【あの頃、テレビドラマは熱かった】


「恋のパラダイス」
 (1990年/フジテレビ)


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「波うららかに、めおと日和」のほんわか路線から一転、高校教師とホストの禁断の恋を描く「愛の、がっこう。」を放送中のフジテレビ木曜劇場。37歳にしてフジ連ドラ初主演という木村文乃に注目して見ていたら、なぜか頭に浮かんだのが、浅野ゆう子(65=写真)。

フジ絶頂期の木曜劇場の常連だった。


 1988年の「抱きしめたい!」で浅野温子とダブル主演し、「W浅野」としてブレーク。そんな彼女が3年連続で木曜劇場主演を務めたトレンディードラマの集大成的作品、90年春クールの「恋のパラダイス」について。


 浅野ゆう子、鈴木保奈美、菊池桃子が3姉妹。美人なだけでなく、一目惚れするとくしゃみが出るのが共通点だった。これに石田純一、陣内孝則、本木雅弘が絡んでおしゃれに展開するクロスラブで、主題歌は氷室京介の「JEALOUSYを眠らせて」。


 浅野がモテモテ。この頃、やさぐれ口調で豪快に酒を飲むのを“働く女子”が真似していた。一般OLがカジュアルにシャンパンを飲むようになるのもこのドラマの影響だった。


 今で言う“最上級サバ美女”のW浅野だが、当時、温子とゆう子では「格の違いがある」とスタッフから聞いたことがある。70年代後半から映画で活躍し、80年代後半には「あぶない刑事」(日本テレビ系)、「パパはニュースキャスター」(TBS系)などでお茶の間に浸透した温子。70年代にアイドルデビューしたもののパッとせず、80年代はほぼ「水着のキャンギャル」イメージだったゆう子。

先のスタッフいわく、「同格に扱ってはいけない雰囲気の現場では、ゆう子さんの方が謙虚で親しみやすかった」。


 さて、「恋パラ」最終回。浅野が最終的に選んだ石田純一は交通事故で死んでしまう! 泣き崩れた彼女がゆっくりとイヤリングを外してシャンパングラスに投げ入れ……このドラマで唯一しっとりとした場面だった。


 その“しっとり顔”が、35年後の同枠で主演している木村文乃とオーバーラップ、なんてその時は想像もつかなかった。当たり前か。


 それはともかく、それで終わらないのが「恋パラ」。時を経て日常に戻った歯科医の浅野。そこに患者として現れたのが、死んだ彼にうり二つの石田! 思わず診察用の椅子から転げ落ちて手を差し伸べられ、「ハックション」となってのエンドロールというオチ。


 おしゃれして、酒を飲み、恋をして、失敗してもまた恋をして……確かにそれが90年の若者たちの主流派だった。BMWが六本木ではカローラ扱いされていた時代。そんな時代は、1人暮らしの大学生のテレビのリモコンが「8」だけ擦れて薄くなっていた。


(亀井徳明/テレビコラムニスト)


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