今年9周年を迎えるHKT48。秋には新劇場のオープンも控え、HKT48はどう動き出しているのか…ドキュメンタリー形式で綴る短期集中連載がスタート。
長年グループの活動を追い続けてきた元『週刊プロレス』記者で、『活字アイドル論』『ももクロ独創録』など多くの著書を持つ小島和宏氏がメンバーへの徹底取材を行い、HKT48の「今」に迫る。第二回目は、1期生の村重杏奈の「変心」について本人、そして松岡菜摘が証言する。(毎週土曜日午前7時公開)

【第一回目はこちら】HKT48村重杏奈&松岡菜摘が、新劇場オープンに向けて本音を吐露「待っているだけではいけない」

【写真】HKT48の配信ライブの様子

この11月で9周年を迎えるHKT48だが、立ち上げメンバーである1期生がまだ7人も在籍している(現在、IZ*ONE専任となっている宮脇咲良を含めれば8人)。これだけたくさんの初期メンバーが長期間、活動しつづけているというのは48グループだけでなく、アイドルグループとしても極めて異例のことである。

普通、初期メンバーがたくさん残っているとグループ内の風通しが悪くなりそうなものだが、HKT48はそういう状況には陥っていない。そもそもCDデビュー時にセンターを張ったのが2期生の田島芽瑠、という「掟破り人事」が行われてきたこともあり、すでに4期生までのすべての期からセンターが誕生している。

こうなると逆に1期生の士気が下がってしまいかねないが、そうならないのもHKT48の特徴である。

「それはさしさん(指原莉乃)が作ってくれた環境ですよ。自分の立ち位置は関係ないから、とにかくセンターを支えなさいって。センターの座を巡ってバチバチしても仕方がないって教えられてきたから、誰がセンターでも、後輩がセンターでも変な感じにならないでグループがひとつになれる」(村重杏奈)

他のメンバーも「1期生はグループ愛がすごい」と語るが、村重杏奈はさらに一歩突っ込んで「HKT48のことが大好きすぎて、みんな損得抜きでやっている」とまで言い切った。それが実際の行動にも反映されていく。

「じつは1期生だけで話し合いをしてきたんですけど、それだけじゃダメじゃないですか? いままでは『どうする?』で終わっていたのが『どうにかしなくちゃいけないよね』という話になってきたんですよ。
だから。どうにかするためにも社長とミーティングをしたいってお願いしたんです」(松岡菜摘)

この春からHKT48の運営会社が変わった。

まさにコロナ禍で表立った活動ができなくなってしまうタイミングと重なってしまったので、そのあたりはファンからなかなか見えにくいところでもあるが、新劇場のオープンを前にして、ちゃんと運営側とメンバーの考えを擦り合わせておこう、と1期生が動いたのだ。彼女たちは「大人との話し合い」というが、1期生は全員、もう大人だ。だから「大人同士の話し合い」ということになる。

「体制が変われば、新しくなることもある。それは当たり前のことだし、いいことだとも思うんですけど、私たちは9年間、活動してきて『ここは変えてほしくないな』という部分もあるんですね。正直、いままで1期生はスタッフさんたちの意見を聞いてきた。私個人でいえば嫌われたくないし、仲良く進めることで生きてきた部分もあったんですけど、身近なスタッフさんたちに感じたことをを言えないようでは、それはいい環境ではないよなって」(村重杏奈)
 
こうして行われた社長とのミーティング。

1期生は自分たちの意見だけではなく、9年間、ずっとファンと接してきた経験から「ここを変えられたらファンのみなさんは嫌だと思う」ということもしっかりと代弁してきた、という。そして、その話し合いの場で際立ったのが村重の言動だった、と松岡菜摘は語る。

「いままでは話し合いをしても、シゲ(村重)は自分の意見を言わなかったんですよ。
まぁ、私たちもそれでいいというか、明るさで引っ張っていってくれれば、それだけでありがたかったんですけど、最近はすごく真面目な意見をどんどん出してくれる。それに怖いもんなしじゃないですか、シゲは。私たちが『どうしようかな、言ったほうがいいのかな……』と躊躇しているようなこともパッと言ってくれるから、本当に話し合いがどんどん進んでいくんですよ」

 
村重杏奈の「変心」。

そこにはこの1年間の経験が大きく影響していた。

「(バラエティ番組などで)1人で仕事をするようになって、あぁ、私は甘やかされてきたんだなってわかったんですよ。マネージャーさんも来なくて、自分1人で現場に入って、仕事をして、自分で挨拶もして、また自分1人で次の現場に向かう。もちろんマネージャーさんからは電話で丁寧な連絡や指示はあるんですけど、はじめての経験なので不安なんですよ。他のタレントさんからしたら、そんなの当たり前じゃないか、と思うかもしれないけど、HKT48ではありえないこと。いつだってマネージャーさんは現場にいてくれるし、移動だってみんなでバスに乗っていくから、自分で考えることなんてなかった。

そういうね、いままでにない経験をしてきて、HKT48に戻ってくると安心するんですよ。メンバーってこんなに大事な存在なんだなって。そこから『HKT48を守りたい!』という気持ちがものすごく強くなってきて、あぁ、ふざけているだけではダメだよなって。
もちろん、ふざけるときはいままで通り、おもいっきりふざけますけど、グループを守るためにはちょっとは頭も使わなくちゃいけないなって。ファンの方には『HKT48って、とにかく楽しいな!』って思っていてもらいたいし、私たちも楽しみますけど、そのためにはやらなくちゃいけないことがたくさんある。社長はものすごく私たちの話を聞いてくださる方なので、いい方向に進んでいくと思います」(村重杏奈)

コロナショックより前に、芸能界でのカルチャーショックを味わっていたからこそ、彼女はこの非常事態でも冷静かつ情熱的に動くことができたのだ。

3期生の田中美久は「久しぶりにメンバーが集まったとき、控室に村重さんの声が響いていたら、みんなが『安心するね』ってニコニコしていたんですよ」と証言する。いつしか村重杏奈はHKT48にとって精神的支柱のような存在となっていたようだ。

だが、その一方で1期生……特にチームHキャプテン・松岡菜摘とチームKⅣキャプテン・本村碧唯は、思わぬ試練と苦闘を重ねる日々を送っていた。

(つづく)
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