イランのライシ大統領死亡で、同国の政治情勢の行方に関心が高まっています。中東情勢がさらに混迷し地域の不安定化が進みかねないためです。
核開発に対する制裁も長期化し、保守強硬路線の継続なら通貨リヤルの一段の減価は避けられそうにないでしょう。

ライシ師はイラン北西部のダムや発電所の完成式に出席し、帰途にヘリコプターの墜落事故で死亡しました。それを受け、後任を選ぶ大統領選が6月28日に行われる予定。イランが支援する武装組織ハマスがイスラエルと紛争状態にあり、両国の緊張は地域全体の混乱に発展しかねません。最高指導者ハメネイ師およびその後継とみられていたライシ師と同じ保守強硬路線が引き継がれるか注目されます。

対米関係も見据える必要があります。
イランとアメリカは1979年以降、敵対関係にあるものの、保守穏健派のロウハニ前大統領(2013-21年)は就任直後に当時のオバマ米大統領と直接対話した経緯があります。アメリカ主導で国連を巻き込んだ2006年以降の厳しい経済制裁は緩和に向かうかに見えましたが、親イスラエルのトランプ前米大統領の就任でアメリカは核合意を離脱し制裁はむしろ強化されています。

そうした背景から通貨リヤルはほぼ一貫して下げ続けています。足元の公式レートは現在1ドル=4万2000リヤルに固定され、市場のレートは38万5000リヤル、闇レートは51万3000リヤルで市場レートとの乖離は拡大。コロナ禍やウクライナ戦争のほか制裁強化、さらに中東情勢の緊迫化で乱高下しながら水準を切り下げているようです。対ドルでは世界最弱の通貨に位置付けられています。


イランは欧米から制裁を受けているロシアとの貿易をここ数年で拡大させており、両国は決済システムに関する協議に合意。決済通貨にはロシアルーブルとイランリヤルが使用されているものの、両通貨の対ドルレートでの価値が極端に異なっています。ルーブル・リヤル相場は公式レートと闇レートで乖離しイランにとって不利に働くことから、リヤルはルーブルに対しても安定していません。

リヤルの減価はインフレを招き国民生活を圧迫し続けることが国民の怒りにもつながっています。ここ数年はハメネイ師を独裁者呼ばわりする反政府デモが首都テヘランを中心に頻発。ライシ師は2022年に政府への抗議活動に参加した女性に対する暴力的な弾圧を繰り返しているとも伝えられました。
非難が強まる保守強硬派路線が維持されれば、リヤル安と政情不安のスパイラルが待ち受けています。
(吉池 威)
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