太平洋戦争の終戦から80年。当時の生き証人も少なくなったが、戦争を扱った映像作品を通じて現代人が学び、考えるべきことは多いはずだ。
■特攻作戦の壮絶さと乗組員たちの人間ドラマを鮮やかに描く
2005年4月、鹿児島県枕崎の漁港を訪れた女性・内田真喜子(鈴木京香)は、北緯30度43分、東経128度4分まで船を出してほしいと老漁師の神尾克己(仲代達也)に懇願する。そこは戦艦大和が60年前の昭和20年4月7日に沈んだ場所だった。神尾はかつて新兵として大和に乗艦していた。操船しながら彼の胸に60年前の光景が甦っていく...。ミッドウェイ海戦での大敗によって窮地に追い込まれた日本軍。太平洋各地では守備隊の玉砕が相次いて日本軍の劣勢は明らかだった。
映画のクライマックスは、沖縄水上特攻作戦だ。空母を失って航空支援が得られないことを思えば無謀な作戦である。600機近い圧倒的戦力を誇る米軍機から容赦ない空中攻撃を受け、乗員数千名と共に大和は東シナ海の藻屑と消えた。特攻作戦ゆえに、勝算のない戦いだったかもしれない。劇中でも「我々の死に意味があるのか。無駄死にではないのか」と、作戦に異を唱える兵士と上官が激論する場面がある。
■若き松山ケンイチの出世作。中村獅童の熱演も素晴らしい
俳優陣では、内田を演じる中村獅童が飛び抜けて素晴らしい。目を負傷して入院中だった内田は大和に乗艦する必要はなかったが、病院を抜け出して強引に乗り込む。鬼気迫る表情で戦い、傷つきながらも戦おうとする神尾を制して「生きろ」と伝える場面が印象深い。鈴木京香演じる真喜子は彼の娘であり、最初と最後に彼女が登場する意味を考えると、本作の事実上の主人公は内田であったのではないかとも思わせるが、中村獅童の演技は本当に見事だった。松山ケンイチは2002年に俳優デビューし、本作ではオーディションで神尾役を射止めた。松山は「ターニングポイントになった作品」と本作を語り、以降は戦争や平和を深く考える契機になったという。同年の日本アカデミー賞新人俳優賞も受賞し、出世作となった。
反町は戦争映画としては地味な存在の調理担当の兵士役だが、最後の海戦では血みどろになって戦い抜く。神尾たち若い兵士の心の支えにもなる人徳のある役どころを好演した。
女優陣では、鈴木京香をはじめ、神尾の同級生・妙子を演じる蒼井優も魅力的。内田と馴染の呉の芸者を演じる寺島しのぶも出番は少ないものの、じつに味わい深い演技を見せてくれる。
単純な反戦映画に留まらず、重厚なヒューマンドラマに仕立てた大作映画「男たちの大和/YAMATO」は、中高層はもちろん、現代の若い世代にも見てほしい作品だ。本作で兵士を演じた俳優たちは、実際に大和に乗艦した人に艦内での作法や立ち振る舞いの教えを受けて撮影に臨んだという。今はそれも難しくなってしまった。そう思えば、改めて貴重な作品であることがわかる。戦後80年の節目に改めて観賞して、戦争の愚かさと平和の意味をかみしめてほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
男たちの大和/YAMATO
放送日時:2025年8月7日(木)20:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります