現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』。ドラマの魅力の一つが、スズ子が歌い踊る舞台シーンだ。
これまで『ラッパと娘』『大空の弟』『アイレ可愛や』『東京ブギウギ』など、笠置シヅ子の名曲が次々に披露された。回を重ねるごとに進化するスズ子のパフォーマンスシーンへのこだわりを『ブギウギ』制作統括・福岡利武チーフプロデューサーに聞いた。

【写真】海軍基地で『別れのブルース』を唄う茨田りつ子(菊池凛子)

「撮影していると、みんなとても見入っちゃうんですよね。どのステージも面白くて魅力的で。あそこまでしっかりした舞台人としてのステージになったのは、趣里さんの歌と踊りの努力があってのことだと思います」

趣里は、イギリスにバレエ留学をしたこともある一流の表現者だ。とは言え、コロコロと表情を変えながら歌い踊るのは簡単なことではなかっただろう。

「歌い始めから終わりまで、カメラを止めずに撮影していました。取り直しをする時も、途中からだとリズムが崩れてしまうので頭からもう一度撮影しています。それを何回か繰り返すので体力的にはすごく大変だったと思います」

USK時代から華やかな舞台シーンが多かった中で、第49回で披露された『大空の弟』は強く記憶に残っている。『大空の弟』は音源や映像が残されていない幻の曲。今回の舞台シーンは、2019年に見つかった楽譜を元に制作された。

「楽譜が見つかった時点では、まだ『ブギウギ』の構想はありませんでした。
ですが、『ブギウギ』をやると決まったときに、『大空の弟』の場面は入れたいと思いました。家族の物語にしたいと思っていましたし『大空の弟』はとても素敵な家族のエピソードですからね」

手紙を読み上げるように六郎への思いを歌うスズ子の姿は大きな反響を呼び、一音一音噛みしめるようなピアノ演奏が、戦争への静かな怒りや、弟・六郎の死に対するやるせなさを引き立たせていた。

「(音楽を担当する)服部隆之さんと、『大空の弟』をどういう形で歌うかご相談しました。そこでピアノ一本の方が、弟としっかり対話できるような歌になるんじゃないかと言っていただいて。趣里さんにも、綺麗に歌うというよりも、六郎を思って歌うことを大切に歌っていただきました。見に来ているお客さんの中にも戦争で家族を失った人が沢山いるので、その人たちのためにも歌う、という思いで歌っていただけたのが良かったなと思います」

また、スズ子だけではなく、菊地凛子演じる茨田りつ子の歌唱シーンも印象的だ。特に第66回で特攻隊員の前で披露した『別れのブルース』は、特攻隊員の真っ直ぐな眼差しや「思い残すことはありません」というセリフも相まって、号泣必至のステージであった。

「特攻隊員のことをちゃんと思って歌っているということが伝わらないといけないので、台本の作り方もすごく気を遣いました。特攻隊員役の俳優の皆さんには特攻隊員であることがどういうことなのかを、資料や映画で見てほしいと伝えました。俳優の皆さんはすごく勉強をしてきてくれて『初めて知ったことばかりでした』『20歳前後の人たちがこんな思いをしていたことを知れて良かったです』と言ってくれました。その結果、しっかり特攻隊員としての眼差しを表現できたのだと思います」

第69回ではりつ子が『別れのブルース』をフル歌唱し話題となった。15分という限られた放送時間の中で、フル歌唱に踏み切った理由は何だったのだろうか。


「ドラマ制作者のイージーな考え方で言うと、『歌で一話持てばお得だな』っていうのもあるんですが(笑)、よくよく考えると歌だけで話を面白くするのは至難の業でもあります。僕はそういう回もあれば面白いだろうなと思っていたんですが、思った以上に見た方が面白いと言ってくださって。ドラマだけど歌で感動したって言われるとなんだかとても嬉しい気分になりました」

数々の名曲に乗せて届けられる、リアルな痛みや喜び、大切な人への思い。毎回大きなインパクトを残す舞台シーンには、俳優や制作陣の努力とこだわりが詰まっていた。そんな“舞台裏”に思いを巡らすのも『ブギウギ』の楽しみ方の一つかもしれない。

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