レビュー

子どもの頃を振り返ってみると、思いのほか親や先生に叱られた記憶が鮮明に残っているものだ。それもそのはずである。

感情を伴う記憶ほど、脳に保存されやすい性質があるからである。ここで注目すべきは、叱られたショックや不安感などの感情記憶は強烈に残りやすいものの、言われた内容はほとんど覚えていないという点だ。
本書は、ふたりの著者が各章を受け持つ形で構成されている。ひとりは千代田区立麹町中学校の改革の立役者である工藤勇一氏、もうひとりは神経科学の専門家である青砥瑞人氏だ。ふたりとも、最新の脳の研究結果を教育現場に落とし込んで実践し、理論と実践の両面から教育の本質を問い直そうと試みている。その研究結果の一部をまとめたものが本書である。

学校教育の最上位目標は、子どもたちに社会で生きていく力を身につけてもらうことのはずだ。しかし残念ながら、教育現場では「子どもたちにペーパーテストの点数を競わせる」という、手段の目的化が起こっている。また日本社会には過剰サービスが蔓延しており、これも子どもたちから自律する機会を奪っていると著者たちは警鐘を鳴らす。これでは、当事者意識を持った子どもが育たなくても無理はないというわけだ。そんな教育現場にメスを入れ、自律した子どもたちを育むためには、「心理的安全性」が確保され、「メタ認知能力」を高める訓練が必要だという。まったくもって同感である。

自律する子の育て方は、職場の人間関係や自己実現を考えるうえでも役に立つ。ビジネスパーソンにとっても、多くの教訓が得られる一冊である。

本書の要点

・教育の本質的な目標は、子どもたちが自分自身を成長させ、幸せな状態をつくり出せるようになることだ。その実現に不可欠なのが、「心理的安全性」と「メタ認知能力」である。
・否定されない環境を用意することで、子ども自身がストレス反応との付き合い方を見つけ、自力で心理的安全状態をつくれるように導くべきだ。
・メタ認知能力を高めるために必要なのが内省だ。

自分を俯瞰的に見る訓練を繰り返すのである。その際は、いたずらに「反省しない」ことがなにより大切だ。



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