2020年に筑波大学を卒業し、ユース時代まで所属していた北海道コンサドーレ札幌にカムバックを果たした高嶺朋樹。昨シーズンは大学時代の同期である三笘薫が川崎フロンターレでブレイクし注目を集めたが、高嶺もルーキーながら公式戦に途中出場を含め30試合出場し、中盤の戦力として頭角を現している。

また、昨年の12月にはU–23の代表合宿に初招集されるなど、成長が著しい選手の一人でもある。そんな札幌の新たな司令塔の凄みはどこにあるのか、2021シーズンの札幌に何をもたらすのか。筑波大学蹴球部・パフォーマンスチームデータ班に所属する内田郁真氏に高嶺の昨年のデータを用いて明らかにしてもらった。

ペトロヴィッチ監督の超攻撃的サッカーに見る魅力と危うさ

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が2018シーズンに就任し、今年で4シーズン目となる。毎年細かな戦術的変化が加わるものの、基本的なスタイルに大きな変化はなく超攻撃型のスタイルを貫く。高嶺個人の分析をする前に、チームの特徴をデータ面から紐解きたい。まず、シュート本数およびゴール期待値(xG)の変数を用いて2020シーズンの全チームと、2015シーズンから2017シーズンの札幌の平均値、および2018シーズンから2020シーズンの札幌の平均値を比較する。

筑波大学蹴球部データ班が分析。高嶺朋樹の強みとコンサドーレ札幌で求められる役割

 特筆すべきは、ペトロヴィッチ監督就任後の2018年から、攻撃力に大幅な上昇が見られることがわかる。2020シーズンは就任後平均と比較し低下しているが、それでもJリーグの平均を上回り、彼が札幌にもたらした攻撃力はチームにとって大きな武器となり機能している事が示唆される。

 札幌の基本的フォーメーションは[3-4-2-1]であるが、攻撃時はアンカー役の中盤が1人最終ラインへと下がることで4バックを形成し、 ウイングバック(WB)はウイングの位置まで上がることでCF + 2シャドー + 2ウイングの5枚が前線に移動する。この[4-1-5]システムを攻撃時に取ることで、前線に大きな厚みをもたらすことができる。ペトロヴィッチ監督はポゼッションサッカーを嗜好し、これまでに数多のパターンの攻撃を繰り出してきた。この守から攻に移る際のシームレスな配置変化、および魅力的なポゼッションサッカーが高い攻撃力を生み出す原動力だ。

この攻撃力は昨シーズンのJ1覇者川崎フロンターレをも打ち破るポテンシャルを秘めている。ただ、昨シーズンに関しては鈴木武蔵の移籍もあり、決定力に課題が残った。実際にゴール期待値はJ1で6位ながらゴール数は47で8位と、やや期待値を下回る結果に終わっている。

 守備面においては課題が残った。昨シーズンの札幌はマンマークを採用しており、これは一昨季途中から導入されたGKのゴールキックのルール変更に伴いGKを含めたビルドアップを行うチームが増えたことなどが背景として考えられるが、マンマーク守備に変更し、相手のパスコースを消しながらプレスをかける方針は理にかなっている。一方で、マンマークの特徴として守備時の1対1で負けた際に対応が後手に回り、失点のリスクが大きくなる点が挙げられる。また何より、攻撃に多くのリソースを割いているがゆえに、攻から守の局面に脆弱性が現れる。ボールロスト時に前線からのプレスがハマらないと、簡単に相手にボールを運ばれてしまう。昨シーズン、札幌が対戦相手のカウンターからシュートまで運ばれた回数は1試合あたり1.44回。これはJ1でワーストであり、ネガティブトランジションを含めた守備の改善は不可欠である。

 これらの状況を鑑みると、チームの抱える守備の問題に適切に対処し、なおかつペトロヴィッチ式の攻撃のアクセントとなるために、中盤の選手には以下の要素が必要であると考えられる。

 ・ボール奪取のスペシャリストであること

 ・ピッチの広範囲をカバーできるだけの走力を持ち合わせていること

 前者に関しては、攻守、特にトランジションにおける高いインテンシティが求められる札幌においては必須の資質と言える。

後者については、両WBの激しい上下動により空洞化してしまいがちな中盤をカバーするために欠かせない。こうした点を踏まえて、高嶺個人のパフォーマンスの分析へと移っていこう。 

高嶺が示すピッチでの違い

高嶺がピッチにおいて持っている強みを列挙するならば、以下の2点が考えられる。

・チームトップレベルの対人の強さ

・正確なロングフィードから生み出される展開能力

1.チームトップレベルの対人の強さ

 ボール奪取については昨シーズン、彼の代名詞と言えるほど印象的であった。彼自身ユース時代までは守備に対する苦手意識が強かったとのことだが、守備能力は筑波大学での経験を通して武器の一つと言えるほど指数関数的に向上した。ピッチ上の広範囲に顔を出し、相手の攻撃を遮断する姿はチェルシーのエンゴロ・カンテや、元イタリア代表の闘犬、ジェンナーロ・ガットゥーゾを彷彿とさせる。

 ここで彼の昨シーズンの守備的スタッツを見てみる。以下の図のように、球際の強さを測る指標である「Loose Ball Duel」における勝率と、守備的な対人の強さを測る指標となる「Defensive Duel」の勝率に注目する。

