【写真】武道館で晴れ着姿でポーズを取る令和のプ女子代表・まつきりな
会場に大音量の般若心境が響き渡った。
スポットライトに照らされて登場した白装束の姿を見た瞬間、心を鷲掴みにされた。
初めて行った未知の現場で、私に「推し」ができた瞬間だった。
12月2日、48歳にして、私は生まれて初めてプロレスを観戦した。
訪れたのは、横浜武道館で開催されたNOAHのNOAH the BEST 2023。
と、今「NOAHの」と書いたが、NOAHがなんであるかもよくわからないほどの超初心者だ。とりあえず、プロレスの団体ということしかわからない。
なぜ、プロレスに初参戦したのか。それは私が30年以上推してきたのがヴィジュアル系バンドということによる。耽美で儚く色白王子様系の派手髪厚化粧男性が繰り広げるめくるめくデカダンスな世界。筋肉とはもっとも遠い彼岸である。
さて、プロレスと聞いてあなたが想像するのはどんなものだろう?
私にとっては、赤いパンツにガタイのいいおじさん、飛び散る汗とムキムキの裸体、暴走するテストステロンとゴリラ顔(本当にすみません)というイメージだ。「蘇民祭」のポスターのような世界というのもある。「濃い胸毛」や「髭面」が「不快感を与えかねない」として駅へのポスター掲示を断られた伝説の祭りだ。
あとは大仁田厚の暑苦しい泣き顔というところだろうか。地球温暖化が進む中、どう考えても体感温度が上がるようなジャンルで夏には遠慮したいが今は冬。また、大槻ケンヂ氏はじめ、私の好きな文化人にはプロレス好きが少なくない。おそらく、初心者にはわからない魅力があるのだろう。その魅力を、いつかは理解したいという思いもあった。
ということで、初参戦に先駆けてNOAHの「ゲスト解説」であるタレント・まつきりなさんにプロレスの魅力を聞かせてもらった。
ちなみにまつきさんのプロレス歴は2年。世にプロレス好きを豪語する人はあまた存在するが、その多くが「この道50年」「語るなら猪木から」というような猛者揃いのイメージだ。
その上、プロレスへの思いが強すぎるファンってなんか常に感極まってるイメージがある(偏見)。それよりは、もっとライトな感じで「現場の楽しみ方」を教えてほしい。ということで、さまざまな場でプロレスの魅力を発信しているまつきさんに話を聞かせて頂いたのだ。
ちなみにまつきさんが試合を見たのは番組ロケでのこと。もともとマッチョ好きだったわけでもなく、「むちむちのおじさんたちが戦ってるイメージ」という、私と同じような印象を持っていたという。しかし、初観戦でまんまとプロレス沼にハマったそうだ。どの辺がよかったのだろう??
「ものすごく華やかな世界なんです。プロレスラーの方はリングに登場する時、それぞれ個性ある衣装で登場するんですが、それがカッコいい。それも、すごい人が来るぞ!って感じのオーラのある衣装なんです。入場の瞬間で、その人がヒールなのかヒーローなのかもわかるんです」
ヴィジュアル系で言えば、メンバーがステージに現れる瞬間だ。あの時ほど、ゾクゾクするものはない。
「ストーリー性もあります。その人がどういう思いをしてベルトを獲って、でもそれを奪われて…とか、見ていたら徐々にわかってくるんです。それが面白いですね」
ほう…そういうストーリー、重要だ。というか、大好物だ。ヴィジュアル系にも、苦労話や「〇〇は〇〇の後輩でローディーをしていた」なんて歴史があり、そういうことを知れば知るほどハマっていくし、なんならそういうストーリーが醍醐味だ。
ちなみに、私の中でのプロレスは昭和のイメージで止まっているのだが、最近は「赤いパンツのおじさん」だけでなく、レスラーの中にいわゆる「イケメン」や「イケオジ」も多いという。
「イケメン」という言葉に急に前のめりになった私に、まつきさんは優しく「ディズニープリンスみたい」な選手や「白馬に乗ってそうな」選手、「細マッチョ」な選手について教えてくれた。名前が出るたびスマホで検索すると、出てくるのは私の思うプロレスラーとはほど遠い見た目の男性たち。大仁田臭ゼロで、韓国アイドルっぽい人もいる。え、この人たちがプロレスするの? 少しずつ上がっていく、私の期待値。
さて、現場に行くにあたって確認しておきたいのは「ファンサ」についてだ。
「試合前にサイン会が必ずあります。一緒に写真も撮ってくれるし、Tシャツなどのグッズを買ったらサインを書いてくれます。あと、プロレスは試合が多いので、会える回数か多いのもいいですね」
それはなんともありがたい。NOAHに限らずプロレス団体は常に全国を回っているようで、「なかなか推しに会えない」なんて悩みはないようだ。ファンの中には、全国巡業を追っかけている人もいるという。やはり「全通の民」はどの業界にも存在しているのだ。
そんなプロレスの世界だが、レスラーを推す魅力をまつきさんに聞くと、「やっぱり、目の前で同じ人間が命懸けて戦ってる姿を見るのが楽しいですね」とのこと。
また、ヒール役のレスラーがサイン会だと優しかったりというギャップ萌えもあるらしい。「マイクがうまい選手」を見るのも楽しいという。リング上の喋りがエモいと、確かに盛り上がるだろう。MCや煽りがうまいボーカルがいるバンドは人気が出るのと同じ構図だ。
そんなプロレスで驚いたのが、年齢層の広さ。なんと現在、最高齢の選手は80代だという。我がヴィジュアル系天地創造の神であられるYOSHIKIは50代。年齢層の広さに関しては完敗だ。それにしても、10代から80代までもが同じリングで戦える世界って、すごい。夢がある。(後編に続く)
【後編はこちら】作家・雨宮処凛が初めてプロレスを観戦してみた“人が誰かを推す原点”を再確認