宮本恒靖監督が昨シーズン途中からガンバ大阪トップチームの監督に就任し、ここに来てようやく宮本ガンバの方向性が定まり始めている。
思えば昨シーズン前半戦、降格圏停滞やレヴィー・クルピ監督解任など、ガンバ大阪がまさに絶望に瀕している中で宮本監督は就任しチームをなんとか立て直す。
今シーズンもこの勢いのままにリーグ上位に食い込むだろうと予想されていたが、昨シーズン同様立ち上がりはかなり苦戦する試合が続いた。2012年シーズン以来となるJ2降格の危険な香りが散見された中、宮本監督はある変化をチームに加えたことで上昇気流に乗ることに成功したと私は考察している。
ここではそんな宮本監督の「生き残りのための覚悟」を3つご紹介したい。
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【脱遠藤という苦渋の決断】
ガンバ大阪の真骨頂は遠藤保仁を中心に展開されるポゼッションサッカーである。これは既知の事実であり彼の残した功績は非常に多い。しかし、ポゼッションに加えてインテンシティも同等に重要度が増している現代フットボールのトレンドにガンバは少し取り残され、その影響がリーグテーブルでも如実に現れた。
そこで宮本監督は「遠藤依存」からの脱却を試みる。遠藤自身も39歳とベテラン選手で、アジアチャンピオンズリーグを制覇した2008年シーズンのような最盛期のパフォーマンスではないことは否めず、テコ入れが必要だった。いずれは対応せねばならないこの課題をシーズン途中で模索し、遠藤に代わり矢島慎也の起用を決断した。
矢島は遠藤の良さでもある視野の広さとパスセンスを既に兼ね備えており、攻守における広域なカバーリングで中盤を支配することに成功する。ビルドアップやキーパスに注目しても精度が高く、スピーディーかつ抑揚を加えたボール展開にガンバ大阪の新たな未来を感じることができた。
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【5人で守る守備対策】
ガンバの強みはファン・ウィジョとアデミウソンがタッグを組む強烈な2トップだ。対戦相手からすると厄介な存在である。そんな魅力的な攻撃陣を有する一方、守備面では大きな不安を残していた。
シーズン立ち上がりは三浦弦太とキム・ヨングォンの2センターバックは固定メンバー、そしてサイドバックは流動的に変更するシステムを多用していたが、ディフェンスラインの連携が甘くマークのスライドが遅延し不安定な守備が露呈してしまった。そのため多く得点を許す光景をサポーターは目の当たりにしてしまうことに。開幕3試合で8失点というのは何とも目を背けたいデータだ。
得点力はあるにも関わらず守備が安定しないため、本来勝ち切る試合でも接戦になったり勝ち点を取りこぼす。そんな燃費の悪いチーム状態に宮本監督はメスを入れ、5バックの守備構成にシフトさせた。三浦とヨングォンに加え髙尾瑠の3センターバックの固定メンバー、右には小野瀬康介か田中達也、左には福田湧矢か中村敬斗を相手チームに合わせて起用するようになった。
両ウイングバックの上下運動が鍵を握るこのフォーメーションに、メンバーたちは見事に応えた。このフォーメーションを採用してからのリーグ戦直近6試合はたったの2失点とこれまでの脆かった守備から脱却を果たしている。
ちなみに5バックによって攻撃力低下も懸念されていたが、あまりその影響を感じない。
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【決死の若手選手起用】
「ガンバを攻略するには、押さえるべき選手が明らかだ」とある解説者が述べたこのコメントは近年のガンバの特徴を表す見事な表現だった。
前述したようにガンバのキーマンは遠藤と強力な2トップであり、彼らに仕事をさせない限り主導権を奪われることはないという共通理解で戦いに挑むチームが増え、手の内を見破られているガンバは手も足も出なかった。
その状況を打破するべく、宮本監督は各ポジションに若手の波を加える決断をしたのだ。今思えばその決断はまさに英断だった。宮本監督によって選ばれし若手たちは失意の底に沈んだガンバを蘇生させるカンフル剤としてピッチで躍動した。
特に髙尾瑠(22歳)、食野亮太郎(21歳)、福田湧矢(20歳)、中村敬斗(18歳)の勇敢なプレーに何か熱いものを感じる。髙尾は昨シーズンの天皇杯でガンバに勝利した関西学院大学の主力。食野や福田はアンダーカテゴリーで宮本監督と共に戦った秘蔵っ子。中村はU20ワールドカップにも招集された攻撃にアクセントを加えることのできる選手だ。
いずれの選手にも言及できるのは、インテンシティ高い現代フットボールに対応でき、その上で自分たちの個性を発揮できる選手であるということだ。

【大きな決断】
大きな決断を下したのは5/18の大阪ダービーだった。この試合で敗戦することはライバルチームとの実力の差を空けられる他、降格圏に沈むこともあり負けることは許される状態ではなかった。そんな決して負けられない一戦を前に抜本的とも言える変化を加えセレッソ大阪相手に勝利したことは今シーズンのターニングポイントと言えるだろう。おそらくあの試合でもし負けていたら宮本監督はシーズン半ばで解任となっていたと思う。
大阪ダービーを皮切りに公式戦ここ9試合は4勝4分1敗と上昇傾向。宮本監督の生き残りを賭けた覚悟、それも昨シーズンのような単なる「ショック療法」ではなく、ガンバ大阪が本来あるべき姿へ戻るための「長期的かつロジカルな計画」であると私は考察する。宇佐美貴史のガンバ復帰、ダビド・コンカの未知数の可能性などまだまだ武器になりうる要素を秘めているガンバ大阪。そんなガンバのリーグ後半戦に大いに期待したい。