〈任務完了しました〉――。日米関税合意を受け、交渉役である赤沢経済再生相が自身のXに、そう投稿してから早1カ月。
■「共同文書を作るメリットは米側に」
赤沢大臣は27日の会見で、訪米の目的について「可及的速やかな相互関税の修正措置、自動車関税の引き下げを強く申し入れる」と説明。税率15%を「上乗せしない」という相互関税の特例措置の実施と、いまだ発動時期の分からない自動車関税15%への引き下げを求めるはずだった。ところが、出発直前になって事務的に確認すべき事項が判明したとして、急きょ訪米を中止した。
今後の焦点は、米側の関税引き下げの見返りに日本側が約束した対米投資5500億ドル(約80兆円)に関する文書作成だ。赤沢大臣は合意履行を優先して「今、文書を作るとまずい」と説明してきたが、日本からの投資の着実な履行を担保したい米側の意向を踏まえ、方針を転換。26日の閣議後会見では「共同文書を作ることにメリットを感じるのは、日米間どちらかといえば、米側だと思います」と、言いなりの様子だった。
「任務完了」どころか、ここからが正念場
赤沢大臣が親しみを込めて「ラトちゃん」と呼ぶラトニック商務長官は言いたい放題だ。対米投資80兆円に関して、25日の米FOXニュースで「トランプ大統領の手中にあり、自由に投資できる」と従来の主張を繰り返し、「今週後半に日本との合意について発表する」と宣言。一方、赤沢大臣はラトちゃんの発言に「承知しているが、コメントしない」と口をつぐんだ。
参院選のさなかに功を急ぎ、ロクに合意内容も詰めないままディールした結果、このザマだ。
「結局、7月末の電撃的な『合意』とは何だったのか。詳細を詰めずに口約束を交わしたツケが今になって回ってきたと言わざるを得ません。対米投資について、トランプ大統領は『5500億ドルの契約金を受け取った』と主張し、投資から得られる利益の9割を取るつもりですが、日本政府は『あくまで出資・融資などの上限額』と説明しています。互いに大きな齟齬がある中、米国の要望に沿って文書を作る流れでは、米側に有利で日本にとっては厳しい条件を突き付けられる可能性がある。最悪、決裂だってあり得ます。難易度の高い交渉になること必至で、『任務完了』どころか、ここからが正念場でしょう」
懸念されるのが、相互関税の特例措置の実施や自動車関税の引き下げが明文化されるのかどうかだ。対米投資に関する文書作成だけが先行しては、日本の要求はいつまでも口約束の域を出ない。
「7月の時点で、米側が関税引き下げをきちんと履行することを条件に合意文書を作っておけば、こんな不安定要素はなかったはずです。
「(私は)格下も格下」──。トランプ相手に、こうへりくだった赤沢大臣が交渉役では、対米従属も深まるばかりだ。
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