【関連写真】ドラマ『海のはじまり』より夏(目黒蓮)&海(泉谷星奈)
物語は、水季(古川琴音)が海(泉谷星奈)の髪を優しく梳いてあげる回想シーンから始まる。
例えば、弥生(有村架純)。母親に髪を結ってもらっていた子供時代、それが「すごく早くて痛かった」という思い出を語る。そして、はっきりと母親が「嫌い」であるという告白も。妊娠を相談したとき、相手が出産を望んでいないことを知ると、「じゃあ堕ろしな」と吐き捨てるような口ぶりで即決してしまうような母親を、彼女は許すことができないのだ。
一方ゆき子(西田尚美)は、息子の夏(目黒蓮)に「人生で一番大変だった時期、分かる?」に問いかける。彼女は、離婚して結婚するまでのあいだ、幼い夏の子育てに忙殺され、お金と時間もなくて気持ちがすり減っていた。だから美容院に行く暇もなかったのだ、と打ち明ける。
そして、海の髪の毛を手で梳いてあげながら、ドライヤーで乾かす夏。かつて母親が娘にしていたことをやってあげようと、慣れない手つきで父親が悪戦苦闘する、なんとも微笑ましい場面。だがこのシーンはそれ以上に、水季の役割を朱音(大竹しのぶ)が受け継ぎ、さらにそのバトンを夏に渡したことに重点が置かれている。
おそらくだいぶ前から、朱音は夏を海の父親として認めていたのだろう。幼稚園を転校するかどうかについて、「みんなで考えよう。家族みんなで」と朱音が語るセリフは、夏がすでに家族であることを示している。
第5話のハイライトはやはり、夏が自分の家族に子供がいることを告白するシーンだろう。昔の交際相手の妊娠を聞かされていなかったゆき子は、心配かけたくなかったと絞り出すような声で打ち明ける夏に、「心配かけると思ったんじゃないでしょ?隠せるって思ったのよ」と、彼の心の内を見透かした指摘をする。
子供を産む、産まないについて断罪している訳ではない。それはひとりひとりに与えられた権利だ。そうではなく、その事実を「隠した」ことがどういうことなのかを、ゆき子は静かに、でもきっぱりとした口調で語りかける。
水季、弥生、朱音による<女性たちの連帯>に、新しくゆき子も加わった。年齢も境遇も生死も飛び越えた、シスターフッドがここにある。これまで物語に大きく関与することのなかった彼女だが、今回のエピソードでは実質的な主人公というくらいに存在感を発揮。夏のこれからの<選択>に、ゆき子はより深くコミットしていくことだろう。
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