実録映画の金字塔『仁義なき戦い』がAKB48グループによって舞台化される。11月9日(土)から24日(日)まで博多座で上演される舞台で主演の広能昌三役を務めるのが岡田奈々(AKB48/STU48)だ(横山由依とWキャスト)。
岡田はファンの間では、常に全力投球、言動にブレがない筋道通った真面目なメンバーとして知られている。AKB48グループの中でも最も仁義を重んじていると言っても過言ではない彼女に『仁義なき戦い』への思いを語ってもらった。
──稽古前に映画『仁義なき戦い』を初めて観たということですが、率直にどう感じました?

岡田 内容が複雑すぎて、1回じゃ理解できませんでした。登場人物も多いですし、人間関係が入り組んでいるし、言葉遣いも特殊じゃないですか。広島弁もコテコテだし、任侠の世界特有の文化もあって。「どういうこと?」って最初は意味がわからないこともありました。

──そもそもアイドルが任侠をやるということ自体、ムチャ振りですから。

岡田 ただ、そこに関する抵抗感はなかったかもしれない。というのも、これまでも48グループってアイドルらしからぬことをたくさんやってきましたから。ヤンキー、キャバクラ、プロレス……。なので今回もとうとう来たかとは思いましたが、衝撃を受けたというほどではなかったです。

──STU48で活動しているから、広島弁に違和感はなかったのでは?

岡田 確かに広島弁に馴染みは深いんですけど、ディープさが全然違う(笑)。
昔の話だから、おじいちゃん・おばあちゃんが使っているような広島弁だし、呉と広島ではまたちょっと違うらしいんですよね。STU48の地元出身者も「これは、ちょっと分からないね」って苦笑いしているくらいですから。広島弁を矯正してくれる先生もいるんですけど、今もかなり苦労しています。

──舞台の内容は、かなり映画を忠実に再現しているのだとか。

岡田 そうなんですよ。だからこそ、難しい部分はありますけどね。いつも私は演じるとき、その役になり切るところから始めるんです。だけど実在した人物に自分自身を置き換えるって、ものすごくハードルが高い作業で。しかもストーリー上、周りでは裏切りや妬みが渦巻いていて、仲間たちがどんどん死んでいく……。この世界観に本気で入り込むと、自分の心がつらすぎる(笑)。でも、そこで救いだったのは広能昌三という人物に共感できたこと。すごく不器用だけどまっすぐで、そこは私にハマるんじゃないかと思ったんです。


──愚直だけど誠実という意味で、広能と岡田さんは似ている気がします。

岡田 アイドルとしての岡田奈々もブレない生き方を意識していますし、ファンの方も私が演じる広能昌三に感情移入しやすいと思うんです。この作品は「仁義なき」とタイトルにもあるように、道理も仁義もない世界を描いているわけです。報われない話ですよ。そんな中で組織に入った広能は親父さんに忠誠を誓い、自分なりの正義を貫こうとする。私自身がAKB48に入ったとき、「よし、今から自分はここで頑張っていくんだぞ」と気合を入れたことを思い出しますね。いずれにせよ、私はアイドルの世界で仁義を貫き通したいんです。

AKB48岡田奈々『仁義なき戦い』を語る「アイドルの世界には仁義は必要だと思います」


──アイドル界の仁義とは、どういった内容になるんでしょうか?

岡田 48グループは山守組みたいな巨大組織だから、当然、そこにはいろんなメンバーのいろんな思惑があるわけですね。どれが正解だかわからないけど、私としては自分のグループを大事にして、仲間を大事にすることを第一に考えています。『仁義なき戦い』が悲しいのは、「正義は必ず勝つ」という理想論が成立しないところなんですよね。裏切って仲間を殺すような登場人物が最後は笑っていたりする。アイドルの世界はそんなことがあってはいけないし、まっすぐ頑張っている人が報われるべきだと思います。
だからこそ、アイドル版の仁義が必要なんです。

──『仁義なき戦い』は集団群像劇ですが、AKB48グループという組織の中で板挟みになったことは?

岡田 ありますね。たとえば私の場合はAKB48とSTU48の兼任をさせてもらっているので、後輩が私に相談したくても、現実的になかなか会えなかったりするんです。そうすると、力になれない自分がもどかしくて……。私も入ったばかりの頃は先輩に頼ってばかりいたんですよ。気がついたら自分は7年もAKB48にいて、先頭に立って引っ張らなくちゃいけない立場になったけど、果たしてそれができているのかなって考え込むことはあります。

──その苦悩、まさに広能昌三そのものじゃないですか(笑)。

岡田 『仁義なき戦い』の中では、坂井鉄也と新開宇市が同じ組の中で対立し合うじゃないですか。あれも結局はちょっとした誤解というか、ボタンの掛け違いが始まりだったと思うんです。でも大人数のグループで活動していると、そういう誤解ってどうしても出てきちゃうんですよ。そこで私がどちらかの意見に肩入れしたら、収拾がつかなくなる。だから、両方の意見を公平に聞かなくちゃいけない。
でも、それには時間が足りない。身体が2つ欲しいくらいです。本当に悩みは尽きないですよ。

──気がついたら、中間管理職的な立場になっているわけですね。

岡田 後輩から「岡田さん、私たちはこう考えているからスタッフさんに伝えてください」って相談されることもあるんです。だけどスタッフさんはスタッフさんで、プロとして全体の流れを考えながら指示を出しているわけじゃないですか。私は両方の立場が理解できるんですよ。こういうとき、広能昌三だったらどうするか? おそらく親分側の意見を尊重するはずなんです。なんのかんの言って、最初に自分を救ってくれたのは親分ですから。だけど、私はそこでメンバー側の意見に立ってしてしまうんです。自分自身がメンバーである以上、どうしても基本の目線はそっちになりますよね。

──これは完全に妄想質問なのですが、『仁義なき戦い』のキャラクターたちがAKB48総選挙に参戦したとしたら、岡田さんは誰が1位になると思います?

