【増田俊也 口述クロニクル】#45


 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 


増田「恋愛やセックスがらみの女性との出会いも写真家としての醍醐味だったでしょうが、男どもとの出会いなどもディープだったんではないですか」


加納「勝新(勝新太郎)とは仲良かったよ。彼はなんか持ってた」


増田「被写体としては撮りやすいですか」


加納「最初は座頭市の何かを撮ったんだよね。そんときに俺が撮りながら、いろいろ言うわけだよ。『ああして』『こうして』とかなんか言うわけだ。そのうち勝新が笑い出しちゃったわけで。ポーズを決めなきゃいけないときに大声で笑いはじめてね。それで俺は勝ったっていうわけじゃないんだけどね、そんな感覚を持った。そしてらやっぱり勝新はそれが印象に残ったらしくて、それから付き合いが始まったんだ」


増田「どういう方だったんですか」


加納「豪快な人物だったね。うん」


増田「面白い人だといいますね」


加納「あの人はね、直感力持ってるよ。直感力っていうか、感じる力。それが非常に鋭い。

図体や、あのイメージよりはるかにシャープなものを持ってたね」


増田「酒は?」


加納「一緒にドライブなんかすると運転しながら飲酒する人だった。全然平気でやってたよ」


増田「あんな無邪気な人は出づらい時代になってますね」


加納「楽しく生きた人じゃないかな。同時に自分を通せた人じゃないかな。人間の持ってる自由さの意味っていうか、自由さのほんとの楽しさというか、潤いというのかさ、勝新くらいそれを持って感じてる人って、そんなにいないと思うよ」


増田「イメージ通りの人ですね」


加納「いまの若者に言いたいのは、やっぱり自分で自分を縛りすぎてるよって。もっとリラックスしなさいって。精神のリラックス、挨拶とかそういうことも含めてそうかもしれないけど、根本的な精神のリラックスを得ないといけない」


増田「勝新さん以外ではどんな方と交流を?」



「蓮舫を撮った。いい女。俺は嫌いじゃない」

加納「石原慎太郎なんかはやっぱり印象に残ってるよ。選挙のポスターも撮ったしね」


増田「そういえば慎太郎さんとはヨットに乗って15日間でしたっけ。パラオまで一緒に行きましたよね」


加納「そうだね」


増田「そういう流れのなかで選挙ポスターも?」


加納「どっちが先だったろうな。もちろん知ってはいたんだけど、俺はよっぽど気に入らないと選挙ものは撮らないから。どうでもいい人を撮ってもしょうがないんで。

主義主張でどうのこうのではなく、人間的に興味を持てる人」


増田「石原慎太郎は人物として魅力がありましたか」


加納「彼と会って、その印象が僕の感覚の中でしばらく残った。そういう人ってあんまりいないですけど。小説家としては歴史に大きく名前が残るような人ではないかもしれないけど、人間としては魅力がある」


増田「選挙ポスターって他に誰か撮られたことがありますか?」


加納「石原の息子とか」


増田「女性の選挙ポスターは?」


加納「選挙ポスターじゃないけど蓮舫は撮った。あれはいい女だよ。俺は嫌いじゃない」


  ◇  ◇  ◇


(第46回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。

北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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