前回の展覧会は自分にとって「卒業制作」であり、「完全燃焼した」と語る伊藤だが、再び展覧会をやろうと思った理由とは? 卒業から1年半の葛藤と2度目の展覧会への思いを聞いた。
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──まずは展覧会をやろうと思ったきっかけからお聞きしたいのですが。
伊藤 半年前に展覧会をやろうと思ったんですけど、今の自分が伝えられるものは何かと考えた時、乃木坂46を卒業してからの出来事を振り返ってみたんです。そこで思い浮かんだのは出会った方々や家族といった、人と人とのコミュニケーションだったなと思って。それをどうにかして形にできないかと思いました。「HOMESICK」というタイトルは寂しいイメージがあるけど、前向きな気持ちでつけました。内にこもって悶々としていた自分に嫌気がさしていた時に、自分が変われるのは人と何かを作ることだと思ったんです。昔、デザイナーをしていたお母さんにドレスを作ってもらったり、尊敬するクリエイターさんとご一緒したりして。この一年半で人間らしくなれた部分が表れたものになったと思います。
──アイドルを卒業すると、自分という存在を自分から発信しないといけませんよね。
伊藤 それも卒業後に感じました。待っているだけでは何も成長できないと思って。
──それはかなり勇気が必要な作業ですね。
伊藤 前回の「脳内博覧会」は乃木坂46を卒業する自分の卒業制作のような意味がありました。自分の個性やアイドルの部分、その両方が見えるものにしたいと思っていました。でも、今回は歌に近いと思います。歌を作る時って、自分が考えていることを歌詞に表現するじゃないですか。私の場合、歌詞じゃなくて、写真や漫画、ファッションといった形で表現することしかできないんです。
──だけど、内側にあるものは同じっていう。
伊藤 そうですね。何かを表現したいという源は同じです。
──今回の展覧会は、写真、漫画、ショートムービー、ファッション×ダンスという4つのブースで構成されています。
伊藤 はい。自分の考えを理解していただくまで、時間を割いていただきました。今回、すべての方に自分から連絡を取ったんです。事務所の方にお願いしたのではなく、「自分でやります」って。そうじゃないと、私が思っていることが伝わらないと思ったからです。マネージャーさんって、こういう作業をイチからやっているから、すごいなって思いました(笑)。例えば、漫画だったら、自分の考えを伝えて、プロの方にそれを漫画にしていただく。そうすると、ちゃんと自分の考えが伝わっていた。そのことに感動しました。プロの方ってすごいなって思いました(笑)。
──それができる環境にいるんですね。
伊藤 その状態に至るまでの1年半、すごく葛藤していました。でも、その時間が無駄じゃなかったと証明したかったです。
──葛藤というと?
伊藤 6年間在籍していた場所から一人になる時、展覧会を開かせていただいて、そこで完全燃焼したんです。それ以降もお仕事をいろいろとさせていただいてはいたんですけど、求められるものに追いつこうとチャレンジしたけど、どこで自分というものを昇華させればいいんだろうと思っていました。例えば、役者さんには役者さんなりの昇華のさせ方があると思います。でも、私は何かを演じるだけでは自分を昇華させきれませんでした。だったら、ジャンルを問わず自分で何かを表現することを続けたいと、1年半の間で思うようになったんです。自分に伝えられるものがあるなら伝えたいし、観た方に何かを感じてほしい。私だって、いろんな展示を観て胸を打たれたり、影響されたりもします。そんなものを表現できたらいいなと思っています。
──生きてきた中で、どういったものに影響を受けてきましたか?
伊藤 服飾の学校っていろいろあるけど、技術を学ぶだけではなく、自由な発想を優先させてくれる学校があるんですね。そこ出身のデザイナーさんたちがすごく好きで。
──ファッションに限らず、可能性を広げることや既成概念にないものに惹かれるんですかね。
伊藤 はい。そうかもしれない。熱を注いで作られたものに惹かれるじゃないですか。自分もそういうことをやりたいなって。
──では、卒業後に出演した舞台って、自分的に惹かれた作品なんですね。
伊藤 昨年12月に出演させていただいた「今、出来る、精一杯。」は自分でも観に行ったことがある作品で、すごく好きでした。根本宗子さんの作品って、人間誰もが抱えている葛藤とか、世間で正しいと思われていることは本当に正しいのかとか、いろいろと考えさせる作品が多くて、その世界をもっと知りたいと思っていたんです。そんな矢先に出演が叶いました。舞台って、稽古場にこもって作業をするじゃないですか。
──今は新しい人生を歩んでいるわけですが、過去を振り返ることってないですか?
