明治安田生命J1リーグ第16節終了時点で、2勝7分7敗の16位と低迷していた清水エスパルスは、5月30日、成績不振を理由に平岡宏章監督との契約解除を発表。そして6月7日、ブラジル出身でフラメンゴやボタフォゴなどの監督を歴任していた、ゼ・リカルド新監督の就任を発表した。
就任直前までブラジル2部バスコ・ダ・ガマで監督を務めていたリカルド監督は、Jリーグでは初めての指揮となる。また、清水にとってはこれで4年連続のシーズン途中での監督交代となった。果たして新監督のもと、監督交代直後に成績が向上すると言われている「解任ブースト」を発動し、清水はその後も安定した成績を残せるのだろうか。

解任ブーストは存在する?
シーズン途中に監督交代となると話題に上がるのが「解任ブースト」だ。サッカー界において、監督交代直後に一時的に成績が向上することを指す。過去の例をみると、うまくいいったパターンは実際に存在する。
例えば、2019年のサガン鳥栖。ルイス・カレーラス監督(2019)のもと9試合で勝ち点4しか得られなかったチームは、シーズン途中に金明輝監督(2019-21)に交代後、17試合で勝ち点23を獲得し残留に成功。現在もJ1で戦い続けている。
また同年、清水もヤン・ヨンソン監督(2018-19)のもと11試合で勝ち点8しか得られず、コーチを務めていた篠田善之監督に交代。するとそこからの15試合で勝ち点24を得てJ1残留を達成している。
一方、成績が向上するどころか監督交代によってさらに低迷する例もあり、さらにそのシーズンは一時的に調子を上げたとしても、長期的にみて成功した例はほぼないと言っていい。清水が4年連続でシーズン途中の監督交代となったことからも、解任ブーストを長期的な成績向上につなげることの難しさがわかるだろう。

リカルド新監督への期待と不安
清水の今回の監督交代は、果たしてどうなるだろか。
ポジティブな要素としては、リカルド監督を招聘するだけでなく、監督が信頼するチームが周囲を固めることが挙げられる。クレーベル・サントス氏がヘッドコーチ、ファビオ・エイラス氏がフィジカルコーチ、フェリペ・オリーベ氏がフィジオロジストに就任。彼らはこれまでにリカルド監督が指揮したクラブでキャリアを共にしており、中でもサントス氏は長年右腕のような存在だ。
またブラジル出身のMFホナウド(2021-)はフラメンゴ時代(2015-2021)にリカルド監督から直接指導を受けているため、これもチームに戦術を浸透させるための大きな強みとなる。
その反面、不安要素もある。まずはリカルド監督が日本で指揮を執った経験がないこと。そして何より、手腕どうこうの前に、そもそも監督の資質なのかということだ。

繰り返す監督交代でバラバラなサッカー
繰り返す清水の監督交代を振り返ると、2018年にはヤン・ヨンソン監督がシーズンを通して務め、チームはJ1で8位に入った。しかしヨンソン監督は翌2019年の5月に解任となり、コーチを務めていた篠田善之監督へと交代する。結果は12位。
ピーター・クラモフスキー監督を招聘し挑んだ2020年も低迷し、11月に契約解除。コーチを務めていた平岡宏章監督へと交代となった。チームは16位。
2021年には、東京ヴェルディ、セレッソ大阪で高い勝率を誇ったミゲル・アンヘル・ロティーナ監督を招聘。しかしまたも11月に契約解除となり、コーチに戻っていた平岡氏が再び監督に。チームは14位だった。そして今2022年は平岡監督が続投となりチームは現時点16位、リカルド政権へと移った流れだ。
コーチが暫定的に指揮した期間は仕方ないにしても、シーズンはじめから指揮を執った監督たちの志向するサッカーはバラバラに映る。成果が出なかったからと違うサッカーに取り替える、ということを繰り返しているようにみえてしまう。
2022シーズン首位を争う川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、横浜F・マリノスがいずれも長期的に一貫性がある一方で、それが欠けるクラブはやはり、長期的な成功は難しい。

リカルド監督の最初の仕事とは
清水は2021年、そして今季2022年に向けて大型補強を行っている。しかしいくら補強しようと目に見える成果が出ていない理由は、この一貫性のなさが原因なのではないだろうか。
リカルド監督が最初にこなさなければならない仕事の1つは、個々の選手の見極めだ。だがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場クラブ(川崎、浦和レッズ、横浜FM、ヴィッセル神戸)をも上回る37人もの選手を抱えている清水では、それも簡単ではない。
日本代表のGK権田修一、U-21日本代表のMF松岡大起、将来の日本代表入りが期待されるMF鈴木唯人など、優れた選手が多数所属していることは間違いない清水エスパルス。