筑波大学蹴球部データ班が分析。高嶺朋樹の強みとコンサドーレ札幌で求められる役割
筑波大学蹴球部データ班が分析。高嶺朋樹の強みとコンサドーレ札幌で求められる役割

 図より、昨シーズンは球際(Loose Ball Duel)における勝率はチーム内で秀でていたとは言えないものの、相手がボールを保持していた際のボール奪取(Defensive Duel)は、同期のCB田中駿汰に次ぐチーム2位であり、守備的MFの選手の中ではトップの数値を記録していたことがわかる。ここから示唆されることとして、ボールホルダーに対する反応が良いだけであって、ルーズボールに対する対応が悪いのではないか、ということが挙げられるが、決してそのような訳ではない。彼は中盤でのボールロストやセカンドボールに誰よりも早く反応し、1度振り切られても2度追い、3度追いを繰り返す。これによりフォローに入った別の選手がボールを回収する。このパターンで札幌がボールを回収する場面が昨年多く見受けられ、彼の広範囲に渡るボールチェイスが札幌の守備に大きく貢献していることが考えられる。

昨年の第24節横浜FC戦の3点目、高嶺のアグレッシブなプレッシングによってこぼれたボールを金子拓郎が回収してそのままゴールまで運んだシーンは、高嶺の守備の良さが存分に詰まったシーンであった。

2.正確なロングフィードから生み出される展開能力

 ペトロヴィッチ監督はサンフレッチェ広島、浦和レッズ時代はボールを多く繋ぎ、パスの中から生み出される多彩な攻撃を持ち味としていた。一方で札幌ではパスサッカーはある程度継続するもののこれにロングボールという選択肢が追加された。実際、昨シーズンの1試合あたりのロングパスの本数は57.1本でJ1トップである。これはペトロヴィッチ監督が過去に指揮を執ったチームと比較しても高い数値であると言える。ロングボールを用いた組み立てによるメリットとして、手数をかけず相手の最終エリアに侵入できる機会が増えるため、攻撃はジェイなどフィジカル面で長けた選手に収まると大きなチャンスとなる上、守備の際の数的有利な状況が担保されやすくなることが挙げられる。ただ、この戦術を実装するにあたり効果を最大化させるためには、遠距離から正確な位置にボールを供給することのできる技術がビルトインされている選手の存在が不可欠である。

 札幌には正確なロングフィードを得意とするLCBの福森晃斗がいるが、昨年から長距離スナイパーとして高嶺が加わった。彼の左足から繰り出される高い次元のロングフィードは、ユース時代から変わっておらず、現在さらに磨きがかかっている。福森は最終ラインから、そして高嶺はアンカーの位置からと2箇所から正確なロングフィードを供給できる構造となっており、札幌の攻撃の選択肢を大きく広げることにも繋がる。

 さらに、高嶺の強みとしてボールを簡単に失わないという点も挙げられる。札幌の対戦相手としては、ロングボールを安易に蹴らせてしまうことは避けたいため、札幌のビルドアップ時にはCB、またアンカーの高嶺に対して厳しいチェックを行うことも多い。

しかし、ここでボールをロストし失点に直結したプレーは昨シーズン見受けられなかった。これも彼の高いフィジカルレベルと、足下の技術によるものだと考えられる。

 まず、相手を背負う際にボールを隠すことで相手の視線を遮ることができるため、相手に次の進行方向が読まれにくい。また、ターンをして前を向く際には、うまく自分の腕を使いながら相手と距離を取りつつも、スムーズにかつ力強く体を捻ることで相手を自分の間合いに入れさせることがない。これにより高嶺は1枚相手を剥がした状態で多くの選択肢を持つことができている。

 また相手のプレスを受けかつ前線に選択肢がない時でも、安易にバックパスするのではなく遠いサイドの選手へ体を当てられながらもロングパスを供給する技術も持ち合わせている。攻撃時にCBがワイドな位置を取る札幌では、中盤でのボールロストは失点のリスクもより高まる。しかし、そのような場面でもボールを保持しボールを展開し切ることができる技術、およびその局面を恐れず進むメンタリティはチームにとって非常に心強い。実際に、昨シーズンの高嶺の1試合における平均ボールロスト回数(パスミス含む)は4.56回であり、これはチームで2番目に少ない数値だ。彼のプレースタイルの効果が実証された形となっている。

筑波大学蹴球部データ班が分析。高嶺朋樹の強みとコンサドーレ札幌で求められる役割

札幌の新たな心臓となれるか

 広域な視野と正確無比なロングフィードを標準搭載し、高いフィジカルレベルと闘犬のごときアグレッシブネスすらも獲得した高嶺は、ペトロヴィッチ監督が率いる札幌の新たな心臓となるには十分なポテンシャルを持っていると考える。一方で、ポテンシャルが十分であるからこそ、2021シーズンは次のステップに挑戦してほしいという思いがある。

 彼自身の中盤の底としてリスク管理能力が長けていると上述したが、長けているからこそ、リスクを背負ったラストパスが少ないように感じる。これはペトロヴィッチ監督や札幌CFのジェイが指摘し、そして彼自身も認識していることであると言う。昨シーズン、彼はアシスト数1、セカンドアシスト数(アシストパスをアシストした本数)0本であり、数字上でも課題がクリアとなっている。

 ペトロヴィッチ監督がかつて率いた広島には青山敏弘、そして浦和レッズには柏木陽介という前線に強力なパスを送り続ける心臓がいた。この2人は、自分のチームを例外なく優勝もしくは上位に食い込めるチームへと変貌させてきた。彼の成長具合によって、札幌もこの先大きく前進するのではないかという期待しかない。

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 筆者が大学3年生だった2019年4月、当時筑波大学蹴球部の4年生であった高嶺朋樹さんが、リーグ開幕戦、ロングパスで同点ゴールをアシストしたプレーを今でも鮮明に覚えている。2021シーズン、大きなケガをすることなく、あの時のような人々を魅了する素晴らしいプレーを見せ続けてくれることを、同部の後輩として、そして一人のファンとして待ち望んでいる。

Photo: Getty Images

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