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『踊る大捜査線』シリーズをざっくりと説明すると、脱サラして警察官になった主人公・青島俊作が、理想の刑事と所轄の現実との狭間で悪戦苦闘しながらも成長していくお話。「空き地署」と揶揄される湾岸署に配属された青島刑事が、元営業マンのスキルを活かして事件解決に導いたり、警察の組織としての諸問題に振り回されたりしていく。
ところで物語の主な舞台となる「湾岸署」は港区の台場にあるという設定なのだが、ここが「空き地署」と呼ばれているのがまず時代を感じるポイント。現在は東京臨海副都心としてさまざまな商業施設などで栄えているものの、ドラマがスタートした1997年当時は空き地ばかりのところだったので、「空き地署」と呼ばれているのだ。
そう、これはまだお台場が空き地ばかりだった時代の物語。他にも同ドラマには、平成ならではの描写がふんだんに散りばめられている。
まず“煙草”に関する描写がいかにも平成で、主人公の青島も当たり前のように職場のデスクで煙草を吸う。歩き煙草も日常茶飯事で、飲食店も分煙化されておらずおもむろに煙草を吸い出す。分煙化が進んだ現在では考えられないが、当時はそれほど喫煙者が自由な時代だった。
また登場人物たちの“連絡手段”も時代を感じるものばかり。
他にもWi-Fiなんてない時代だったため、ダイヤルアップ接続でめちゃくちゃ分厚いPCを繋いだりするシーンなどもあるが、一つ言えるのはそれが当時の最新だったのだ。今となっては懐かしい描写ばかりだが、『踊る大捜査線』シリーズは当時の“最新”を積極的に描いていた印象がある。だからこそ失われた平成の映像資料として、価値のあるものになっているのではないだろうか。
例えば同作には、当時人気だった芸能人たちがゲストキャラクターとしてちょくちょく登場する。TVシリーズ第6話に出演した篠原ともえは、その個性的なファッションと強烈なキャラクターが世間にウケ、90年代後半に活躍。彼女のファッションを真似する「シノラー」と呼ばれる女性たちが続出し、一大ムーブメントを巻き起こした。
また脱力キャラから繰り出されるあるあるネタで当時ブレイクしたつぶやきシローも、第9話に出演。同ドラマのゲストキャラを見れば、当時どんな芸能人が人気だったのかわかるかもしれない。
さらに張り込み捜査を描いたエピソードでは、張り込みをする刑事の暇つぶし用アイテムとして「たまごっち」が登場した。
モノや人物だけでなく、当時広まり始めていた「オタク」や「ストーカー」といった言葉も、エピソードの中で使われている。オタクとはどういう人たちなのか、それは例えば盆栽にハマっているおじいちゃんとどう違うのか。そんな新しい言葉への素朴な疑問や、「オタク」と呼ばれる人々が当時どのように捉えられていたかも、この作品から読み取ることができる。
他にもさまざまな平成感あふれる描写が登場するが、そもそもブラック企業勤めというわけでもないのに“刺激がない”という理由で脱サラして警察官になってしまう主人公・青島の動機そのものが、一番平成感があるかもしれない。
平成に生きる人たちは何を考え、どのような社会で生きていたのか。「レトロブーム」が起きている今だからこそ、平成レトロとしての『踊る大捜査線』シリーズを堪能してみてはいかがだろうか。
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