【増田俊也 口述クロニクル】
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。
◇ ◇ ◇
増田「写真で生きていきたい、写真で表現していきたいというこだわりが非常に強かったわけですね」
加納「そう。やっぱり写真だった」
増田「写真。映画。文学。この3つを較べると、典明さんのなかではどんな位置関係なんですか」
加納「映画が一番かったるい。文学の方がまだかったるくないです。俺のなかでは順位として、写真、文学、映画の順だね」
増田「映画のどんなところが嫌なんでしょう」
加納「言い訳が多いんだ」
増田「言い訳?」
加納「なんていうんだろう。映画は説明過多に過ぎるんだよ。だからグッとくる部分が少ない」
増田「少ないですか」
加納「ないね。ほとんどない」
増田「ニューヨークから戻ってきた頃、27歳のころにはすでにその境地に?」
加納「そう。いってた」
増田「やっぱり早熟だ。
加納「ただ、映画でいえばジェームス・ディーン*なんかは俺もいいとは思った。映画のうんぬんではなくて役者としてだけどね。彼は有名な演劇学校出てるんだけど、なんて言うんだろう、生地に持ってるもの。地の物。そういう良さを感じた」
※ジェームス・ディーン:1931年生まれ。24歳で夭折した伝説のアメリカ俳優。20世紀の文化に影響を与えた最高の1人だと言われる。代表作に『エデンの東』『理由なき反抗』など。
増田「でもジェームス・ディーンであってもやはり写真には敵わないと」
加納「無理だね。ぜんぜん無理。映画では写真のショット感というかスナップスというか、1発勝負の世界に敵うわけがない。彼なんかは俺のカメラで写真を撮ってみたかったよ」
とことん鋭く、先鋭的で挑戦的に
増田「映画よりスチール写真の方が上だとするその理由はどこにあるんですか」
加納「動画、映画というのは1つのテーマとか撮るけど1枚じゃない。
増田「なるほど」
加納「日本刀を撮ったことがある。刃の方から撮った。するとただの線にしか見えない。その線だけの写真で、どれだけ切れるものに見えるかどうか。あの撮影はすごく時間がかかった。10時間くらい。刀一本を撮るのにそれだけやった。それでも俺は全然疲れもしないし、まだ(撮り方が)あるぜ、まだあるぜと(撮る角度を)探すわけだよ。
増田「典明さんのことを僕はシャッターを切る芸術家だと思っていたんですけど、こうしてじっくり聞いていると実は言葉の芸術家でもあるんだっていう風に思えますね。それだけの言葉を持たれてて、その言葉が古い蒸留所のウィスキーのように熟成してる」
加納「言霊ね。でもさ、源氏本とかじゃないけど、昔からのそういう小説、ストーリーっていうのが、俺、みんな言い訳に見えるわけよ。でも1枚の写真ってのはメッセージに見えるわけ」
増田「それは面白です」
加納「俺にはそう見えるし、実際にそうだと思う」
増田「ヌードでも何でも」
典明「もちろん。ヌードでなくてもとにかく写真ていうのは鋭くないと。スチール写真が放つそのメッセージをどう受け取られようが、誤解も含めて俺は一向に構わない。でもやっぱりとことんまで鋭くありたい。先鋭的でありたい。挑戦的でありたい。俺はそういう人間、そういうクリエイターなんだ」
(第35回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
(増田俊也/小説家)