【写真】最新作『プレゼントでできている』が好評の矢部太郎
──3年ぶりとなるコミックエッセイ『プレゼントでできている』は、プレゼントによる人と人との繋がりを様々なエピソードを通して描いていますが、どうして“プレゼント”をテーマにしようと思ったのでしょうか。
矢部 引っ越しをすることがあって、断捨離して物を減らさないといけないとなったときに捨てづらいものがあって。それって大体は誰かがくれたものだったんですよね。自分が買ったものは、また買えばいいですけど、人からもらったものって、いつまでも減価償却できない気がして、この気持ちって何だろうと思ったんです。
──プレゼントには思い出もありますからね。
矢部 もらった人のことを思い出すじゃないですか。それをマンガにしたら減価償却できるんじゃないかというところから始まって、いろんな思い出の品を連作形式で描きながら、「そもそもプレゼントって何だろう?」というような、広い意味でプレゼントについて考えを深めていきました。
──もともと、ものは捨てられないほうですか?
矢部 そうですね。以前、発酵コーディネーターの方の家にロケに行ったとき、3歳のお子さんが会った瞬間に紙きれをくれたんですが、今日はそれを持ってきたんです。
──絵が描いてありますね。
矢部 「何を描いたの?」と聞いたら、「雨」という答えだったんですが、なぜ僕に雨の絵をくれたのかが不思議で、その日は別に雨でもなかったので、すごく謎だったんです。これも捨てられないんですよ。いつ捨てたらいいんですかね……?
──確かに捨てにくいですね……。
矢部 ですよね……。だから今も取っておいているんです。ただ約20年前、実家を出て初めて一人暮らしを始めるときに、次長課長の河本さんから冷蔵庫、ベッド、大・小の宝箱をいただいて。冷蔵庫とベッドは今も使わせていただいているんですが、小さいほうの宝箱は捨ててしまって。そのことを楽屋で一緒になったときに、河本さんに話したら、全く覚えてなかったんですよね。捨てるときは申し訳ない気持ちだったんですが、あげたほうからすると、そんなもんか、みたいな。
──先輩からもらったものだから、捨てるのは逡巡しますよね。
矢部 思い返すと、河本さんも同じ時期に引っ越しがあって、捨てるのもお金がかかるし、持っていってもらったほうが助かったんじゃないかなと。でも、もらった側はお返ししなきゃとか、これは捨てちゃ駄目なんじゃないかみたいな気持ちが残る。
──お仕事柄、プレゼントをもらう機会も多いと思います。それを一つひとつ捨てられないとなると、溜まる一方ですよね。
矢部 そうですね。いつか何かの役に立つんじゃないか精神が、役に立たなそうなものにもあって。実際、この職業ってどこかで役に立っちゃったりもするから、捨てられなくて困るんですよね。今回のマンガもそうですけど、エピソードトークにもなるし、資料として「それお借りできますか?」と言われることもあるし。
──矢部さん自身、誰かにプレゼントするのは好きなんですか?
矢部 好きだったんですけど、ある時期にセンスがないってことに気付いて……。
──『プレゼントでできている』に出てくる矢部さんのプレゼントは奇をてらったようなものが多いですよね。
矢部 自分では奇をてらっているつもりはなくて。本当に良いものだと思ってあげているんですけど、「いらない」って言われることが多くて……。
──この世界に入る前からプレゼントは好きだったんですか?
矢部 絵や紙粘土で作ったものなど、手作りのものをあげるのが好きでした。自分では喜ばれていると思っていたんですけど、実際にもらった人はどう思っているのかは分からないですよね。ただ芸人の世界で言うと、たとえばお見舞いとかで、あえてボケで変なものを持っていくこともあるんですよね。「いらんわ」「今これ使えんわ」みたいなツッコミがあって、その場がワーッと盛り上がればOKというか。いわばボケのプレゼントみたいな。
──矢部さんが井森美幸さんにあげたキツネのお面が、三瓶さんを経由して、後輩芸人の家にあったことに気付くエピソードがありますが、あれもウケ狙いだったんですか?
矢部 お面はマジだったんで凹みました。僕があげたその日に三瓶くんにわたり、さらに三瓶くんから、違う後輩芸人に引き取られていて。そのことを井森さんにあげてから数年後に知ったので、本当にショックでした(笑)。ただ、その後輩芸人は気に入って飾っていたので、結果的に一番良い場所に落ち着いて良かったです。
【後編はこちら】矢部太郎が明かす、板尾創路からもらった謎のプレゼント「もらう・あげるの繰り返しが人生」