主催はももいろクローバーZ、私立恵比寿中学などが所属する事務所STARDUST PLANET。しかも2回目となる今回は他事務所のグループも参加。その衝撃は、他流派、他格闘技の参加を認めた極真空手のオープントーナメントのようなもの。ヒリヒリ感は1回目よりも増し、会場は他のイベントでは見られないある種、異常とも言える熱気に満ち溢れていた。今回はこのイベントを成り立ちから振り返るとともに、その魅力と可能性を探りたい。
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アイドル同士が熾烈なガチンコバトルを繰り広げるライブイベント「ライブスタイルダンジョン vol.2」が、10月3日(木)に新宿BLAZEで開催された。アメフラっシ、桜エビ~ず、はちみつロケットというSTARDUST PLANETに所属するグループに、アップアップガールズ(2)、monogatariという他事務所のグループを言わばオープン参加として受け入れた今回のイベント。参加する全5組による総当たりのリーグ戦は、スリリングで終始興奮みなぎる熱戦が繰り広げられた。
そもそも「ライブスタイルダンジョン」はスターダストプロモーションのアイドルセクションSTARDUST PLANETが立ち上げたライブイベント。今年5月24日に第1回が開催され、桜エビ~ずが大会を制した。桜エビ~ずのマネージャーであるスターダストプロモーションの藤井ユーイチ氏はこう語る。
「元々うちの部で、東京在住の若手グループを集めて『スタプラ東京』とか、イベントをやっていたんです。そういう中から、『フリースタイルダンジョン』のアイドル版みたいなイベントをやらないかって話が出てきたんです。面白そうだし、桜エビ~ずもやっと戦えるようなグループになってきたので参加しようってことになりました」
だが、遡ること3年前に「ライブスタイルダンジョン」の源流とも取れるイベントが行われている。2016年1月にさいたまスーパーアリーナで開催された「俺の藤井 2016 in さいたまスーパーアリーナ ~Tynamite!!~」の1日目公演「第1回 ワンデイワールドリーグ戦」がそれだ。
ももいろクローバーZ、私立恵比寿中学、チームしゃちほこ、たこやきレインボーなどスターダストプロモーションに所属するグループ8組がバトルし、勝利したグループが2日目公演のトリを務めるというものだった。このときは、観客の声援の大きさで勝敗が決められたが、「ライブスタイルダンジョン」では審査員の判定で勝敗が決まるという点が大きく違っている。
「あれ(「俺の藤井」)はあれでよかったけど、どうしてもオーディエンスの声援で決めるとなると曖昧な部分も出てくるじゃないですか。だったらちゃんと識者の人に決めてもらおうってことになったんです。審査員がいる時点でどのグループへの偏りもなくなるので」(同前)

桜エビ~ず(10月3日に行われた「ライブスタイルダンジョン vol.2」より)
審査員制の導入されたことによって、会場に来ているファン数の差に左右されることなく純粋にその日のステージ、パフォーマンスで勝負が決定するというのは実に公平性がある。バトルの形式は、各グループが総当たりで対戦していき各対戦ごとに審査員が良かったと思う方のグループに勝利ポイントを投票。勝利ポイントの多いグループが勝ちとなり、イベントを通じての勝利ポイント数の合計で優勝が決まる。
そもそもラップのフリースタイルバトルは、対戦者同士がラップで戦い、内容とスキルで競って勝敗を決めるヒップホップの文化の上で成立しているもの。
「アイドルで数字が出るのはオリコンのチャートや動員数。パフォーマンスに勝ち負けをつけるのは、まず無いですよね。(パフォーマンスに勝敗がつけられる『ライブスタイルダンジョン』は)だからこそみんな必死になるし、いいパフォーマンスになるし、それって必要なことだと思うんです。普通の対バンだと、終わったあとにお客さん同士が今日はうちが優勝だとか話すことはあっても、目に見える勝敗は出ないですよね。実際にそれを可視化することにきっと意味があると思うんです。観ている人もそこに面白さを感じていただいていると思うんです」(同前)
ある意味タブーなラインを踏み越えることで、ギリギリのマインドで最高のパフォーマンスを見せなければならないのだから当然メンバーに負荷がかかってくる。しかし、プレッシャーを跳ね除けたところで、素晴らしいものを発揮するというのは確実にあることだ。
「どこのグループでもそうじゃないかな。負荷がかからないところでパフォーマンスしてても、伸びなかったり、面白いものは生まれない気がするんですよね」(同前)
そうした勝ち負けを含みながらも楽しいエンターテイメントとして成立しているところが、「ライブスタイルダンジョン」の唯一無二の面白さのように感じる。

