今月15日、バルセロナのアルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロが、不整脈を理由に33歳で現役生活に別れを告げた。今年に入り、またしても心臓疾患がサッカー界に暗い影を落としたことになる。

そうなると、やはり疑ってしまうのが新型コロナウイルス感染症との因果関係だ。

心臓疾患の選手が続出

 今年6月にはデンマーク代表のMFクリスティアン・エリクセンがEURO 2020の試合中に心臓発作を起こし、ピッチ上で心肺蘇生が施された。それから半年と経たずして、今度はアグエロが胸に違和感を訴えて、不整脈を理由に引退を余儀なくされたのだ。

 それだけではない。今月11日にはマンチェスター・ユナイテッドのスウェーデン代表DFビクトル・リンデロフ(27歳)が胸に手を当ててしゃがみ込み、ピッチを後にした。翌日には、イタリアでナポリのポーランド代表MFピオトル・ジエリンスキ(27歳)が、フランスでレンヌのFWマルタン・テリエ(24歳)が胸を押さえて交代したのだ。

 さらにセルビアリーグでは、得点ランクを独走するカーボベルデ代表FWリカルド・ゴメスが練習中に卒倒したという。11月には、ウィガン(イングランド3部)の監督が心肺蘇生法で倒れた選手を救っている。そして2部のシェフィールド・ユナイテッドでは、スコットランド代表MFジョン・フレックが試合中に倒れて病院に運ばれた。他にも似たようなアクシデントがいくつか起きており、健康なはずの若い選手たちの身に何かが起きているのだ。

 無論、サッカー界の心臓疾患は今に始まったことではない。2003年には元カメルーン代表のMFマルク・ビビアン・フォエが、コンフェデレーションズ・カップの試合中に心臓発作を起こして28歳の若さで他界した。2012年にはFAカップの試合中にMFファブリス・ムアンバが心肺停止となり、蘇生に成功したものの現役引退を余儀なくされた。

相次ぐサッカー選手の心臓疾患。コロナやワクチンとの因果関係はあるのか

2003年のコンフェデ杯でピッチに倒れたフォエは、そのまま帰らぬ人となった

 そして今年のエリクセンなのだが、これまでサッカー界を震撼させた心臓発作は9年おきに1回ほどの頻度でしか起きてこなかった。それが今シーズンに入って多発しているのである。そうなると、どうしても新型コロナウイルス、そしてそのワクチンとの因果関係を勘ぐってしまう。その件について、英紙『Daily Mail』がスポーツ心臓専門医のサンジェイ・シャーマ教授に話を聞いている。

不運が続いているだけ?

 イングランドサッカー協会(FA)にも協力しているシャーマ教授は、新型コロナウイルスとの因果関係を否定する。「皆さんはすぐに新型コロナウイルスや、そのワクチンによる心筋炎との関係性を疑うだろう。しかしエリクセンの発作はコロナウイルスやワクチンとは無関係だし、アグエロもフレックも無関係だ」と断言する。

 シャーマ教授は、サッカーのインテンシティの向上による肉体への負荷、さらにコロナ禍に入って以降の過密日程といった影響については否定できないとしたうえで「私はサッカーとの因果関係さえないと思う。単なる不運が続いているだけだと考えている」と英紙に語る。エリクセンやアグエロのような一流選手が倒れたことで、SNSの普及も手伝って不安を煽る形になったというのだ。

 英国サッカー界では、1997年にFAが心臓検査プログラムを導入して以降、心臓発作で命を落とした選手は8名しかいないという。一方で、毎年600名以上も一般的な英国の35歳以下の若者が心臓疾患で命を落としているそうだ。これまでも若者の心臓疾患は日常的に起きていたが、今回こうして有名選手の身に起きたことで「過剰に騒がれている」というのだ。

 シャーマ教授は「(サッカー界の心臓疾患が)増えていると考えるよりも、統計上の偏りに過ぎないと思う」と話すのだが、本当に偶然と考えて良いのだろうか?

コロナとは本当に無関係か

 厚生労働省の発表によると、ワクチンの種類や年齢や性別によっても異なるのだが、新型コロナウイルスワクチン接種後に100万人あたり最大で80人ほどに「心筋炎・心膜炎」の疑いが報告されているという。

 だからといって、決してワクチンの危険性を指摘したいわけではない。英オックスフォード大学の研究によると、ワクチン接種による副反応よりも、新型コロナウイルス感染症によって心臓疾患を引き起こして入院または死亡に至るリスクの方が高いと出ているのだ。

 だが、いずれの場合も一般人が「心臓の炎症」の自覚症状を訴えたケースのデータに過ぎない。当然、心臓に何らかの問題が生じても、軽症のため無自覚の人だって多数いるだろう。何より、体を酷使するサッカー選手と一般人を同じデータやリスクでひとくくりにしてよいのだろうか。

 サッカー界の一連の心臓疾患について、新型コロナウイルスとは無関係だと信じたいが、本当にそう言い切れるのだろうか……。


Photo: Getty Images

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