5月14日、ガンバ大阪はクラブにとってのレジェンドである宮本恒靖監督の解任を発表した。解任時点での明治安田生命J1リーグでの成績は、10試合で1勝4分5敗と僅か3得点に終わっていたため、監督交代は妥当な結果だろう。
あれから1カ月以上が過ぎ、チームは「暫定監督」から正式に「監督」となった“ミスターガンバ”松波正信氏の指揮のもと、直近の国内での公式戦4試合を3勝1分無敗と持ち直した。
現在、G大阪はタイとウズベキスタンで集中開催されているAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージに参戦している。果たして、G大阪は本当に復調したのか?監督交代前後で変化した部分や、今後も改善すべきポイントに絞って検証してみたい。

1)4バックへの固執から3バック化で奏功
宮本前監督の解任直後、今季のチームが低迷している理由を様々なメディアが取り上げていた。しかし、しっくり来ないことが多かった。特に「攻撃的な[4-3-3]にトライすると言いながら従来の守備的な[4-4-2]に戻るなど、採用するシステムが定まらなかった 」という指摘だ。
一般的な[4-3-3]のフォーメーションは、両サイドに突破力や得点力があるアタッカーを置くため、確かに攻撃的な並びだろう。しかし[4-3-3]で戦う場合は通常、守備時には両ウイングが引いて中盤の両サイドのスペースを埋め、インサイドMFの2人のうちのどちらかがセンターフォワードと2人で前線からのプレス要員となる[4-4-2]の陣形になる。

G大阪と宮本前監督もこの2つの陣形を試合の中で併用したいだけだったのではないか?[4-3-3]は攻撃サッカーで[4-4-2]は守備的、とするのは暴論である。実際、この2つの陣形は同じメンバーで構成することも可能なのだから。
システムの問題を指摘するならば、本職のサイドバックが軒並み負傷離脱しているにも関わらず、4バックを採用し続けていた点があげられる。特にアタッカーの小野瀬康介や、大学ナンバーワンと評される大卒新人センターバックの佐藤瑶大など、本職ではない選手を右SBに起用してまで4バックに固執する理由が何なのか?理解に苦しむ采配だった。
松波監督体制に移行後は3戦目から3バックを導入。

2)長年に渡るサイドバック軽視のチーム編成
しかしながら、前線に多くのタレントが在籍するG大阪のチーム編成上、どうしても後ろに人数を割く3バックをメインに据える戦い方をは避けたい。何れにせよサイドバックの働きが重要となる。
ところがG大阪の強化部は、長年に渡って現代サッカーの最重要ポジションであるSBを軽視している。今季の宮本前監督が小野瀬や佐藤を右SBで起用していたように、2002年から2011年まで10年の長期政権となった西野朗監督体制時から、常に誰かがコンバートされて穴を埋めるような編成が続いているのだ。
今季から浦和レッズへ加入したDF西大伍は、鹿島アントラーズやヴィッセル神戸で右SBながら攻撃のアクセントをつける存在であり、鹿島と神戸で多くのタイトルを獲得した。彼自身はボランチや1列前でもプレーできる選手だが、現代サッカーはSBの特徴や力量によってゲームのリズムに変化をつける時代になっている証明である。
近年のG大阪がJ1残留争いが定番化している理由は、このポジションの補強や評価を軽視しているからだろう。逆に言えば、このポジションを強化できれば、一気に常勝軍団へと復活するだろう。
また、SB軽視の傾向はピッチ内でも見られる。同サイドの攻撃も守備もSB1人に全て丸投げするような現象が多く見られる。かつての加地亮(現在は解説者)や現在の藤春廣輝が怪我を繰り返す要因はこういう部分に潜んでいるのではないだろうか?

3)攻撃サッカーはもう10年近く体現されていない
今季のG大阪は前線に大型補強がなされたことで攻撃サッカーの復活を期待されてきた。しかし、彼等は3冠を達成した2014年も含めて、もう10年近く攻撃サッカーを体現できていない。
実際チームの総得点数も、全34試合制のJ1リーグで60得点を超えたのは、J2降格を喫した2012年の67得点が最後である。また、1シーズンでリーグ20得点以上を記録した選手を探すと、2007年に20ゴールを挙げたブラジル人FWバレーまで遡らなければならず、2016年と2020年に至っては二桁ゴールを記録した選手さえ存在しなかったほどだ。
スタイルや内容云々はあるにせよ、1試合平均2得点を10年近く記録しておらず、1人で20ゴールを期待できるストライカーも不在のチームに、攻撃サッカーの復活を期待するのは相当なハードルの高さである。

4)倉田・井手口・宇佐美のパフォーマンス改善
最後に、現在のG大阪が本当の意味で復調するためには、主力選手が本来のパフォーマンスを取り戻さないかぎりは難しい。
特にチームの不振が続いたここ数年も孤軍奮闘してきた、MF倉田秋の進撃が止まったことが痛い。近年はインサイドMFやボランチなどでプレーすることも多くなり、球際での競り合い強化のために筋力増量を図った模様。これが完全に悪い方向に出ており、昨年のコロナ禍以降は“重い”選手になってしまった。決して運動量が減っているわけではないが、小回りが利かずに従来の縦横無尽ぶりが消えてしまっているのが心配だ。
また、ゲームメイクを強く意識して中盤に下がってくるFW宇佐美貴史とプレーエリアが被ってしまう現象も多くあり、お互いに持ち味を相殺してしまっている。ちなみに宇佐美は守備面で弱点を指摘されることが多いが、現在は守備面では逆に問題はない。むしろ、前線での守備からボールを奪取する回数も多いほどだが、器用貧乏に陥ってしまっている印象だ。
そして、攻守にダイナミックさが売りのMF井手口陽介はスペースが狭いポジショナルな攻撃では迷いが生じる場面が多く、“並みの選手”になってしまっている。
宮本前監督は3バックを採用する際、攻撃時に縦に5分割した各レーンに1人ずつの選手配置を意識させ、位置的優位や個の優位性を活かすポジショナルプレーの要素を導入していたように見えた。しかし、彼等3人にはその意図が上手く伝わっていなかったのか?窮屈そうなプレーが目立っていた。カウンター型のサッカーに切り替えて以降は3人の個性が単発的には上手く出せていたが、それだけでは物足りないのも事実だ。
従来のG大阪のパスサッカーは、遠藤保仁(現ジュビロ磐田)の類まれなる個性と才能から派生された代物だったのか?宇佐美や倉田、井手口の個性を活かす術は、どのような攻撃サッカーにあるのだろうか?再検証が必要である。