ウェストハムのチェコ代表MFトマーシュ・ソウチェク(29歳)は傷だらけのプレーヤーだ。
今では世界最高リーグでプレーし、代表チームで腕章を巻くソウチェクだが、必ずしもエリート街道を歩き続けてきたわけではない。
そんなソウチェクは先日、クラブ公式ポッドキャスト番組に出演して自身のキャリアを振り返った。今では守備的MFとして中盤の中央に君臨する192cmのソウチェクだが、若い頃はストライカーだったという。「子どもの頃、5歳から12歳まではストライカーだった。でも、徐々にポジションが低くなっていったんだ。ストライカーはゴールを決めないといけないのでプレッシャーがかかることが多いからね。ゴールを決めるよりも守るほうが簡単だから、今は自分のポジションに満足しているよ」
「なぜいつも、あなたなの?」
スラビア・プラハのユース時代には、その体型を生かすために彼をCBにコンバートさせる案もあったそうだが、元アーセナルのセスク・ファブレガスのようなゲームメイカーに憧れていたソウチェクは話を断った。結局、憧れた華麗な選手にはなれなかったが、質実なプレーでセスクが一時代を築いたプレミアリーグの舞台に辿り着いた。汗をかき、体を張ったプレーでチームを支え、得意の空中戦からゴールで貢献する。そのためケガが付き物で、とりわけ頭部の裂傷が多い。ケガを恐れないハードなタックルで名を馳せ、今はポッドキャスト番組のMCを務める元ウェストハムのDFジェイムズ・コリンズが「自分も頭部を何度かケガしたが、君ほど頭から突っ込んでいく選手は見たことがないよ」と驚くほどだ。
何回くらい頭部をケガしたことがあるかと聞かれたソウチェクは「手では数えきれないかもね」と冗談で返したあと「5、6回ほど頭をケガしているかな」と明かす。頭に包帯を巻いて家に帰ると「なぜいつも、あなたなの?」と妻に怒られるそうだ。
「僕はそういう人間なのさ。別に競り合う際に、ケガをしたいわけではない。でも、危険なプレーでも絶対にボールを奪いたいと思う。擦り傷や縫い傷くらいなら大したことないからね。(昨年8月の)ブライトン戦ではGKと接触して、結構ひどいケガをした。脳震盪だったよ。切り傷よりも、そっちのほうが深刻なんだ」
派手なプレーとは無縁のソウチェクだが、柄にもなくユニフォームを脱いで喜んだことがある。今年3月、敵地でのエバートン戦で、後半追加タイムにボックス内で胸トラップから右足を振り抜いて決勝点をマークしたソウチェクは歓喜のあまりユニフォームを脱いだ。「ウェストハムのキャリアで1番重要なゴールだろうね。もしかすると、僕のキャリア全体を通しても1番かもしれない。
欧州タイトル獲得のチャンスあり
今季ウェストハムはプレミアリーグで上位に着けながら、UEFAヨーロッパリーグでも順調に勝ち上がってきた。準々決勝の相手はブンデスリーガで既に優勝を決めているレバークーゼンだ。今季ここまで一度も負けていないチームを相手に、敵地で行われた先週の1stレグでは健闘しながらも試合終盤に2失点して0-2で敗れてしまった。4月18日の2ndレグでは“無敗チーム”を相手にホームで大逆転を狙う。目指すは2年連続での欧州カップ戦のタイトルだ。
昨季、ウェストハムはUEFAヨーロッパ・カンファレンスリーグを制して43年ぶりに主要タイトルを獲得した。フィオレンティーナとの決勝の舞台は、ソウチェクがプロキャリアをスタートさせた思い出の地、プラハだった。「決勝がプラハ開催だと知って、とにかくそこまで勝ち上がることを目指した。僕は10歳の頃にプラハに行って、ローン移籍を除けば14~15年ほどプラハで過ごしたからね。そんな場所でトロフィーを勝ち取るのは夢のようだった」
家族や友人のため決勝のチケットを50枚も確保したソウチェクは、勝手知るプラハでの決勝戦だったため祝賀パーティーを自分で手配したという。「決勝の晩、僕はチームメイトとのパーティーをセッティングした。
今季、ソウチェクにはEL以外にも欧州タイトルを狙うチャンスが残されている。チェコ代表のキャプテンとして今夏ドイツで開催されるEURO 2024に出場するのだ。ポルトガル、トルコ、ジョージアと同組に入ったソウチェクは「まずはグループステージ突破を目指す」と意気込んでいる。
果たしてソウチェクは2年連続で欧州のタイトルを手にできるのか? 傷だらけの男に注目したい。
Photo: Getty Images