ついにカプコンのサバイバルホラー「バイオハザード」シリーズ最新作『バイオハザード7 レジデントイービル』が発売されました。初代のリリースから20年以上が経過しており、偏に「バイオハザード」といっても様々な作品がありますが、『バイオハザード7』はどのような「バイオハザード」なのでしょうか。


本作のディレクターである中西晃史氏にそんな問いかけを投げると、初代『バイオハザード』を遊んだ時に自身が体験したこと、つまり“恐怖”にフォーカスした作品だと回答。初代の恐怖は後に「そこを歩く、という恐怖」というキャッチコピーを生み出し、本作には「すべては“恐怖”のために。新生したバイオハザード。」というキャッチコピーが付けられました。原点回帰でありつつも新しい――それが『バイオハザード7』が目指したものなのです。

さて、本作が発売されてまもないタイミングでインサイドが新たにお届けするのは、新生「バイオハザード」の恐怖を支えた最新技術に迫る記事です。その技術の名は「フォトグラメトリー」。
人物や物を複数のカメラで撮影し、自動的に3Dモデル化するというもので、本作に登場するほぼ全てのキャラクターには実在するモデルが居り、服のシワから手の筋まで細かくスキャン。ゲーム内オブジェクトやステージ背景などにも現実世界のものが使用されているのです。既にプレイされている方の中には、そのリアルさに驚いた方もいらっしゃるかもしれません。

この技術に迫るため、我々は大阪にあるカプコン研究開発ビルを訪問。『バイオハザード7』の海外マーケティングプロデューサーの神田剛氏、アートディレクターの津田壽彦氏、そしてキャラクターアーティスト(以下キャラ担当)、3Dスキャンスタジオ担当スタッフ(以下、スキャンスタジオ担当)の方にもお話を伺ってきました。なお、インタビュー部分には一部ネタバレが含まれますのでご注意下さい。


◆チームに課せられたオーダーとは

――フォトグラメトリーや3Dスキャン技術にはどのように出会ったのでしょうか。

スキャンスタジオ担当:3Dスキャン自体は2012年リリースの『重鉄騎』から使い始めた手法で、その頃ゲーム業界では3Dスキャンの技術が流行りつつあったんです。技術を知った時から「この技術は必要だ」と思いまして、色々と調べ始めました。当時は「レーザースキャンで測量する」というのが多かったんですが、調べていくうちに“フォトグラメトリー”のことを知りました。専門的な用語が並びますが、点群(ポイントクラウド)を生成した上にポリゴンメッシュ(非構造グリッド)を貼り、さらにテクスチャーまで自動的に作ってくれるという、まさに「これがほしかったんだよ!」とも言うべき凄くゲーム制作に都合のいい技術だと思いました。

ですので、何かのゲームで使うから導入したというわけではなく、そもそもは技術研究としてフォトグラメトリーの研究が始まりました。
『バイオハザード7』で採用されることになったのはその後ですね。

――ではなぜ『バイオハザード7』で採用されたのでしょうか。

津田:ナンバリングタイトルである『バイオハザード7』に求められているクオリティと時間を解決するためなのですが、そもそも『バイオハザード6』の開発を終えた段階で「今の作り方には限界がある」と感じていたんです。そのため『バイオハザード7』の開発には“新技術の試作期間”が最初から設けられていまして、その期間を使ってフォトグラメトリーを試してみることにしたんです。そしたら「これだ!」となりましたね。そして現在の本格的な3Dスキャンスタジオを設置する事になりました。
基礎研究があり、タイトルの要求があり、それが全て合致したんです。

――今までとは違う手法で開発を行うことになったわけですが、導入や移行はスムーズに行ったのでしょうか。

津田:そもそも『バイオハザード7』チームには「何か新しいことをやらなくては」「今までと一緒でいいわけないよね」という課題があったので、「そんなことやって意味あるの?」みたいなことはなかったです。それよりもゼロからチャレンジするということにワクワクしました。

スキャンスタジオ担当:全く新しい分野というよりも、新しい道具が一つ増えたという認識ですね。

――フォトグラメトリーが実際の作品で採用されたのは『バイオハザード アンブレラコア』からだとお伺いしましたが、その時はどの様に使用されたのでしょうか。


スキャンスタジオ担当:「アンブレラコア」ではプレイヤーキャラクターの装備類に使用しました。装備がかなり細かいんですよ。

――発売時期的には『バイオハザード7』の方が後発となりますが、『バイオハザード アンブレラコア』から進化している部分などはありますか?

