青木真也の3冊目の著書『距離思考 曖昧な関係で生きる方法』(徳間書店)が発売中だ。総合格闘技の世界で10年以上にわたってトップクラスの活躍を続ける著者。
その冷徹かつロジカルな思考と歯に衣着せぬ言動、敵を作ることを恐れず、時に楽しみさえするその生き方から一匹狼のイメージが強い。プライベートで離婚を経験した後は「もう家族はいらない」と発言し、話題を呼んだ。

「男女関係は続けるほうが偉い、離婚は間違えているという考えはそろそろ見直してもいい」「恋愛は欺瞞的、でもしないほうがいいとは思わない」。男女関係に対しても辛辣かつ冷徹な言葉を発する青木真也に結婚論、恋愛論を聞いた。(3回連載の2回目)

※インタビュー1青木真也が語る「孤独と仲間と同調圧力と」はこちらから。

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──本を読んで衝撃的だったんですけど、奥様との関係が破綻した流れについてもあけすけに書かれていますよね。

青木 そこは大きなポイントかもしれない。というのも、格闘技の選手って「ネガティブなことを口にしちゃいけない」という不文律があるんですよ。だけど現実問題として目の前で起きていることだし、これはコンテンツになるなと僕は考えたんです。自分の人生でコンテンツにできるものは積極的にしていきたいのでね。

──恋愛に関しては、この本を読んで考えさせる部分も多かったです。結婚は特にそうですけど、「男女は長くつき合うのが正しい」という社会規範がありますよね。
でも、無理して関係を維持するのは不健全だという見方もあると思うんです。

青木 「続けるほうが偉い。離婚は間違えている」という考えは、定住を前提とした社会システムを維持するために作られたものじゃないかと僕は睨んでいるんです。たとえば一夫多妻制を認めちゃったら、格差がどんどん広がっていくでしょうし。でもその前提自体、そろそろ落ち着いて考え直してもいいんじゃないかな。「ずっと同じ1人の相手と関係を維持し続けるのって無理だよね。ストレスが溜まるよね」という議論が出てきてしかるべきだと個人的には思う。そもそもほとんどの人は結婚という制度に何の疑問も持っていないじゃないですか。僕自身も実際に結婚するまでは知らないことが多かった。だって世の中にあるドラマや本や歌は「結婚すると幸せです」という前提で作られているから、そこに疑いなんて持ちませんよ。実際に結婚してみたら大変なことのオンパレードで、「話が違うぞ!」って気持ちになりましたけど。「全然『ゼクシィ』のCMみたいにならないじゃんかよ!」って(笑)。


──旧態依然とした結婚観・恋愛観だけでは限界が来ている時期なのかもしれません。

青木 「豊かな社会とは何か?」と考えたとき、ひとつには「多様な価値観が認められる」という要素が欠かせないと思うんです。「選択肢がたくさんある」「失敗しても、やり直しがきく」……そういう社会であってほしいじゃないですか。

──人は学習する生き物だと言われています。ただ恋愛に関してだけは、何度も何度も同じように手痛い失敗を負うことが多い。これはなぜだと考えますか?

青木 別れるときって最後はボロボロになることが多いですよね。「もう恋なんてしない……」って槇原敬之さんの歌みたいに落ち込んじゃって。だけどそこで本当に恋愛をしない選択をうっかりしちゃったら、人生が豊かじゃなくなっていくんです。なにかに挑戦しない人生、闘わない人生、恋愛しない人生……「果たしてそれでいいのか?」という本質的な問いかけですよ。よく言われる「失敗したとしても挑戦したほうがいい」というのは、結局、そういう話にも繋がっていくんです。

──青木選手にとって、恋愛のもたらすプラス面はどういうことがありますか?

青木 まず単純に頑張りますよね。

──それは付き合う前の過程で?

青木 いや、違う。
相手にもっといい生活をさせてあげたいという気持ち。それですよ、恋愛で大きいのは。逆にそれ以外は何もない。

──それだけ聞いていると、めちゃくちゃ相手想いじゃないですか。

青木 いや、どうだろうな。ある意味、自分勝手なのかもしれない。だって仮に付き合う前だったとしても、「相手を振り向かせたい」というのは十分に大きなモチベーションになるでしょう。それって結局は自己満足じゃないですか。自分が気持ちいいから、相手のために頑張っているだけであって。目の前にぶら下げられるニンジンとしては、これ以上ないと思いますね。そりゃ家庭も壊しますよね(苦笑)。どこまでいっても、自分が一番というのは変わりようがないというか。


──そんなこと言ったら、「結局、自分が一番」というのは相手も同じかもしれません。

青木 だと思いますね。恋愛で欺瞞的だなと感じるのは、本当はお互いが自分のためだけに付き合っているのに、相手のことを自分以上に考えているようなポーズを取ること。綺麗事ばかり言ってるんじゃねぇよってイラッとするんですよね。

──では、青木流の理想の家庭とは?

青木 お互いが自立していること。お互いを尊重していること。今回の本でも書いたように、家庭内でもソーシャルディスタンスを取ること。なにも一緒に住む必要もなくて、お互いが満足しているなら週に1~2回会う程度でもいいじゃないですか。どんなに親しい間柄でも距離を取ることは大事です。

──青木さんが、家庭が崩壊しているにもかかわらず、奥様に「あけましておめでとうございます」とかメールを送っているのも本を読んで驚いた部分です。別に復縁を迫っているわけじゃないですよね。

青木 そこは自分の中で自然なことなんです。
今まで別れた彼女とかも普通に連絡を取ったりしますし。どんなにその恋がボロボロになって終わったとしても、いつかはそれも美談になる日が来るでしょうしね。心の底から相手のことを嫌いにはならないですよ。苦しんでいることすらも、どこか自分の中でネタにしている部分がありますし。

※インタビュー3青木真也が語る格闘家論「表に出るということは叩かれる覚悟を持つということ」はこちらから。
※インタビュー3は23日(日)午後15時公開予定です。
格闘家・青木真也が語る離婚と恋愛論「恋愛は欺瞞的、でもしないほうがいいとは思わない」

青木真也『距離思考 曖昧な関係で生きる方法』
発行:徳間書店
発売日:2020年7月1日
amazon商品ページ https://www.amazon.co.jp/dp/4198650853
徳間書店商品ページ https://www.tokuma.jp/book/b515807.html
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