【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#193


【追悼】キダ・タローの巻


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 5月14日に93歳で亡くなられた「浪速のモーツァルト」ことキダ・タロー先生。先生ほど、皆が好き嫌いなく敬愛されたタレントもいなかったのではないでしょうか。

40年にわたって、数え切れないほどご一緒させていただきましたが、いつもお呼びする時は「先生」。わざわざ「キダ先生」と呼ばなくてもいい唯一無二の存在でした。


 私が「漫才を書いている」とご挨拶すると「難しいことしてはんにゃね」と覚えてくださり、お会いするたびに「書いてますか!」「元気にしてる?」といつも笑顔で気さくに声をかけてくださり、気にかけてくださいました。


「どんなに慣れた仕事でも初めてのつもりでフレッシュにやらなあきません。その時が初めて見るいう方もいらっしゃるかもしれへんでしょ。せやからその日が最後になるかもしれへんと思て、手を抜かんと一生懸命やらな、きっとあの世に行ってから後悔すると思いますねん」


「実るほど頭を垂れる稲穂かな、言いますやんか。

その世界のトップの方なら後輩に範を示す義務があると思いますし、どの世界にも上には上がいたはりますねん。己が知らんだけでね。それを傲慢な態度をとったりしてたら、こんなカッコ悪いことありませんでしょう。せやからそういう人を見かけたら“かわいそうな人やな”“アホな人やな”思といたよろしいねん。アホに腹たてるだけもったいないですやんか」


 今の政治家の皆さんに聞いてもらいたいことを番組の中で、楽屋で、スタジオの隅で折に触れて教えてくださりました。


 楽曲創作についてお尋ねすると、「すぐできます。

ひらめき言うんかな……」。詳しく伺うと、「CMでは数秒でもたいがい3番まで歌詞があるんですよ。その歌詞をもらって、締め切りの前の晩に初めて読みますねん。最初の3行がひらめいたら出来上がり。そのまま寝て、翌日の締め切りまでにひらめいた部分とそのあとは流れ作業で譜面に書くだけ」「怖くないですか? もし、ひらめかなかったら」「そんなこと考えだしたら怖おうて作れませんやんか! 俺はできんねん! ひらめくや! て言い聞かせてますがな(笑)」。そのひらめきの根本は、「ここの社長はどんなふうに強調したんやろ? て、自分が社長になった気持ちで向きあうことですね。
(漫才の)ネタもそう違う? パッとひらめく時があるでしょ」「僕はたまにしかないですけどありますね」「追い込んだらもっと出てきまっせ(笑)」。


 今からでも大阪府の「指定無形文化財」に登録していただきたいです。関西人の皆さんから「わざわざそんなことせんでも心の中に残ってるがな!」とお叱りをうけるかもしれませんが、先生の功績を公的にも称えていただきたいと個人的に思っています。


 先生、たくさんの「子どもたち(楽曲)」をありがとうございました。


(本多正識/漫才作家)