スキャンスタジオ担当:実は開発を始めたのは『バイオハザード7』の方が早く、フォトグラメトリーを使い始めたのは同時期だったので、『アンブレラコア』のノウハウが――というよりもお互いの開発で得たノウハウをリアルタイムに共有していました。課題もだいたい同時期に同じようなものが出てきました。

キャラ担当:ですので常に実験という感じでした。例えば「死体はどうやって作ろう」となったことがありまして、その時は「スキャンで人間を作っているから、死体もスキャンの方が良いだろう」「傷を特殊メイクアーティストに作って貰ってからスキャンしたらどうなるんですかね」というやり取りをしました。


そうした試行錯誤をしていると、だんだんスキャンには向くもの、向かないものが分かってきまして、「これはPCで作った方が早い」といった判断ができるようになっていきました。

◆「そのまま出る」は利点であり欠点である

――特にどういったことに苦労されたんでしょうか。

津田:良くも悪くも“そのまま”出てしまうんです。でもそのままでは出せない。たとえば、衣装などは権利の問題もあるので、リファレンスから加工する必要があります。加工しすぎるとスキャンする旨味がなくなるのでそのあたりのさじ加減は苦労しました。スキャン後のデータは大きくは弄れないので、準備の部分でクオリティが決定してしまうんです。だから準備に使う時間とその後に使う時間の配分は大きく変わりましたね。

あ、さも自分がやっていた様に言っていますが、自分は傍から見ていて大変そうだなと(笑)。社内に“衣装担当“なんていないんで、全部自分たちで集めていました。

スキャンスタジオ担当:本当はこの質感の布がいいけど、スキャンには向かないから別の素材で……となったら、また探しなおしなんですよね(笑)。

キャラ担当:以前のやり方だったら「ここがちょっと違うね」となっても、PC上での修正で簡単に解決したんですけどね……。あと、衣装の汚れなんかも気を使う必要がありまして、最初は実物を汚したり破いたりしていたんですが、後から「求めていたクオリティや方向性と違う」となった場合は修復しないといけないので、「これはスキャンした後にPCで加工したほうが良い」となりました。

津田:そういう“何をどのタイミングでやるか”というのは非常に重要でしたね。

スキャンスタジオ担当:あと、これらの現象はモーションキャプチャーが出てきた時に起こった「動きはリアルだけど、格闘ゲームとしては迫力がないな」みたいな事象に似ているんですが、ついに3Dモデルでも同じような事が起こってしまったか……と(笑)。

――とはいえ非常に魅力的な技術であったと。

スキャンスタジオ担当:全体のクオリティが格段に上がるんです。リアルな話ですが、1人の優秀なアーティストに1つの3Dモデルを最初から最後まで掛かりっきりで作ってもらうと、非常にクオリティの高い3Dモデルは出来上がりますが、個人のマンパワーに頼ってしまい、時間もよりかかってしまうなど品質に対する代償も大きかったのです。ところが、フォトグラメトリーを用いれば、誰でも一通りのオペレーションを習得出来さえすれば、一定以上のクオリティになるので、全体的な底上げになるだけではなく、時間をより有効に使うことができるんです。

例えば衣装のシワですね。実は自然なシワを作るのって高い技術が必要なんですが、フォトグラメトリーがあればスキャンしたシワがそのまま反映されます。

――そういえばミアが履いてるジーンズはいいシワでしたね。

津田:左右が非対称なところがいいんですよね。

キャラ担当:あれは役者の方にポーズを取ってもらって、そこから綺麗なシワを手作業で作っていったんです。「足が痺れてきたんですけど……」「あ、あと5分だけお願いします!」って(笑)。袖のシワも一つひとつ摘んで綺麗な流れになるようにしたり、捲くった状態など複数のパターンで作ってみたり……。

