「大言壮語」でなくて何なのか。自民党が19日、来月の参院選の公約を発表。
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公約のスローガンは「日本を動かす 暮らしを豊かに」。相変わらず何の変哲もないが、「責任政党3つのビジョン」が味わい深い。いわく①強い経済(GDP1000兆円を実現。国民の所得を5割増しに!)②豊かな暮らし(強力な物価対策と持続的な賃上げを実現!)③揺るぎない日本(世界の中心で輝く国に!)──の3本柱だ。
いちいち「!」を付けるあたり、もううさんくさい。「GDP1000兆円」や「所得1.5倍増」と並べちゃいるが、あくまでも今から15年後の2040年までの目標だ。その頃には、「責任政党」をうたう石破首相(自民党総裁)が政界にいるかも定かではない。
言うだけタダとはいえ、あまりに説得力に欠ける。名目GDPは500兆円を突破してから苦節32年をかけ、昨年ようやく初めて600兆円の大台を超えたばかり。所得1.5倍増は人口減が進む中、国内投資が現在の約2倍の200兆円程度に拡大することが前提だ。
自民党の小野寺政調会長は公約発表会見で「今回の参院選で特に訴えたいことに絞って、コンパクトかつメッセージ性が高いものにしようという方針で作業を進めてきた」と言っていたが、要するに実現可能性は脇に置いて大風呂敷を広げただけじゃないのか。まさに象徴的なのが、2本目の柱である「豊かな暮らし」に掲げた「2030年度に賃金100万円増」だ。
年金生活者は置き去り
その意味するところは何か。「23年度の平均年収420万円を前提として、今から5年かけて賃金が実質1%、名目3%程度まで上がっていくと30年度には平均年収520万円に達し、結果的に100万円増になる」(自民党関係者)という。
昨年の名目賃金は前年比2.9%増と33年ぶりの高い伸びを見せたが、実質賃金は0.2%減で3年連続のマイナス。物価上昇に賃金の伸びが追いつく兆しがあればまだしも、足元の実質賃金(4月)は前年同月比1.8%減。4カ月連続マイナスだ。経済評論家の斎藤満氏が言う。
「企業にとって最大のコストは人件費です。政治主導で賃上げを促すほど企業はそれに見合う価格転嫁を行い、結果的に物価も上がります。所定内給与は今年に入ってから平均2.4%程度上がっているが、昨年12月から実質的なインフレ率は4%を超えており、実質的にプラスにならない。この悪循環を止めるために、まずはインフレ抑制が筋。
実現できるかも分からないうえ、政策的にも筋が悪い「賃金100万円増」には実は、元ネタがある。岸田前首相が本部長を務める自民党の「新しい資本主義実行本部」の提言書だ。
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岸田前首相は先月26日、石破首相に提言書を提出した後、記者団に「賃上げを実質1%、名目3%引き上げることで、2030年度までに日本の賃金を平均100万円引き上げるという内容の提言だ」と強調。自身のXでも〈2030年度までに日本の平均賃金が100万円増加するなど、成長型経済の実現に向けた内容です〉とアピールしていた。
岸田前首相といえば、首相時代に看板政策として掲げた「令和版所得倍増」をいつの間にか「資産所得倍増」に掛け替え、議論を呼んだもの。石破自民の公約も「看板に偽りあり」のそしりは免れない。
石破首相が9日発表した自民党の公約。物価高対策が目玉のはずが、15年後の未来予想図がまさかの「1番目の公約」とは、国民もガックリだ。関連記事【もっと読む】自民参院選“目玉公約”のお笑い…15年後「名目GDP1000兆円」「平均所得1.5倍増」の寒すぎる空念仏…で詳報している。