monogatari(10月3日に行われた「ライブスタイルダンジョン vol.2」より)
さて、今年5月に開催された第1回は、スタプラ所属のグループの戦いだった。
「前回は、初めてで全部が手探りだったんですよ。どんなものになるかわからなくて、泣いてる子も多かった気がしますね。桜エビは優勝しましたけど、こんなに嫌な思いするのかがわかったのが前回で、あの思いをしたくないっていうのが2回目にはありましたね」(同前)
そして迎えた第2回目は、スタプラ内だけでなく、外部のグループも交えたオープン制の大会となった。スタプラから、アメフラっシ、桜エビ~ず、はちみつロケット、外部の事務所からアップアップガールズ(2)、monogatariが参加。スタプラの枠を超えて、「ライブスタイルダンジョン」がアイドルシーンのネクストカミング的な勢いのあるグループによる戦いの場となったのだ。
今回のバトルゲスト審査員は、Avecoo(振付師)、井上朝夫(HUSTLE PRESS編集長)、竹中夏海(コレオグラファー)、近田春夫(ミュージシャン)、吉田豪(プロインタビュアー)の5名。スペシャルMCは、前回に引き続き玉井詩織(ももいろクローバーZ)と、真山りか(私立恵比寿中学)が担当し熾烈なバトルを進行した。
では、参戦した各グループの当日のステージングについて触れていこう。
monogatariは、ハードかつソリッドなサウンドで、気迫溢れるパフォーマンスを展開。しなやかさと力強いを織り交ぜたダンス、伸びやかなボーカルは輝きを放っていた。
アプガ(2)は、ポップさと勢いを見せて会場を沸かせる。
はちみつロケットは、シリアスな戦いの中で笑いの要素を入れるという他と別の角度からの戦法。楽しい内容で戦いながらも、最後にビシッとしたステージで実力を見せつける。
アメフラっシは、結成から1年を経てグループとして基盤が固まり上に向かっている状態。ビシッとした歌とダンスは、目を見張るものがあった。正攻法の攻めっぷりは、観客を惹きつける気合いたっぷり。
桜エビ~ずは、今まさに急成長を遂げているグループ。グルーヴ感溢れるポップチューンやグッと聴かせる楽曲などを歌唱し、ディフェンディングチャンピオンの名に恥じないパフォーマンスを見せてくれた。
実際にステージを見ると、どのグループも実力伯仲。白熱の接戦という言葉がぴったりとハマる展開となった。イベントとしても、次から次へと違ったカラーの楽曲とパフォーマンスが披露され、さらに勝負論も加わることで、普段以上にそれぞれのステージを見入ってしまう感覚になれた。

