健康保険証の代わりとなる「資格確認書」の交付を巡り、東京都渋谷区と世田谷区が下した英断に厚労省が慌てている。


 資格確認書は原則、マイナ保険証を持たない被保険者に交付されるもの。

約5000万人が対象だとみられる。国は例外措置として、後期高齢者医療制度に加入する75歳以上を対象に一律交付を認めているが、これに“反旗”を翻したのが渋谷と世田谷だ。役所窓口や被保険者の混乱を避けるため、後期高齢者に限らず国保加入者全員に交付する方針を掲げた。


 6日の衆院厚労委員会では、立憲民主党の柚木道義議員が「渋谷・世田谷方式」を巡る国の対応について追及。厚労省が先月30日、各自治体に向けて〈全員一律に資格確認書を交付する状況ではない〉とクギを刺した通知に触れ、「圧力をかけるのではなく、緊急対応を促すべきだ」と訴えた。


 マイナ保険証をゴリ押しする政府にとって、資格確認書と「2枚持ち」する人が増えては面白くない。マイナへの一本化を妨げる動きを警戒するがゆえに「圧力」をかけたわけだが、国保の保険者である市区町村のホンネは厚労省の思惑とはかけ離れている。


■渋谷区と世田谷区は羨望の的


 資格確認書の一律交付に関して、愛知県保険医協会が先月、県内54自治体を対象に聞き取り調査を実施。渋谷、世田谷に続いて一律交付する予定の有無や、実施しない場合の事務の混乱や負担の懸念などについて聞いたところ、次のような回答が寄せられた。


〈県下として通達が出れば倣うが、あまり国を刺激するようなことはしたくない。が、現場の意見としてはかなり負担を伴う作業になるので、東京の取り組みが羨ましいし、効率的だと思う〉


〈正直一律で送れるなら効率的だと思うし、そうしてほしい。県下全自治体が一律送付を決めるくらいの勢いでないと難しいと感じる〉


 厚労省が奨励する「後期高齢者だけに資格確認書を一律交付」では非効率というわけ。

マイナ保険証が使えない場合の資格確認に必要な「資格情報のお知らせ」も混在しているとあって、〈窓口では相当にぎやかになると思っている〉と懸念する声も出ている。


 福岡厚労相は衆院厚労委で「自治体の声については、しっかり承ってまいりたい」と答弁する一方、一律交付については「そうした状況にない」と従来の立場を繰り返し強調。ただ、柚木議員が「他の自治体が渋谷・世田谷方式を真似ても、国は禁止できないはずだ」と迫ると、「(交付は)自治事務でございますので、最後は自治体の判断」と“白旗”をあげた。


 国としては一律交付を認めないが、実施の判断は自治体に委ねる――。「端的に言って、ずるい答弁」(愛知県保険医協会事務局)だが、資格確認書の一律交付の機運が高まれば、国保だけでなく被用者保険にも波及するはず。次はどの自治体が続くか。


編集部おすすめ