【増田俊也 口述クロニクル】
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。
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増田「雑誌なんかでアラーキーさんのことを『息するように写真を撮る』と言ってますよね」
加納「そう。呼吸感。うん」
増田「これも先日少しお聞きしたことと重なりますが、あの2人を見て、プロ同士だから分かると思うんですけど、やはり出るべくして出てきた2人なんですか。つまり、他にも撮り手としては色々いたけど、運よく出てきたのか、あるいは何か持ってて、実力的に抜けてるところがあるから出てきたのか。いわゆる才能ですね」
加納「彼たちが自分で作った具体がそれだけの力を持ってたってことですよ」
増田「才能があったと」
加納「もちろん。そこに編集者なりメディアの人だったりが、目をつけるとこはつけてたっていうか」
増田「ヌードの3強、3巨匠の天才性を発掘したメディアは、やはり僕もすごいと思います。メディアは離したくなかったでしょう。使い続けたかったと思います」
加納「うんうん」
増田「ヌードの撮影中は、典明さんは女優さんや歌手、モデルさんたちと気持ちの交歓といいますか、テレパスのようなものを感じてましたか」
加納「それはもう、そのときの渡り合いですね」
増田「ヤクザの斬った張ったの世界に似て」
加納「綺麗に撮ろうとかじゃなくて、俺は『どう斬ってやろうか、この子を』っていう感覚だったね。どう解釈しようかなと。で、そのことは意識的に言わないけど、撮ってるうちに結局そういうことをやってるわけですよね。だから僕が写真撮ってるとこを見たがる人もいるけども、それは今想像してもカメラマンは写真撮ってるところが一番かっこいいだろうなとは判ります」
増田「でしょうね。
今で言うセクハラっぽい性的なことは…
加納「そうそう。だからスタジオにいる俺が一番光ってたと思う。ギラギラにね」
増田「そういうときは被写体である女性と話したりしてるんですか」
加納「渡り合ってるときは普通のとこでは言わないようなことも言ってますね。ああしてこうしても含めて『ちょっと踊って』って言ったり、耳元で囁いたり」
増田「今で言うセクハラっぽい性的なことも?」
加納「そういうのはあんまりないですね。極力そういうのは言わないようにしてた。でも、耳元で何か囁いたりすると、僕は声が悪くないから、女性には響くらしいんですよ。ズーンと」
増田「それは強力ですね(笑)」
加納「こっちはそんなつもりで言ってないんだけど。こうしてほしいああしてほしいってだけで言ってるだけ。効果として言ってる気はさらさらないですよ。仕事の後に会いたいなとは思うことがあるけど、その前に女の子が撮影中にしがみついてきたりして『ちょっと待てよ』つって、こっちが言ったりとかしたことありますね」
増田「撮影されてるだけでですか」
加納「そう。撮ってるときに」
増田「向こうが性的に興奮して?」
加納「抱きついてくる。もう催しちゃってね(笑)」
(第43回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
(増田俊也/小説家)