平成生まれの筆者にとって“きょんきょん”こと、小泉今日子は物心ついた頃から憧れを抱く人生の先輩の一人だ。小泉とは異なるフィールドで生きているものの、“小泉のように素敵な大人になりたい”という思いが原動力となり、勉学にそこそこ励み、仕事とも真摯に向き合ってきたつもりだ。
しかし、大人になった今、理想の大人像に遠く及ばない自分の姿にもどかしさを感じている。

【写真】ドラマの撮影現場に"朝弁当"を差し入れした小泉今日子

本作には、吉野千明(小泉今日子)の次の台詞があるが、この台詞に共感した視聴者は筆者を含めて多くいるのではないだろうか。

「いつか穏やかで心に余裕があるような素敵な大人になりたいと思ってた でも歳はとっくに大人になっているはずなのに 思っていたのとは全然違っていて 大人になれば寂しく思ったりすることなんてなくなると思ってたのに 全くそんなことはなかった」

子ども時代、“心に余裕がないのも寂しさを感じるのも子どもだから”と思っており、年齢を重ねればこうした辛さが自然に解決されると期待していた人は少なくないだろう。

けれども、現実はまったくそうではなく、大人になっても心は窮屈なままだし、今日を生きることで精一杯だ。それに、寂しさのあまり泣きそうになる日だってある。あるいは、筆者のように、大人になった自分に対して、“こんなはずじゃなかった”と少し肩を落としている人もいるかもしれない。

千明は独身で、人生を自由気ままに楽しんでいるようにも見えるが、実際はそうでもない。職場では世代間格差を感じながら年下社員に気を遣っているし、部下のために自分が犠牲になることもある。

また、身近に困っている人がいれば、つい手を差し伸べてしまう。彼女を知る誰もが“自立した大人の女性”だと評価するだろうが、そんな彼女であっても、いや、そんな性分ゆえに、誰かのぬくもりを求める日もあるようだ。

長倉和平(中井貴一)については、自他共に認めるとおり生真面目な人間だ。和平は幼い頃に両親を亡くし、きょうだいの親代わりとして生きてきた。
かつて、和平は「自由だとか反抗してやるとかいう余裕がなかった」と千明に打ち明けていたが、大人になるまでの道のりにおいて寄り道できなかったのだ。

日々を懸命に生きている私たちは、千明や和平の苦労や心の叫びに共感したり、お互いに自己を開放し合い、「どんな形であれ ずっと一緒に生きていく」と約束できる関係性をうらやましく思ったりするのだ。

本作に登場する大人は千明や和平のように自分の足で立てる、器用な大人ばかりではない。例えば、真理子(内田有紀)は自宅に35年ほどひきこもっていたし、典子(飯島直子)は千明の家に無断で転がり込んだり、実家に突然現れては思春期の少女のように感情を爆発させたりしている。また、広行(浅野和之)は一家の大黒柱としての意識がやや乏しく、かつ少年のように荒野に駆り立てられる性分だ。

本作では“世間でいう大人気ない大人”も肯定され、優しく受け止められている。だからこそ、本作を観ると心があたたまり、優しい気持ちになれるのだと思う。というのも、大人であっても、誰もがこうした一面を多かれ少なかれ持ち、または憧れているものだから...。

小泉は16歳のときに『私の16才』でアイドルデビューを果たした。『ヤマトナデシコ七変化』(1984年)、『なんてったってアイドル』(1985年)をはじめ、時代を象徴する数々のヒット曲がある。

俳優としても数多くの作品に出演している。例えば、2001年には『恋を何年休んでますか』(TBS系)でヒロイン・小西有子役を務め、平凡な主婦としての幸せともどかしさを見事に表現していた。
また、2017年には『監獄のお姫さま』(TBS系)でヒロイン・馬場カヨを演じたが、コメディ的な軽快さをもつ演技に笑いを誘われるシーンも多々あった。

近年は、猫好きが高じて上田ケンジと黒猫同盟を組み、猫をテーマにした曲をリリースしたり、親しい俳優が出演する舞台をプロデュースしたり、自身が立った円形ステージの資材を使った猫砂を手掛けたりと自分の心に従って活動している。

しかし、小泉が現在の場所にたどり着くまでに数々の苦労や我慢があったことは、昨今における本人の言葉などからも伝わってくる。大人として自由をある程度手にするには、そのための道を切り開く期間も必要なのだろう。

また、筆者は、小泉は同世代のファンと苦楽を共有し、伴走して歩んでいると思う。小泉のコンサートでは“私たちこの年齢まで頑張って生きてきたよね”という共感力が会場をあたためていると感じられる。

原点を大切にしながらも人生を切り拓き、多くの人に勇気を与えたり、ファンを笑顔にしたりするきょんきょんに、今後もついて行こうと思う。

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