【増田俊也 口述クロニクル】#10


 写真家・加納典明氏(第10回)


小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇


加納「トヨタのランドクルーザー。それを北海道用に買って。屋根付きの全天候型の四駆。向こう行ったら結構いろんな道も走れたし、想像どおりのいい車だった」


増田「ランクルは新車で購入されたんですか?」


加納「もちろん」


増田「北海道行くからって、ハーレー2台と新車のランクルを持っていくっていうのは相当にお金あったんですね、やっぱり。普通はなかなか趣味でランクルを新車でポンと買ってしまうってのは」


加納「そのぐらいは普通に稼いでたからね」


増田「そうですよね。年収何億円ですよね。向こうでハーレーを運転してどうでした。広いし車がほとんど走ってないから気持ちよかったでしょう」


加納「うん。道内回ったりしてたよ。でも、バイクは最初の頃乗ってたけど、それが馬に変わってったんだよ。俺、王国で持ち馬4頭も持ったんだよ。

自分で買った馬をね、乗馬用として。そっちの方が面白かったんだよ。バイクより馬のほうが(笑)」


増田「そっちにはまっちゃったと」


加納「そう。馬は本当に面白かった」


増田「向こうでは畑さんの住居に間借りしたんですか?」


加納「いや。違う違う。行ったら、畑さんが動物王国の中に家を1軒建ててくれてたんだよ」


増田「家を建てて待ってた(笑)。それは豪快ですね(笑)」


加納「俺は『わざわざこんなのいいのに』って驚いてしまってね」



内地より冬の暮らしが暖かい

 
増田「それはそうですよね。畑さんらしいエピソードですね。王国はものすごく広いですよね。東京ドームとかそれくらい?」


加納「いや、そんなものじゃない。もっとぜんぜん広かったと思う」


増田「そこに道産子*がたくさん放し飼いになって」


※道産子(どさんこ):北海道で改良された馬。元々の源流は江戸時代に内地から持ち込まれ、大雪のなかに置き去りにされて生き残って自然繁殖を続けた馬たち。

明治期にその寒さに強い特質を見込まれて開拓のためにさらに選択交配され、大型でパワフルな体躯となっていく。多くの個体は長いたてがみや太い四肢などを持つが、とくに決まったスタンダードがあるわけではない。


加納「そうそう。牧場として柵はあったんだけど、道産子だけは柵の外、原野に放し飼いって感じ。春から冬ずっと。冬が厳しくなって雪が深くなって、本当に道産子が雪に埋まってどうしようもなくなる時期に馬房に戻して」


増田「王国の中で、ムツさんの家と典明さんの家とどれぐらいの距離があったんですか」


加納「何十メートルかの距離ですね」


増田「そんな近くに建てられたんですね」


加納「そう。あれだけ広いなかで、家は近くに建ててくれた」


増田「初めての冬が来た時は驚きましたか」


加納「いやいや。軽いものからヘビーデューティーまで一応用意してったんだけども、ヘビーデューティーのものなんかほとんど使わなかったというか」


増田「行ってみると北海道の人は室内をガンガンに暖めて冬を暮らしてるから内地より快適なんですよね。外も雪が積もるとじゅうたんみたいなもので意外に寒さを感じない」


加納「そうか。増田さん、北大だもんね」


増田「はい。向こうの人は冬はストーブで部屋を暖めてTシャツ一枚でビール飲んでるんですよね」


加納「そうそう。そういうイメージ。

家の中はすごく暖かくするんだよ。だから家にいるかぎり内地より冬の暮らしが暖かい」


(第11回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。

3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。


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