アップアップガールズ(2)(10月3日に行われた「ライブスタイルダンジョン vol.2」より)
また、勝負というフィルターを通すことによって、改めてライブは生ものだというのを痛感させられた。
アイドル側は総当たりの4戦となるので、4曲に気合いを込めなければならない。先攻後攻の妙もあれば、どの曲をどの対戦相手にぶつけるのかという選曲の難しさも出てくる。それぞれのグループに切り札的な楽曲があり、それをどんなタイミングで使うのかというのも興味深い。さらには、イベント自体の時間軸というのも存在する。つまり、横軸と縦軸で練られた曲順というのが大事になってくるのだ。これはかなりの頭脳戦のバトルでもある。
スタッフもメンバーも、対戦前からすでに戦いが始まっていたと受け取っていいだろう。また、1曲披露して時間を空けてまたステージに出て戦うのでかなりの集中力も必要となってくる。しかも優勝は獲得ポイントの合計になるので、5-0で勝つのと3-2で勝つのではまた意味合いも変わってくる。
「正直、今回、僕の中では負ける要素がゼロだったんですよ。前回は、スタプラ内の戦いだったので、一番アメフラっシを警戒してたんです。なぜなら、歌とダンスに関してはうまいのはわかってたから。でも前回の対戦で勝てたので、アメフラを警戒するところまで自分の考えが及んでなかったんです。それよりも、外部のチームが気になってましたね。monogatariは歌も踊りもうまい、アプガ(2)も鍛えてるだろうとかそっちを警戒して、曲の当て方も考えたんです。あと、バチバチのセトリだと前回と同じになっちゃうので、今回2曲変えて新曲2つを入れたんです。でも、新曲のパフォーマンスがまだ追いついてなかったんですよね。それでも勝てるだろうって思ったのは、僕の慢心ですね(笑)。あと僕、誰に対してどの曲をぶつけるかって切り口しか考えてなくて、順番を気にしてなかったのもまずかったなと。アメフラっシとの対戦でうちが負けて潮目が変わっちゃって思いました。でも、それがイベントとしては逆に面白いなと思っちゃいましたね」
ハードなデッドヒートを征し、「ライブスタイルダンジョン vol.2」で見事優勝を勝ち取ったのはアメフラっシ。確かに、彼女たちのパフォーマンスの気迫、1戦ごとに自信をつけて観客を魅了していく姿は神々しさすら感じ取れるほどだった。

はちみつロケット(10月3日に行われた「ライブスタイルダンジョン vol.2」より)
「いやー、アメフラには負けましたね。鬼気迫るようなパフォーマンスだった。やっぱり、前回負けたのが結構悔しかったみたいですね。桜エビと戦ったときに歌った『STATEMENT』って楽曲も、自分たちの信じた道を突き進む的な曲だったんですよ。メンバーの気持ちも乗ってるように思えたし、勝つためにすごい準備してきたんだろうなと思いました。やられたって感じですよ」(同前)
前回チャンピオンの桜エビが、今回優勝できなかった理由についても聞いてみた。
「誰にどの曲を当てるかの選曲ミスが響きましたね。あと、さっき言ったように、今回桜エビは曲の幅を見せて勝つってことをしたかったんですよ。でも、そうは問屋がおろさなかったですね。僕はお客さんとかイベント全体のこと考えてしまったけど、やっぱり勝ち負けがイベントの核なら、勝ちにこだわった方がよかったなって今さらながら思います。2連覇しようとしてたのに、なかなかうまくはいかないですね」(同前)
どのグループにも勝つ要素はあったが、この日最高潮にベストなパフォーマンスを見せられたアメフラっシが勝利を収めた。これは、多くの観客も納得できたことだろう。イベント自体も、戦い終わってノーサイドといった爽快感すら感じることができた。
リアルな感情を込めた渾身のパフォーマンスのぶつかり合いは、ゲーム性もありプロレスや格闘技的な見方で楽しめたりとかなりの充実度。真剣勝負の「ライブスタイルダンジョン」が、アイドルのライブイベントの新たな切り口を見せてくれたのは間違いない。面白さたっぷりの「ライブスタイルダンジョン」は、次回の開催も計画されているという。
「来年あたりに次やろうって話は出ているんです。元々『ライブスタイルダンジョン』はスタプラのアイドルだけじゃなくて、アイドルシーンをもっと活性化させたくて始めたって主旨もあるんです。なので今回、アプガ(2)さんとmonogatariさんに出ていただいたんです。僕個人の意見としては、もっといろんなグループに出てもらいたいっていうのはありますね。あまり対バンに出ないグループ同士が戦ったり、例えば過去の関係性があって負けられない戦いがあるとかドラマ性が出たら面白くなるじゃないですか。でも、桜エビのマネージャーとしては、うちは脱スタダを掲げて対バンにもいっぱい出て戦ってきた自負があるんで。やっぱり負けるの悔しいから、次は勝ちにいきますよ」(同前)
アイドル界の活性化も視野に入れた「ライブスタイルダンジョン」。この先、さらに規模が大きくなっていったら、さらに面白いバトルが見られるかもしれない。可能性を感じさせるコンテンツとして、魅力溢れるアイドルたちのバトルがどのように発展していくのか期待したい。

アメフラっシ(10月3日に行われた「ライブスタイルダンジョン vol.2」より)