今年9周年を迎えるHKT48。秋には新劇場のオープンも控え、HKT48はどう動き出しているのか…ドキュメンタリー形式で綴る短期集中連載がスタート。
長年グループの活動を追い続けてきた元『週刊プロレス』記者で、『活字アイドル論』『ももクロ独創録』など多くの著書を持つ小島和宏氏がメンバーへの徹底取材を行い、HKT48の「今」に迫る。第四回目は、新センターとしてやっとステージに立てた運上弘菜の本音に迫る。(毎週土曜日午前7時公開)

【第三回はこちら】HKT48の松岡菜摘、本村碧唯が活動9年目の“挫折”を語る「焦りともどかしさと悔しさと…」

【写真】@JAMに出演したHKT48の様子

8月30日。

Zepp TOKYOのステージにHKT48の選抜メンバー16人がズラリと顔を並べた。

Overtureが流れ終わり、ステージ上が明転すると、そのど真ん中に立っていたのは4期生の運上弘菜だった。

4月22日のリリースされた最新シングル『3-2』。

そのセンターに抜擢されたのが彼女だった。

しかし、彼女がセンターポジションで歌う姿を見たものはほとんどいない。なぜなら『3-2』がステージで披露されたのは、発売から4か月以上が経過した、この日がはじめてのことだったからだ。

通常、新曲をリリースすればテレビの歌番組にも多数、出演するし、たくさんの人たちの目にも触れることになる。

だがコロナの影響で歌番組の収録すらできなくなった。

劇場公演やコンサートもできないので、歌う機会はまったくない。


センターに選ばれたのに、センターに立つことができない……運上弘菜は思い、悩んだ。

「気分が沈んでいました。1年ぶりのシングルでHKT48にとっても大事なことだったんです。 それなのに歌を披露することができないのはつらかったし、この曲で記録が途切れてしまったらどうしよう、と考えたら夜も寝られなかったです」(運上弘菜)

記録というのは、デビュー曲からずっと続いているオリコンシングルチャートでの連続1位記録。前作の『意志』まで12作連続で初登場1位をマークしている。これは女性アーティストでは歴代トップの記録で、毎回、自己新記録を更新していくことになっている。

この記録を守るのもセンターの務め。ただ、テレビに出ることもできず、いつもと比べたら圧倒的にプロモーション量も少なくなる。そんな環境下で1位を獲得することが本当にできるのか? たしかに不安になって当然だ。

「だから1位になった、という知らせを聞いてひとまず安心しました。それからはよく眠れるようになりました(笑)。正直、自粛期間中になにをしていたのかあんまり記憶がないんですよね。
どうしようか?と考えても仕方がないし、実家(北海道)に帰りたくなって、夜中に家族に電話したりもしましたね……」

センターなのに、孤独。

本当だったら人生が劇的に変化してもおかしくないのに「あまりにも自分に変化がなさすぎて、ちょっと残念だったなって」と運上弘菜は悲しげな表情を浮かべた。

気持ちは大きく変わっていた。

紙媒体の取材日はいつも早めに設定されるので『3-2』のときもコロナの感染拡大が深刻化する前に収録することができた。

そのときの運上弘菜のインタビューはとても印象に残っている。

「センターになった以上、もっとしっかりしないと!」と自分に活を入れながら、これから自分がやるべきことをじっくりと語ってくれた。過去にインタビューしたときには、ほとんどしゃべってくれなかったので、あぁ、立場が人を変えるというのは本当なんだな、と思ったものだ。

「それ、よく言われるんですよ。昔のイメージがまだ残っているようで、あんまりしゃべらないよね、とか、おとなしいよね、とか、笑わないよね、とか(苦笑)。そんなこともないんですけどね、うふふふ。そういうイメージを変えるためにも、もっともっとがんばりたいです」

 そのときの取材に同席した1期生の村重杏奈は「なっぴ(運上の愛称)はどこに出しても恥ずかしくないセンター」と評した。「普段から礼儀正しいし、変なことを言ったりもしないから、ひとりで外に出しても大丈夫! それになっぴはアイドルにとって『こうなりたい』という憧れの存在でもある。
アイドルになるために生まれてきた子だと思う」と。
 
これはHKT48の面白いところでもあるのだが、取材日にいろいろなメンバーに話を聞いたが「なっぴがセンターで正解!」と全員が太鼓判を押してくれた。少なからず悔しい思いをしているメンバーもいるだろうし、ジェラシーを抱かれてもおかしくない状況なのに、いつもこうやって新しいセンターを支える構図ができあがっている。
 

思えば前作のセンターは卒業を目前に控えていた指原莉乃だった。

それから1年経って、4期生から初のセンターとして運上弘菜が抜擢されたのは、まさに「新生HKT48」をアピールするには最適だったと思う。そのフレッシュさはコロナ禍で止まってしまった時間がふたたび動き出した今でも、なにも変わっていない。
 
冒頭で触れたのは「@JAMオンラインフェスティバル」に出演したときの模様。そう、運上弘菜のセンターお披露目の場はオンライン、つまりは無観客ライブだった。

「初めてセンターに立たせていただいて、目の前に誰もいないというフォーメーションもいままで経験なかったんですけど、その先の客席にも誰もいなかったので不思議な気持ちになって(笑)。ただ、本当に緊張しました。ここ最近、ずっと家にいたから、緊張する機会もなかったんです。 だから、いままでにないほど緊張しましたね。
もう膝が震えて、体に力がまったく入らないんですよ。力強い楽曲だから、しっかり踊らなくちゃいけないのに……。センターに立つと緊張感も全然、違うんです。『3-2』を歌い終わって、2曲目からは解放された感じがしました(笑)。
 
もちろん緊張だけじゃなくて、うれしさもあって、なんだか不思議な気持ちでした。オンラインですけど、やっとファンの方にもパフォーマンスを見ていただけたし、今度は直接、見ていただきたいです! 他のシングル曲と比べると見てもらっている方の数が少ないので、どんどん歌って、たくさん聞いてもらえればなって」
 
その舞台になるであろう新劇場にも、すでに足を運んでいる。4期生は専用劇場がなくなってから加入しているので、今回がはじめての「我が家」ということになる。

「感激しました! もう床を見ても感激、壁を見ても感激。うれしすぎて匂いもたくさんかいできちゃいました! でも、いちばん興奮したのは客席を見たときですね。もちろん、お客さんが誰もいない状態だったんですけど、これから、この客席にたくさんファンの方が来られて、その前で歌うんだって思ったらワクワクしますよ!」
 
1期生が旧劇場をオープンから支えてきたように、今度はセンター・運上弘菜を擁する4期生たちが新劇場で次なる歴史を築いていく番だ。

「このあいだ、4期生全員で集まったんですよ。やっぱり自粛期間、みんな、寂しかったんだなぁって。
みんな、それぞれにこれからのHKT48について考えているし、それをこれから活かして『博多の4期生は輝いているな!』って言ってもらえる存在になりたいです」
 
歴史をつなぎ、時代を変える。
 
新劇場ではHKT48の新たなる息吹が存分に感じ取れそうだ。

(つづく)

【第二回はこちら】“変心”村重杏奈がHKT48の精神的支柱になった理由「ふざけるだけじゃなくて、グループを守りたい」
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