津田:やっぱり心配になるんですよね(笑)。後から変更できないんで。

◆ほぼ全てのキャラにモデルが居た

――少し話が出ましたが、効率や制作スピードの面ではどうでしょうか。

キャラ担当:プレイヤーキャラクターレベル(もっとも高品質を求められる)だと、最終的に掛かる時間は一緒ぐらいですね。ただ費やす時間に対するクオリティは格段に上がりました。また、それ以外のキャラクターだと段違いのスピードで作れるようになりましたね。

津田:確実に言える事は、現状『バイオハザード7』で出ているクオリティはフォトグラメトリーを使わないと到達しないということです。今振り返っても、目指すものを実現させるために必要な技術だったと思います。

――因みに人間のキャラクターはあまり加工されないのでしょうか。

キャラ担当:基本的にはモデルさんの顔がそのまま出ていますね。ただ一部のキャラクター、例えばマーガレットのモデルさんは設定年齢よりもだいぶ若い方だったのですが、皮1枚被るぐらいの特殊メイクを施しました。

――ではキャスティングはどの様な基準で行われたんでしょうか。

津田:気にするのは顔と全体の雰囲気ですね。モデルさんの顔よりも全体の雰囲気を選び、特殊メイクで顔を合わせたキャラクターもいます。

キャラ担当:人間をスキャンする場合は、その時のモデルさんの印象がそのまま出るんですよ。なので、キャスティングは慎重に進めました。

スキャンスタジオ担当:後は「顔はこの人がイメージに近いけど、佇まいはこっちの人だよね」というパターンもありまして、その場合は「顔はこの人で、体はそっちの人にして、後で合体させよう」となったりもするんです。

――因みに、現実に実在しないクリーチャーはどのよう作られたのでしょうか。

キャラ担当:クリーチャーはスキャンできないので、従来通りのフルスクラッチですね。“人間”とは全くアプローチが違います。ただスキャンした人間と並べても違和感がないようにする必要があったので、いつも以上に時間は掛かりました。これも作りながら調整していったんですが、スキャンした人やモノの中に囲まれるという「なんだこの虐めは!?」状態でしたので(笑)。

神田:プロモーションに使用する追加素材のリクエストが沢山くるんですが、クリーチャーのクオリティはどれも凄いですね。ディテールがよく出ていて、スキャンした様な見栄えです。素材としても使い応えがありました。

津田:恐らくこの環境は急速なスキルアップを招いたと思います(笑)。

キャラ担当:冷や汗を流しながら作りました(笑)。ただ昔と同じ作り方と言っても、全てがそうではないです。これまでは手作業で血管などのディテールを描き込んでいましたが、今回はフォトグラメトリーを用いているので、できるだけイメージに近い素材からテクスチャーを持ってきています。というのも、手で描き込むと空想感が出てしまうんです。だからといってナチュラルにしすぎるとキャラクターとして薄れてしまうので、そこのバランス感覚はフォトグラメトリーに対応して、新しくなりましたね。

――(巨大なハサミを持って襲ってくる状態の)ジャックはどちらの作り方なんでしょうか。

キャラ担当:チームでは“ハサミジャック”と呼んでいるジャックですね。あの状態はスキャンして作っていますが、顔はモデルさんで、体は社内のスタッフです。たまたまオフィスを歩いていた彼を見かけ、「いい体してるね、撮っていい?」とパンイチになってもらいました(笑)。ただ、それだけだと迫力が足らないんで、ゲームに実装してから色々と調整しました。

――オブジェクトや背景にもフォトグラメトリーを用いているのでしょうか。

津田:そうですね。割合で言うと少ないんですが、まずは物や地形を探すところから始めます。その上で、重要なものや画面の占有率が高いもの、複雑なものなどはスキャンして行きました。逆にこの世に存在しなかったり、PC上で作った方が早いものや、ゲームの仕様で形状が変わりやすいもの、小さすぎるものなどはスキャンを避けました。

キャラ担当:スマートフォンなどの工業製品、髪の毛もスキャンには向いていないので、そういう素材や形状でも判断しています。

スキャンスタジオ担当:特に髪の毛は、隣と隣が融合していて1つの固まりになってますからね。そういうのは専用のCGで作って、後から合成させています。

津田:とはいえ何だかんだスキャンしましたね。例えば作中に出てくる動物の剥製は、本作の舞台であるルイジアナでスキャンしたものです。あとマネキンもスキャンですね。ルイジアナに佇んでいるのを見つけまして、何処かで使えるだろうと(笑)。

――ルイジアナ取材ではどのようなことを行ったのでしょうか。

津田:舞台なので一通り見て周りました。スキャンできそうなものを探したり、実際の建物の広さを確認したり。実は体験版にも出てくるピートはうちの社員がモデルなんですが、彼には実際に現地の家の中を歩いてもらいました(笑)。

――逆に日本でスキャンしたものや地形はありますか?

