どんなに「自分は元気だ」と思っていても、生と死はいつも表裏一体。人は誰でも、この世に“生”を受けた瞬間から、“死”に近づきながら生きている。
来たる2月20日より、全国で順次公開となる映画『痛くない死に方』(高橋伴明監督)は、そんな普段はあまり意識することのない当たり前の“摂理”に、真っ正面から深く切り込んだ話題作。在宅医療のスペシャリストとして、2500人もの人々の“最期”を看取った医師・長尾和宏氏の同名原作をもとに描かれる、命の尊厳をめぐる物語だ。今回、同作で末期がんの父を自宅で看取る女性・智美を演じた坂井真紀さんにインタビュー。作品の重要なテーマともなっている死生観についてもうかがった。(前後編の後篇)

【写真】笑顔でインタビューにこたえる坂井真紀と映画場面カット【12点】

前編<坂井真紀が語る高橋伴明監督の撮影現場>は【こちら】から。

――映画『痛くない死に方』で父親の臨終に直面した、坂井さん演じる智美が、主人公の担当の在宅医・河田(柄本佑さん)を「私が殺したんですか」と責めたてる場面。彼女の叫びは、作中のどんなセリフよりズシリと来ました。

坂井 あのシーンは、最初に佑くん側を撮ってから、次に私を、という順番だったんですけど、私自身は佑くんを撮っている時点で感情があふれてしまって、切り替わったときには涙がぜんぶ流れ出ちゃってて。そこから「これはどうなんだろう」と自分で考えた結果、ああいうお芝居になりました。監督はそこでは何もおっしゃらなかったけど、見せるべきはおそらく感情のMAXではないのかなって。

智美がお父さんと過ごしてきた時間を考えれば、その死を前にしたときにはどこか達観やあきらめもあるだろうし、でもやっぱりあきらめられない部分も当然ある。泣き疲れたあとのむなしさと怒り。
言葉ではうまく表現できないですけど、あのときは「涙ながら」というより、そういう感情でしたね。

――日本だけでなく、世界中がコロナ禍に見舞われている今、ほとんどの人が“生と死”をいつにも増して身近に感じていると思います。坂井さんもやはり死生観みたいなことは考えますか?

坂井 そりゃあ、考えますよぉ。ただ、これまでは「家族に迷惑をかけて死ぬのはイヤだなぁ」ってところがいちばんだったのですが、先日、お知り合いのおばあさまが「みんなそう言うけど、でもいいのよ。迷惑はかけて。家族なんだから。」っておっしゃっているのを聞いて、なんだか気持ちにがラクになって。

赤ちゃんは手がかかります。誕生した大事な命を家族で力をあわせて育てます。その奇跡のような大事な命は、育てるのも大変なのだから、死ぬときだって大変で当たり前なのかなって。それぞれの家族の事情もあるでしょうし、いざ実際に介護するとなったときの大変さは、もちろん言葉で言うのとは全然違う。

でも、「死へ向かう」ってことがもっと温かいものになるように、そうやってみんなが“覚悟”みたいなものをきちんともてる世のなかになれたらいいな、と思います。

――ちなみに、そのあたりの心境の変化というのはいつ頃からお感じでしたか?

坂井 やっぱり子どもができた、というのはすごく大きいですよね。
責任ってこともそうですけど、何より「ちゃんと生きたい」という気持ちは強くなった気がします。

すべてにおいて今、目の前にあることが絶対未来にも繋がっていくわけだし、子どもは未来そのもの。私自身に何ができるかはわからないけど、こうして子どもを育てる機会をいただいた以上は、「社会に役立てる」って言ったら大げさかもしれないけど、チャンスをもらえたってことに対して、日々、喜びを感じながら生きたいな、とは思います。

――劇中には、死を前にして事前に文書で意思表示をしておく「リビングウィル」といったワードも出てきます。こんなことを聞くのも何ですが、坂井さんだったらどのような選択を?

坂井 どうだろうなぁ。もし、もうちょっと子どものために生きなければと思ったら、「病気と闘うぞ」って気持ちになりますし、十分生きさせてもらったなぁって思えていたら、そのときは「延命治療は要らないです」って選択になるんじゃないかな、と。

子どもとはまだそこまでリアルな話はしてませんが、こうして生まれてきたことの尊さや命の大切さについては、一緒に話すようにしています。喧嘩をしたりしたときも早く仲直りを心がけますし(笑)、特に学校へ送り出す時は絶対に笑顔でいたいですよね。(取材・文/鈴木長月)

▽さかい まき
1970年5月17日生まれ、東京都出身。映画『痛くない死に方』、『はるヲうるひと』(2021年6月全国公開)、『燃えよ剣』(2021年10月公開)などに出演。

▽映画『痛くない死に方』
2021年2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
出演・柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
監督・脚本:高橋伴明

あらすじ
在宅医療に従事する河田仁(柄本佑)は、日々仕事に追われる毎日で、家庭崩壊の危機に陥っている。そんな時、末期の肺がん患者である大貫敏夫(下元史朗)に出会う。
敏夫の娘の智美(坂井真紀)の意向で痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したとのこと。しかし、河田は電話での対応に終始してしまい、結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまう。「痛くない在宅医」を選んだはずなのに、結局「痛い在宅医」になってしまった……河田は、先輩在宅医・長野(奥田瑛二)の元で在宅医としての治療現場を見学させてもらい、在宅医としてあるべき姿を模索することにする。2年後、末期の肝臓がん患者である本多彰(宇崎竜童)を担当することになった河田は、果たして、「痛くない死に方」を実践できるのか…。

(c)「痛くない死に方」製作委員会
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