いかに対応すべきか
多くの国々はトランプの敗北を期待していただろうが、彼は勝利した。
ウクライナはすでにロシアとの協議について譲歩を見せ、激しい交戦を停止している。トランプは24時間で戦争を停止できると豪語しているが、その真意は明らかにしていない。ウクライナへのさらなる支援を停止すれば、確かに戦争は止まるだろう。しかし、それではプーチンに明確な勝利をもたらし、旧ソ連領へのさらなる進出を招くことになる。トランプの戦争終結の狙いは、アメリカの財政負担を減らすことであり、ウクライナ国民の安全保障や領土保全、プーチンへの制裁などといった意識は微塵もない。この状況を踏まえ、ゼレンスキー大統領は非現実的ともいえる提案をした。すなわち、戦争を停止し、ウクライナ全土をNATOの安全保障下に置き、現在占領されている領土については将来的な外交交渉に委ねるというものだ。実現の可能性は低く、トランプもプーチンも到底同意するとは思えない。
これと関連するがまた別の問題として、既存のNATO加盟国による防衛費の増額がある。第一次政権中にもトランプはこの問題を強く提起していたが、NATO加盟国の多くは防衛費の増額を遅々として進めていない。欧州本土で現在、激しい戦闘が繰り広げられていることを考えても、欧州の加盟国にとってこの問題がいまだに優先課題になっていないというのは信じがたい。防衛費以外では、予告されている関税強化がEUのさまざまな商品やサービスに打撃を与えることになるだろう。金融規制や環境・気候政策の国際協調も、トランプの周囲でより極端な声が高まることで壊滅的な打撃を受けるおそれがある。EUは、初動対応として報復関税を課すだろうが、それによってEUに対する措置はさらに極端なものへと転じかねない。経済的苦境に置かれている英国は、EUよりもさらに厳しい状況にある。トランプの母親はスコットランド人だが、貿易問題での配慮など期待できない。EU離脱後の英国はいまや世界的影響力をほとんど持たない中規模の経済圏であり、長い歴史を持つ米国と英国の特別な関係もトランプは意に介さないだろう。
アジアには、台湾を巡る安全保障上の明確な懸念と、中国による軍事行動の脅威の高まりという問題がある。アメリカは台湾と共にあるとバイデンは明言したが、果たしてトランプはそのような約束をするだろうか?トランプは習近平への称賛をしばしば口にしており、ウクライナへの支援の行方によってはこの地域にも重大な影響が及ぶ可能性がある。
一方、貿易に関しては、中国は最悪の状況を迎えることになりそうだ。現時点で60%の関税が予告されているが、さらに上乗せされることは確実だ。国務長官に指名されたマルコ・ルビオは対中強硬派として知られている上、トランプの大統領退任以降、中国関連の事柄への非難は党を問わず増加する一方である。中国に関しては、トランプの「偉大なるイーロン・マスク」が最も注目される存在と言える。テスラは中国に多額の投資を行っており、イーロン・マスクは中国指導者たちの歓心を得ようと何度も試みてきた。その彼がどこまで妥協するかが注目される。
いささか皮肉なことではあるが、ベトナムは関税合戦の渦中に置かれる可能性がある。というのも、トランプの「デカップリング」政策により、中国製造業の多くがベトナムに移転または進出し、トランプの退任以降、対米貿易赤字が急増しているためだ。
日本については、トランプの怒りの矛先が地域内の他の標的に向けられているため、完全なターゲットとなることはないかもしれないが、彼は円安を不公平と見なすであろうし、日本に対してもEU諸国と同様に防衛負担増額を要求してくることは間違いない。
今後10年間の暗く過酷な未来予想図は簡単に思い描くことができる。「トランプ2.0」はそれを決定づける上で重要な役割を果たすことになるだろう。アメリカが他国への関与を避けて無関心を貫けば、自国民を抑圧し他国を侵略する独裁者たちが続々と登場することになる。
Donald Trump(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/