伊藤 あります。それは名残惜しさからくるものではなく、いい思い出だから振り返るんです。でも、今の自分のほうが人間らしく生活しているなって思います。自分で働いて、自分で何かを提案しているから。乃木坂46時代は自分で考えなくてもお仕事は回る環境でした。でも、その時代があるから今の自分があるので、ありがたかったですね。
──卒業生と会うことはありますか?
伊藤 展覧会の制作で忙しかったので最近はあまりないけど、私の出ている舞台を卒業生が観に来てくれることはあります。あっ、(衛藤)美彩の結婚式でみんなと会いました。
──同期の結婚式ってどんな感覚になるんですか?
伊藤 初めて結婚式に行ったんです。何を着ればいいかもわからず、めっちゃ検索しました(笑)。報告を受けた時はめっちゃ嬉しかったです。同期のことは素直に喜べるので、次に誰かが結婚する時にも素直に祝福したいです。
──そんな口ぶりだと、自分はまだまだ先っていう感じですかね。
伊藤 まだまだ先かもしれないし、意外と早いかもしれないし。
──ホントですか⁉
伊藤 嘘です(笑)。しばらくは自分のことで必死になっているでしょうね。
──卒業から時間が経って振り返ってみると、改めて卒業ってどういうものだと思いますか?
伊藤 私は6年も続けられるとは思っていませんでした。自分としてはよく続いたな、頑張ったなと思っているんですけど、惜しんでくれる人もいらっしゃる。だから、卒業というものが成り立つんでしょうね。私は「脳内博覧会」ができたから、やりきった気持ちで活動を終えられました。私にとっての卒業制作であり、卒業コンサートのようなものでしたから。もっといえば、東京ドームのライブでひめたん(中元日芽香)と一緒に送り出してもらえたこともとても大きかったです。そのふたつがあったから、いい形で卒業することができました。
──卒業して、グループの看板がなくなると、自分の足で立たないといけません。不安と楽しみがあったと思いますが、そのふたつはどんなバランスでしたか?
伊藤 そのバランスが乱れていたから、悶々としていたんです。でも、「このままじゃダメなんだ。自分で動かなきゃいけないんだ」と実感したんです。そう思えたということは、ようやく地に足がついたということですよね。その感覚があったので、前に進むためにやれることをし始めました。これは体験しないとわからない気持ちだと思います。
──毎日のちょっとしたことに感動したりしませんか?
伊藤 あります。散歩するのがこんなに楽しいのか、とか(笑)。街を歩くようになりましたね。外の空気を吸うと、それだけで嬉しくなってしまう時期がありました。
──日常の散歩が楽しいと感じてしまう。
伊藤 昔のカレンダーを見返すと、みっちりお仕事が入っていて、お休みはほぼありませんでした。今は当てもなく出かけてみるようにしています。
──10代の頃、将来の自分がどうなるか、考えていましたか?
伊藤 16歳でデビューした頃は、将来も上手くやれてるのかなって漠然と思っていました。思っていた通りではないかもしれないけど、自分で動ける環境を作れてはいるので、これからも自分から動いていけばどうにかなると思っています。
▽伊藤万理華
いとう・まりか。1996年2月20日生まれ、大阪府出身。2011年に1期生として乃木坂46に加入。2017年12月に乃木坂46を卒業後は舞台「今、出来る、精一杯。」、「仮面山荘殺人事件」や映画「賭ケグルイ」などで女優として活躍している。

▽伊藤万理華EXHIBITION “HOMESICK”
会期:2020年1月24日(金)~2月11日(火・祝)
開場:GALLERY X(SHIBUYAパルコB1)
公式サイト:https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=342&pv=on
チケット販売サイト:https://eplus.jp/sf/word/0000123907