この他にも今2024シーズンには、J1サンフレッチェ広島のホームスタジアム「エディオンピースウイング広島」、J3ツエーゲン金沢の「金沢ゴーゴーカレースタジアム」が2月に開業。
欧州でも、ラ・リーガの名門バルセロナのホームスタジアム「カンプノウ」が現在全面改装中で、今2024-25シーズンから部分開業、2026年には新カンプノウが完成する予定だ。サポーターにとって、贔屓クラブのホームスタジアムは“家”であると同時に“聖地”でもある。新しくてキレイであればあるほど居心地は良く、我がクラブを誇りに感じる効果もあるだろう。
しかしながら、欧州5大リーグでも、老朽化したスタジアムを新築できる裕福なクラブばかりではない。筆者も欧州サッカー観戦を経験した中で、「ここで試合するの!?」と驚かされたスタジアムに遭遇したことが何度もある。ここでは、古くとも、長くサポーターから愛され続けるスタジアムを紹介したい。

カンポ・デ・フトボル・デ・バジェカス
場所:スペイン、マドリード使用クラブ:ラージョ・バジェカーノ(ラ・リーガ)
筆頭に挙げたいのは、今2024/25シーズンのラ・リーガで健闘している(9節終了時点で3勝2敗4分けの8位)ラージョ・バジェカーノのホームで、通称バジェカスと呼ばれている同スタジアムだ。
開業は1976年。もうすぐ半世紀を迎える。1924年のクラブ創設後、半世紀にわたり、本拠地を転々とした後、現在のスタジアムに落ち着き、クラブも一時期は2部B(実質3部)にまで成績を落としていたが、今や、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードに次ぐ「マドリード第3のクラブ」の地位を確固たるものにしている。
スタジアムのあるバジェカス地域は、マドリード市内でも治安の悪い場所というレッテルを貼られている。1991年、ある10代の少女が奇妙な死を皮切りに、次々と不審死の連鎖が起き、超常現象も頻発したことで、「霊の仕業ではないか」という噂も流れた。
しかし筆者は、この地域からそうした危ない空気を感じたことはない。少なくとも、試合日に関しては安心して訪問できる場所だ。
スタジアム周辺は、試合前になるとラージョを愛する老若男女が集い、どこか牧歌的な雰囲気を感じる。元々、昇降格を繰り返すエレベータークラブであるため、「勝ち試合が見たい」というよりも「おらがチームを応援したい」という温かい空気に包まれる。
中に入ると、その古さやボロさだけではなく、明らかに狭さを感じる。それもそのはず、FIFAが定めたピッチの標準サイズ「縦105メートル×横68メートル」よりもはるかに小さい「縦100メートル×横65メートル」しかないのだ。国際試合が開催できる最小サイズ「縦100メートル×横64メートル」はクリアしているものの、そのピッチサイズの狭さ故、ラージョのサッカーはボール奪取からの素早いカウンターアタックが確立されており、レアルやバルセロナといった強豪クラブも、狭いピッチと鋭いカウンターに度々苦しめられている。
さらに、集合住宅に囲まれている上アウェイ側ゴール裏席がなく、遠征してくるアウェイクラブのサポーターがバックスタンド最上段の一角に押し込められるのも、このスタジアムの特徴だ。当然、応援チャントも届くことはなく、“アウェイの洗礼”を浴びせるには十分なのだ。

