“自分にとって大事なターニングポイントになった”
と語る比嘉愛未が演じたのは、“影”の職業であるスピーチライター。
ここ日本ではあまり馴染みのない職業だが、世界に目を向けるとバラク・オバマ第44代米大統領の「Yes, We Can」の名フレーズもスピーチライターが生み出した言葉。
比嘉演じる、夢や目標もなかった普通のOL・二ノ宮こと葉が、スピーチライターの紡ぐ“言葉の力”に魅了され新たな人生を選択し成長していく姿は、言葉が人の心を動かすように、観るもの、さらには迷っている人の背中をきっと押してくれるに違いない。
そんな本作の見どころとともに、“ずっとご一緒したいと願い続けていた”という佐々部清監督の現場で感じたこと、そして彼女の心に残っている言葉など、いろいろと話を聞いた。
――今回演じたスピーチライターという職業は知っていましたか?
「この作品で演じることになって初めて知りました。まずスピーチライターについての資料をいただいたり、スピーチライターの方とも実際に会ってお話を伺ったのですが、一言で言い表せないくらいやるべきことが多くて驚きました」

――あまり馴染みのない職業とあって、演じるのも難しかったのでは?
「スピーチライターという仕事を、どう理解して表現しようか……と悩みました。少し考え方を変えてみたとき、スピーチライターの仕事ってドラマや舞台の演出家の方に近いなってふと思ったんです。今回の役を通して、自分がスポットライトを浴びなくても自分が裏方として支えることで、演じ手が拍手喝采を浴びて輝いている姿を見ることがこんなに嬉しいんだということを初めて体感できました。この仕事がもっと世間一般に広まってくれれば、言葉の重みや言葉の大切さに気付いてもらえるんじゃないかなと思います」
――台本を読んで、こと葉役にどうアプローチしようと思いました?
「まず最初に佐々部監督とお話したときに、『“こと葉”と“比嘉愛未”とが合わさって“まな葉”になったつもりで演じてほしい』と仰られて、その言葉にすごく救われました。ある女性がスピーチライターという職業に出会い、自分の世界が広がっていき成長していく奮闘記でもあるので、愛未でもこと葉でもなく“まな葉”として、等身大で演じようと思いました」
――等身大ということは、こと葉の内面に共感する部分も大きかった?
「共感できる部分ばかりでした。というのも、わたしも不器用で猪突猛進でこうと決めたら真っ直ぐしかいけないタイプなので(笑)。久美(長谷川京子)さんと出会って、スピーチライターの世界に好奇心を抱いてからのこと葉の行動力は全く迷いがなくて……、自分がまだお芝居を始めたばかりのころと重なりました」

――こと葉が成長していく過程を描いていくなかで、1話でのスピーチのシーンはとても重要だったのでは?
「あのシーンを撮影初日に撮ったんです。撮影初日は大体1シーンか2シーンくらいを撮ることが多いんですが、今回は11シーンあって、トウタカ製菓(こと葉が勤めていた会社)でのシーンは、ほぼ1日で撮り終わったんです。
――そのほか、印象に残ったシーンは?
「未だに鮮明にひとつひとつ憶えているくらい濃厚な1ヵ月半でしたし、1話から4話までそれぞれ印象に残っています。なかでも厚志(渡辺大)のスピーチのところは一番印象的でした。出来上がった作品を観たときにも胸にくるものがありました。あのシーンは、厚志だけじゃなくて今までいろいろあって戦ってきたみんなの想いの集大成だったので……、演じているときはもちろんカメラが回っているんですけど、それとは関係なくグッと心が引き寄せられたんです。みんなの気持ちがひとつになれたシーンだったので、今思い出すだけでウルっとしちゃいますね」

――現場での長谷川(京子)さんの印象はいかがでした?
「まず圧倒的な美しさとオーラに毎日見とれていました。すごくパワフルでちょっとミステリアスな部分もあって……、でも話すととても気さくでオンオフの切り替え方が素晴らしいなと思いました。長谷川さんはかなり難しい台詞ばかりだったのですが、毎回スマートにNGなしで演じられていてすごいんです。そういったところも素直に尊敬する気持ちがあったので、演じようと構えるのではなくてこと葉と同じような気持ちでスッと入ることができました」
――八千草薫(特別出演)さんとのシーンはものすごくほんわかした雰囲気で観ていてとても心地良かったです。
「作品からも伝わると思うんですけど、八千草さんに会うと映像の100倍くらい癒されるんですよ! その場にいらっしゃるだけで自然と笑顔になってしまうというか……、芯はあるのにとても柔らかくてとても憧れます。強くなくても声にすごく説得力があって、八千草さんだから台詞が響いたんだと思います。目指したいと思える素敵な大女優さんと出会えたことは、今回わたしにとっての財産だと感じました」

――人を癒すってやろうと思ってもできないですよね。
「ものすごく難しいと思います。
――1ヶ月半に及ぶ撮影で、佐々部監督とのエピソードはありますか?
「佐々部さんの作品に出た役者仲間がみんな口を揃えて『絶対に一度は佐々部さんと仕事をした方がいい!』と言っていたので、いつか自分も佐々部さんとご一緒したくて、ずっと願い続けていたんです。作品はもちろんなのですが、たくさんの人に“そう言われる魅力は何なのだろう?”ってすごく気になっていました。現場では誰よりも熱くて涙もろくて繊細ですごくチャーミングで、役者にすごく寄り添ってくださる監督でした。その寄り添い方はそっと寄り添ってまた離れてという絶妙な距離感と心地良さなんです。佐々部さんとの現場はとても贅沢な時間で、かけがえのない大切な思い出になりました。また作品に呼んでいただけるよう頑張ろうと目標になりました。こうして話しているとまた会いたくなっちゃいますね(笑)」
――今作を通して感じたことは?
「人に対して優しくなれた気がします。家族や友達って愛情が深ければ深いほど、相手のためを思うがあまり感情的になって言ってしまうことがあると思うんです。ちょうどこの作品の撮影中に、ちょっとした行き違いで15年来の大親友と喧嘩していたんです。そんな矢先に、あるシーンで“相手の心に寄り添って相手が一番ほしいと思う言葉を届けてあげることが大事なんだよ”っていう台詞が自分に言われているような気がして……友達の言い分を聞いてあげられていなかったことに気付いて反省して、その日のうちに電話して“あのときはごめんね”って謝ったら、『わたしの方こそごめんね、でもあのとき愛未に聞いてほしかったんだよ……わたしの想いを』って言われたとき、2人してものすごく泣いてしまって、言葉って言い方ひとつでこんなにも変わるんだということをとても考えさせられました。この撮影の真っ最中に30歳の誕生日を迎えたり、いろんな意味で自分にとって大事なターニングポイントになったのかなと思います」

――今作は“言葉がもつ力”がひとつのテーマとなっています。最後に、比嘉さん自身心に残っている言葉ってありますか?
「もちろんひとつだけじゃなく、今までいろんなターニングポイントでたくさんの言葉がありました。
土曜オリジナルドラマ「連続ドラマW 本日は、お日柄もよく」は、1月14日(土)よりWOWOWプライムにて放送スタート!(全4話/毎週土曜よる10時 ※第1話無料放送)
スタイリスト:後藤仁子
ヘアメイク:奥原清一(suzuki office)
衣装:ソブ(フィルム)、Shaesby(Shaesby 伊勢丹新宿店)
Photo by 竹内洋平