津田:いくつかありますが、例えば食事は鶴橋(焼肉が有名な大阪の地域)のホルモン屋さんで買ってきまして、最初は凄くおいしそうだったので不味そうに加工しました。

あと地形は奈良に行って撮影したりしました。そういった欲しいものや地形を探すといった準備は、キャラクターのスキャン同様に時間を要しました。

◆とにかく手を見てほしい

――様々な場面でフォトグラメトリーが活用されていますが、今後フォトグラメトリーはどのような展開を遂げると思われますか?

スキャンスタジオ担当:今はスキャンしたものをそのまま“活かす”形で使っていますが、研究が進めば“スキャンして素材として使用する”という使い道がもっと広がるようになっていくと思います。例えば「ここはスキャンだけど、ここは手作りで」という感じですね。

キャラ担当:今はクオリティに驚いている段階で、ここからが応用の段階かなと思います。

津田:背景もフルスキャンで作れるようになるかもしれません。テーマパークを作るようなもんですが(笑)。でも真剣にそういう話をしている人はいますし、そういうちょっと無茶かなと思えるぐらいの方が驚きがあっていいですよね。

スキャンスタジオ担当:あとスキャンを用いればCGを使えない人でもアート部分に参加できるようになり、これまでゲーム作りでは活躍してこなかった特殊メイクなどのアーティストさんたちと一緒に仕事ができるという面白みが出てくると思います。

キャラ担当:採用の面でも今までは絵やCGの上手さを見ていましたが、こういう技術が出てきたので、リアル造型や特殊メイクを専門にやってきた方も採用するようになると思います。実際に今年や去年の新人で、そういう分野が得意なアーティストが入ってきているんですよ。

――では最後に本作の注目ポイントを教えて頂けますでしょうか。

神田:本作ではオブジェクトを回したり、VRだと覗き込んだりもできますから、今まで以上にアート感のようなテイストも感じられると思います。恐怖やサバイバルホラーという“ゲーム”としての魅力はもちろんですが、プレイに余裕が出てきたら1つ1つの素材も楽しんで頂きたいですね。

津田:一人称視点なんで色んなオブジェクトをじっくり見てほしいですね。後は没入感やリアルさを重要視して作っているんで、全体の雰囲気から何かを感じ取ってもらえたら作り手としては非常に嬉しいですね。

キャラ担当:ぜひ“手”を見て頂きたいんです。「これほど手に拘ったゲームがあっただろうか!?」というぐらい頑張っていまして、様々なポーズから出てくる筋やシワ、肉の膨らみなんかも全部記録して、ものすごい手間隙を掛けて作っています。

津田:手への拘りは最初の頃から言っていましたよね。「主人公の顔が出ないから手が顔だ」と。

キャラ担当:今回の手は本当に凄まじいです。体験版でも見られますが、暖炉内のレバーを引く時の手は特に凄いです!(笑)。この手にはモデル班やアニメーション班の努力、熱意、技術、執念、陰鬱…などが詰まっていますので(笑)、ぜひご注目ください。

――また神田さんには第一開発部のプロデューサーとして、今後の活動に関するメッセージをお願いします。

神田:今後も「RE ENGINE」を軸に、世界に負けない尖ったタイトルをグローバル向けにお届けしていく予定です。また、今回ご紹介させて頂いたフォトグラメトリーや3Dスキャン技術もそうですが、面白いゲームを開発できるように日々努力を重ねて行きますのでご期待ください。

――本日はありがとうございました。

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バイオハザード7 レジデント イービル』は、PS4(PS VR対応)/Xbox One/PCを対象に好評発売中。価格は、パッケージ版が7,990円(税抜)、PS4/PCダウンロード版が7,398円(税抜)、Xbox Oneダウンロード版が7,400円(税抜)です。