クレイブン・コテージ
場所:イギリス、ロンドン使用クラブ:フラム(プレミアリーグ)
アーセナルのエミレーツ・スタジアム(2006年開業)、トッテナム・ホットスパーのトッテナム・ホットスパー・スタジアム(2019年開業)、ウェストハム・ユナイテッドのロンドン・スタジアム(2012年のロンドン五輪の後、サッカー専用スタジアムに改装し、2016年供用開始)といった大型かつ新しいスタジアムがひしめき合うロンドンにあって、1896年に供用が開始された古き良きイングランドサッカーの香りを残すスタジアム、クレイブン・コテージ。
ロンドン地下鉄ディストリクト線の2つ手前の駅近くには、チェルシーのホームスタジアムであるスタンフォード・ブリッジがあり、元はといえばフラムの本拠地として1896年に建てられたものなのだが、金銭面で折り合いがつかず宙に浮いてしまう。そこで1905年にチェルシーが設立され、ホームスタジアムとした経緯がある。
テムズ川沿いにあるそのロケーションは、高級住宅街にふさわしく、英国皇室がコテージ(別宅)とし、その名が現在でもスタジアム名として残されている。最寄り駅から15分ほど歩いた先に、レンガ造りの武骨なエントランスが迎えてくれる。
このクレイブン・コテージも再開発が進行中で「リバーサイドスタンド」と呼ばれるメインスタンドの拡張工事が終わると、収容人数が約3万席となり、レストランやカフェも併設したスタジアムに生まれ変わる。
雨の多いイギリスでは、屋根が地面と平行、あるいは前傾した造りになっていることも多い。雨は吹き込んでこないための設計なのだが、これによって問題が発生する。スタンド前方に支柱を立てざるを得なくなり、これが観戦のジャマになるのだ。現在であれば屋根の素材も軽量化され、前方の支柱も必要なくなる可能性もあるが、現状、支柱のあるバックスタンドとゴール裏席の改装は計画されていない。
これによって、10本近くの支柱が建てられているバックスタンドの後方から観戦すると、見切れ席が生まれることになり、場合によっては選手が放ったシュートが“消える”ことになるのだ。加えて可能な限り屋根が低く造られているため、ロングボールの蹴り合いとなると、その度に“消えるボール”を探すことになる。
しかし、メガクラブが集い、巨大スタジアムの多いロンドンの中で、最もピッチとスタンドが近いのが同スタジアムだ。移転新築計画が発表される度、サポーターの反対に遭い、今では計画そのものが白紙となっている。
2001/02シーズンの、UEFAインタートトカップ(現在は消滅)優勝という国際タイトルを持ち、2022/23から2シーズン連続でプレミアリーグ残留を果たしているフラム。
NFLのジャクソンビル・ジャガーズや、新日本プロレスの元エース、オカダ・カズチカが所属している米プロレス団体AEWを所有する米国人実業家のシャヒド・カーン氏の資金力のお陰で、着々と力を付けつつある。そしてその躍進を陰で支えているのは、この古いスタジアムを愛してやまないサポーターなのだ。

スタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャ
場所:イタリア、コモ使用クラブ:コモ1907(セリエA)
筆者がスタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャを訪れたのは、元日本代表MF中村俊輔(現横浜FCトップチームコーチ)が、セリエAのレッジーナに移籍した直後の2002年9月29日のコモ戦(1-1)だ。
当時は当然スマホもグーグルマップもなく、「行けば何とかなる」とばかりに電車に乗り込んだ。コモ湖(Como Lago)駅から歩くこと15分ほどで到着。しかし、そこにあったのは「練習場か?」と疑いたくなるような安普請なスタジアムだった。
ボロさでは、前述した2つのスタジアムと比べても別格である。スタンドのメンテナンスなどしていないかのような有り様だ。スタンドもほとんどが仮設で、塗装もはがれている状態。仮に、同じようなスタジアムが日本にあったとしても、耐震補強は無きに等しく使用許可は下りないであろう。
しかし、同スタジアムの魅力は、そのロケーションだ。
コモはこの2002/03シーズン17位に終わり、セリエBに降格。その後、3年連続降格という憂き目に遭い、2005/06シーズンにはセリエD・ジローネB(実質4部)にまで落ちた上に財政破綻してしまう。
しかし、2019年、資産6兆円超と言われるインドネシアで最も裕福な実業家のマイケル・ハルトノ氏と、その弟ロバート・ハルトノ氏に買収されたことでV字回復する。2023/24シーズンのセリエBで2位となり、22シーズンぶりにセリエAの舞台に帰ってきた。
そして、元スペイン代表のレジェンドMFであると同時に、コモOBで、同クラブで指導歴を重ねたセスク・ファブレガス氏を新監督に据え、今2024/25シーズン7節終了時点で2勝3敗2分けの14位ながら、9月25日の5節では昨季のUEFAヨーロッパリーグ王者のアタランタを3-2で破るなど、攻撃的サッカーでサポーターを魅了している。
コモはミラノから電車で約40分。日程さえ合えば、ミラノで行われるナイター試合とのハシゴ観戦も可能だ。実際に筆者も、デイゲームだったコモ対レッジーナの後、サンシーロでのインテル対キエーヴォ・ヴェローナ(2-1でインテル勝利)を観戦した。イタリア北部にチームが集中しているセリエAだが、こんなメリットもある。
今シーズンのセリエA中継を見る限り、スタジアムは当時のままだ。