7月30日、出張先の京都で亡くなったことが明らかになったのが、大手芸能プロダクション「ケイダッシュ」代表取締役会長の川村龍夫氏(享年84)。
川村氏は堺正章(78)、南野陽子(58)、高橋克典(60)、坂口憲二(49)らを育て、渡辺謙(65)のハリウッド進出を後押しし、アントニオ猪木氏(享年79)の支援者としても知られているほか、私立市川高校(千葉県)の同級生、「バーニングプロダクション」創業者の周防郁雄氏らとともに“芸能界のドン”の一人と言われてきた。
2019年に旧ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏が死去し、23年に性加害問題が大きく報じられたことで“帝国”は崩壊。昨年末には周防氏がバーニングプロの社長を退任し、会長に就任したことが事実上の引退状態と受け止められているように、芸能界で権勢を振るってきた重鎮が一線を退いたことで、“昭和の芸能界”は終わりを告げようとしている。
戦後の芸能界は故・渡辺晋氏が創業したナベプロこと「渡辺プロダクション」が隆盛を極めた。植木等、ハナ肇とクレージーキャッツ、ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、ザ・ドリフターズ、沢田研二、天地真理、キャンディーズ、森進一ら多くのスターを抱え、「イザワオフィス」の井澤健氏、「アミューズ」の大里洋吉氏ら多くの芸能プロ経営者を輩出している。
「当時、歌番組が主流だった時代、“ナベプロにあらずんば、歌手にあらず”という風潮があるほど歌番組を仕切っている状態で、さながらナベプロ王国でした。その王国に風穴を開けたのが1971年10月からスタートした日本テレビ系のオーディション番組『スター誕生!』だったのです」(ベテラン芸能ライター)
スタ誕のオーディションには各レコード会社、新興プロダクションが参加。番組で優勝した歌手をスカウトし、新たなスターが誕生したことで、ナベプロの力は徐々に弱まっていった。
「ホリプロ、サンミュージック、研音、バーニングプロ、田辺エージェンシーなど新興プロが力をつけていった。中でも、多くのアーティストの音楽出版権を保有しているバーニングは、NHK紅白歌合戦や日本レコード大賞に絶大な影響力を持つようになった」と話す音楽プロモーターはこう続ける。
■筆者に釘を刺した川村氏
「周防氏が業界に影響力を増していった背景に、接待や贈り物などでテレビ局や出版社、スポーツ紙などの幹部や記者を手なずけていき、いつの間にか“芸能界のドン”と呼ばれ、畏怖されました。その一方で、ホリプロや研音などはタレントを大量に抱え、テレビ局への影響力を強めていっています」
勢力を伸ばした芸能プロが業界団体「日本音楽事業者協会」に所属する一方、独立独歩を貫いた旧ジャニーズ事務所は売れっ子アイドルを次々に生み出し、ジャニーズ帝国を築いた。
「その間、吉本興業が東京進出。
一部に権力が集中していた業界のバランスが崩れたのが、23年春にイギリス国営放送「BBC」が報じたジャニー喜多川氏の性加害問題で、世界的な問題にまで発展した。
「キャスティング面で優位に立つ大手プロに忖度してきたテレビをはじめとした大手メディアでしたが、ジャニー氏の性加害に目をつぶってきた過去を認め、まだその途上ですが癒着関係の解消に動き出しました」(前出の芸能ライター)
筆者は、急逝した川村氏と言葉を交わしたことがある。川村氏が副社長を務めていた田辺エージェンシーの田邊昭知社長(現会長)と面談した際、事務所でばったり出くわし、川村氏は「君の正義感はわかるけど、(周防は)いい奴だから、あまり書かないでよ」と筆者に話しかけてきたことを鮮明に記憶している。筆者は当時、周防氏の批判記事を書いていたことから、友人として案じたのだろう。
戦後の芸能界を築き上げた重鎮の中にはまだ現役で頑張っている人物も少なくないが、令和にようやく終わりを迎えようとしている昭和の芸能界。業界はどのような変貌を遂げていくのか。
(本多圭/芸能ジャーナリスト)
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