどんどんと膨らんでくる。自らの死が近づいてからもスズ子への強い気持ちは消えることがなく、梅吉に「何があっても、スズ子をキヌに会わせんといてほしいねん」「ワテの知らんスズ子をキヌが知るんは耐えられへん」「性格悪いやろ、醜いやろ」と吐露。

こんな自分が恥ずかしくもあり、それでもどうしようもなくスズ子を愛しているというツヤの思いは、画面越しでも痛々しく鮮烈に伝わってきた。
そんなツヤを一見頼りない梅吉が「ツヤちゃんは最高の母親や」とまるっと受け入れるところも大きなポイントで、ツヤが”母親”の荷を下ろし一人の”人間”として対峙できる相手は梅吉だけだったのかもしれない。

ドラマや映画に出てくる”理想の母親”は、心優しく穏やかで器の大きい人物として描かれることが多い。しかし、ツヤは自分の弱さやずるさを度々吐露し、認めていた。見方を変えれば、後半のツヤの言動は、実母から子を奪った酷い義母、子離れができない独占欲の高い母親として捉えられていた可能性もある。しかし、水川あさみの巧みな演技と、スズ子と六郎、そして梅吉のツヤへの信頼が伝わる脚本・演出で、視聴者からは「ツヤの気持ちがよく分かる」「人間らしくていい」という声が多く見られた。

完璧に見える母親でもちっぽけな一人の人間であること、時には子を愛するが故に己の感情と戦っていること…これまでの朝ドラで描かれることのなかった”子供には見せられない母親の葛藤”に心動かされた人も多かったはず。


視聴者の心を掴み、スズ子にとっての”完璧な母親”を全うしたツヤ。これからもツヤは、軽快な口調とパワフルな笑顔で、ステージで輝くスズ子を見守っていることだろう。

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