国民的な自民党嫌悪の引き金となった裏金事件をめぐって10日、政治家が初めて法廷に立った。約5100万円の裏金をつくったとして政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴された元参院議員の大野泰正被告(66)だ。

初公判で起訴内容を否認。「無罪を主張いたします」とキッパリ否定したが、だとすれば、税務申告せずにカネを懐に入れたのだから、少なくとも脱税に問われなければおかしい。


 起訴状によると、大野氏は会計事務を担当していた元秘書の岩田佳子被告(62)と共謀。所属していた旧安倍派が開いた政治資金パーティーをめぐり、2018~22年にパー券収入のノルマ超過分として計約5100万円のキックバックを受けたにもかかわらず、収支報告書に記載しなかったとされる。還流を受けた議員側で最多額だ。


 検察側は冒頭陳述で裏金の受領について、元秘書だけでなく大野氏も派閥事務所を訪れてキックバックを現金で受け取っていたと主張。大野氏の個人口座に入金されることもあったという。使途については「元議員の飲食費やクレジットカードの支払い、事務所の経費に充てられた」と指摘した。


■元秘書も無罪を主張


 在宅起訴された大野氏はやつれた様子もなく、濃紺のスーツにストライプのネクタイ姿で出廷。起訴内容の認否では「私のレベルでは今回の問題の原点となった派閥のことは分かりません。報道されるまで収支報告書に記載があるのかないのかさえ知りませんでした」と釈明し、「(元秘書との)虚偽記載の共謀は一切ない。政治的、道義的責任はあるが、犯罪は犯したことがない」と訴えた。

当選2回。岐阜県議上がりの世襲議員にしてはおぼこい弁明だ。元秘書も無罪を主張した。


 政治資金は課税対象外だが、キックバックは別物だ。使途を限定せずに受け取ったカネなのだから個人所得とみなされ、税務申告しなければ所得税法違反のはずだ。


「裏金事件は虚偽記載だけでなく、脱税も問われるべき事案です。議員にわたった裏金は全額が雑所得にあたり、所得税と住民税を課されるべきもの。会計責任者におっかぶせ、政治家が知らぬ存ぜぬなんていうのも筋違い。『法的実質』で見なければいけない。企業が法人税法違反に問われれば、経理部門トップだけでなく、管理責任を負う社長も罪に問われる。裏金事件も同じです」(立正大法制研究所特別研究員・浦野広明氏=税法)


 自民の「政治とカネ」をめぐっては、埼玉県連幹事長が政治資金を私的流用した疑いが浮上。25年までの6年間で約2900万円をくすねた可能性があるとして役職停止中だという。

再生を期した総裁選の号砲が鳴っても、宿痾は宿痾のままだ。


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