【写真】東京女子プロレスに参戦した“女子プロレス界の横綱”里村明衣子【3点】
通常、これだけのビッグカードを発表するときは煽りに煽りまくって盛り上げるところだが、2.22両国KFCホールでの試合前にリングアナがこのカードを読み上げ、荒井優希が抱負を語るだけ、というごくごくシンプルな形式だったことにもちょっと驚いた。もっともこの顔合わせにとんでもないインパクトがあるので、余計な煽りなどはまったくもって必要なかったのかもしれない。
発表後に荒井優希とこの大一番について話をした。荒井はニコニコするわけでもなければ、キリッとした表情を浮かべるわけでもなく、どこかフワフワした感じで語り始めた。
「自分がいちばんびっくりしているんですよ。まさか、あの里村さんとシングルで闘うことになるとは夢にも思っていなかったので。もちろん里村さんの存在は知っていますけど、あまりにも遠い存在すぎて、同じプロレスラーだけど“闘う”って感覚がまずなかったんですよ」
事実、ここまで両者のあいだにはまったく接点がなかった。初対決どころか、この先、記者会見などで同席することがなかったら、3.16大田区のリング上が「初対面」の場となるのだ。
「昨年10月、里村さんが東京女子のリングに上がってくださったんですけど、たまたま、その大会に私は出ていなくて『あ~っ、今日、私も試合があったら里村さんにご挨拶できたのに!』って。ずっと、その感覚は変わっていないんですよ。あの日の試合後、里村さんが『私と闘いたい選手はいないのか?』と呼び掛けているシーンを配信で見ていたんですけど、その場に私がいたとしても、きっと手をあげていなかったと思います。画面越しにもいろんな選手が『私が闘いたい!』って目をしているのがわかったし、きっとファンの方たちにも、見てみたいカードがいろいろあるんだろうなって。
そう考えていたから、今回、里村さんとの一騎打ちが決まったと聞いて、もう10分ぐらいドキドキして汗がダラダラ流れ続けてました(笑)。いや、本当にそれぐらいびっくりしたし、本当に里村さんの相手がプロレスラーとしてまだまだの私でいいのかなって。そもそも里村さんが私のこと、知ってくださっているのかな?とか……」
そう語ると荒井の表情は、その言葉とは裏腹に“闘う眼”へと変化した。
「でも、それは昨日までの話です。今日、正式に発表されたことで腹を括りました。リングの上で自分の口でお伝えしたことによって、この試合はもう『荒井優希のモノ』になったわけで、いまさら『どうしよう……』って悩んではいられないし、とにかく勝つことだけを考えて、試合に臨みます!」
リング上での決意表明でも「勝つ」という言葉を前面に押し出していたが、なんといっても相手は横綱だ。大健闘するだけで高く評価される試合でもあるのだが、そこまで勝ちにこだわる裏には、ある思いが隠されていた。
「もう次はないことが確定している試合じゃないですか? もし負けても『次にやったら必ず勝ちます!』とは言えないんですよ。
3月31日にSKE48を卒業し、4月からはプロレスラー一本で勝負することが決まっている荒井優希にとって、この一戦は二刀流レスラーとしての集大成であり、4月からのプロレスラー人生の試金石ともなる。相手が里村になったことで、普段、東京女子プロレスを見ない人たちや、まだ荒井優希の試合を見たことはない、という女子プロレスファンも会場に足を運ぶだろう。そういう観客からの厳しいジャッジも含めて、とても大事な一戦となる。
ちなみにSKE48からの卒業を発表したとき、今後のプロレス活動について、一切アナウンスがなかったことで「プロレスも同時に引退か?」と界隈がザワついた。そうなった場合、3.16大田区大会が最後のビッグマッチになってしまうのでは? としばらくネット上が騒然となった。
「あれもびっくりでしたね。私にはプロレスも辞める、という選択肢はまったくなくって、続けていくのは当たり前だと思っていたので、卒業発表のときになにも言わなかったんですよ。でも、なにかニュースになっていたり、東京女子の選手からも『優希ちゃんともっと闘いたかった』って連絡が入ったりして。いやいや、4月からもっと闘う機会が増えますからって思いつつも、これはちゃんと発表しなくちゃいけないね、となって急きょ、プロレスラー続行を宣言したんです」
それだけプロレスに賭ける思いは熱く、強い。本当にギリギリのタイミングで里村と闘えることは彼女にとって間違いなく大きな財産になるし、はたして里村がどんな闘い方を仕掛けてくるのか? 非常に興味深い。30年前、後楽園ホールで里村明衣子のデビュー戦を目撃したとき、その衝撃に『21世紀の女子プロレスは大丈夫だ!』と感じたことをいまでも覚えている。
本当にさまざまな巡りあわせの末に決まった大一番。荒井優希は昨年から1年に渡ってインターナショナル・プリンセス王座に君臨してきたが、1.4後楽園で陥落。もし、そこでベルトを守っていたら3.16大田区では防衛戦が組まれていたはずで、里村明衣子とはスレ違ったまま終わっていた可能性が高い。
「ベルトを落として、そりゃ、悔しかったですけど、プレッシャーから解放されて、いまはすごくのびのびと楽しくプロレスをやれています。でも、そういう自分を客観的に見たときに『あぁ、私、まだまだ弱いな』って。のんびり肩の荷を下ろしている場合じゃないよなって気を引き締めています」
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