岡田 おそらくですが、広能昌三と若杉寛が1・2位を争う展開になると予想します。
というのも、アイドルファンの方って基本的には純粋にまっすぐ頑張っている子を応援する傾向があると思うんです。『仁義なき戦い』でいえば、それが広能と若杉の兄貴。とにかく若杉は渋いんですよね。何事にも動じず、「俺についてこい」と背中で語るタイプ。もちろん仁義も重んじる。広能自身、若杉に憧れて任侠の世界に身を投じた部分もありますしね。伏兵としては坂井鉄也も正義感が強いから、アイドルファン的からは応援されやすいタイプだと思います。「僕たちが支えないと」という気持ちが働きやすいんじゃないでしょうか。

──なんとも岡田さんらしい答えです。

岡田 ……というのが私の予想というか理想なのですが、現実には山守義雄みたいに姑息な駆け引きを使うタイプの人が上位にランクインするかもしれないですよね。あるいは総選挙スピーチでウソ泣きを連発する槇原政吉とか(笑)。そういうのは私、見たくないんですよ。
やっぱり最後まで仁義がまかり通るAKB48グループであってほしいですから。

──なるほど(笑)。舞台に話を戻すと今回の舞台はWキャストということでも注目されています。そのことでプレッシャーを感じることは?

岡田 もう一方で広能を演じるのが横山由依さんで、私からすると大先輩ですからね。ただ、あまり過剰に意識することはないかもしれない。私も横山さんも持ち味が全然違うから、それぞれ別の広能像ができるはずなんです。だから、もし可能なら両方のバージョンを観ていただきたいです。横山さんがデーンと構えた貫録のある広能だとしたら、年齢的に下の私は組織に入ったものの後輩の期待に応えきれずに葛藤を抱えている広能。主役の広能が違うということで、舞台全体の雰囲気もガラリと変わってきますから。

──岡田さんの出番以外で、注目すべきポイントはありますか?

岡田 ぜひとも観ていただきたいのが、田島芽瑠ちゃん演じる山守義雄! すごいですよ、あの演技は。本当に笑っちゃうし、芽瑠ちゃんしかできないオリジナリティがある。私は芽瑠ちゃんとは別の回に出演するんですけど、一緒にやることになったら、笑っちゃって自分の演技ができないかもしれない。

──ただ演技的な話をすると、山守義雄って相当難しい気がします。イヤらしくて狡猾な親分の役ですから。

岡田 そうなんですよ。だけど芽瑠ちゃんの山守はずる賢さがバッチリ表現できているうえに、人を転がす才能があるんです。すぐに泣いてすがりながら、自分のいいように持っていくところとか。だけど、どこか憎めない感じもある。芽瑠ちゃんはアドリブとかも好きなタイプなので、本番中にセリフをコロコロ変えるかもしれないですし。とにかく映画の山守とも違う独特の味わいがあるので、そこは本当に観てほしいですね。

──原作小説や映画の『仁義なき戦い』は今でも絶大な人気を誇っています。今回はアイドルに興味がない層からも注目を集めることになるかと思いますが。

岡田 女性が『仁義なき戦い』を演じるという時点で、原作ファンの方は想像もつかないと思うんです。そこに対する不安を吹き飛ばす意味でも、今、私たちは必死で稽古をしている最中。セリフ回しなどは映画版から忠実に再現されていますし、オリジナルが好きな方もガッカリさせないような内容に仕上がっているはずです。映像にはない舞台ならではの迫力もあるし、それに加えてレビュー48というスペシャルステージも用意しています。ぜひ劇場に遊びに来ていただけたらと思います!
▽岡田奈々(おかだ・なな)
1997年11月7日生まれ、神奈川県出身。A型。ニックネームは「なぁちゃん」。AKB48の14期生。STU48 キャプテン/AKB48 Team4兼任。
AKB48岡田奈々『仁義なき戦い』を語る「アイドルの世界には仁義は必要だと思います」

▽AKB48グループ特別公演
日程:11月9日(土)~24日(日)
場所:博多座
【第一部】仁義なき戦い~彼女(おんな)たちの死闘篇~
脚本:上條大輔/演出:奥秀太郎
原案:飯干晃一「仁義なき戦い」(角川文庫刊)
原作:1973年「仁義なき戦い」(東映)  監督:深作欣二/脚本:笠原和夫
出演
AKB48:岡田奈々、小栗有以込山榛香谷口めぐ、福岡聖菜、向井地美音武藤十夢、横山由依
SKE48斉藤真木子須田亜香里高柳明音、谷 真理佳、古畑奈和
NMB48:東 由樹、加藤夕夏、川上千尋、白間美瑠村瀬紗英山本彩加、吉田朱里
HKT48:秋吉 優花、上野 遥、熊沢世莉奈栗原紗英、神志那結衣、堺 萌香、坂口理子、武田 智加、田島芽瑠、田中美久、豊永阿紀、松岡菜摘松岡はな、水上凜巳花、村重杏奈山下エミリー
NGT48荻野由佳清司麗菜、中村歩加、西潟茉莉奈、西村菜那子、本間日陽
STU48:石田千穂今村美月岩田陽菜、沖 侑果、瀧野由美子
【第二部】あんみつ姫プロデュース レヴュー48
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