コロナ禍の影響を大きく受けたのが、鉄道会社である。

もともと人口減少の時代に入り、生産年齢人口が低落傾向にあったが、コロナ禍によるリモートワークの普及が乗客減に拍車をかけた。

本書「鉄道会社はどう生き残るか」(PHPビジネス新書)は、現在の鉄道をとりまくさまざまな問題に目を向けるとともに、これからの鉄道がいかにあるべきかを考察した本である。

「鉄道会社はどう生き残るか」(佐藤信之著)PHPビジネス新書
 

著者の佐藤信之さんは亜細亜大学講師。専門は交通政策論、工業経済論。著書に「JR北海道の危機」「JR九州の光と影」などがある。鉄道雑誌への寄稿も多く、鉄道会社ウォッチャーとして知られている。

空港アクセスの京成電鉄、京急電鉄、南海電鉄がコロナで大打撃

ほとんどの鉄道会社がコロナ禍の影響を受けたが、より大きなダメージを受けたのが、空港アクセスへの依存度が高い鉄道会社だ。

日本の入り口としては、成田、羽田、関空がトップスリーだ。そのため、それぞれへの鉄道アクセスとして、京成電鉄、京急電鉄、南海電鉄が輸送力増強に努めてきた。

空港アクセス輸送の収入比率も大きく、経営の柱となっていたが、それが新型コロナで一気に全滅状態になってしまった。

たとえば、京成電鉄は2019年10月にダイヤを改正し、スカイライナーの車両を1編成増備して、1日の運転本数を59本から82本に増発し、ほぼ終日20分間隔になった。

しかし、コロナによる出入国制限により旅客は減少。2020年5月からは上下各18本を運休した。

2021年3月期の鉄道事業の営業収益は前期より39.8%の減少となった。新型コロナによる鉄道事業の減少額は380億円に及び、全事業では850億円の減収となった。

また、羽田空港へのアクセス輸送を担う京急電鉄も、空港関連の旅客数を大きく減らした。

コロナ禍初期を含む2020年3月期の羽田空港2駅の旅客数は4615万6000人だったが、翌2021年3月期には57.3%減の1970万3千人に落ち込んだ。全線での旅客数は同時期の対前期比で30.5%の減であった。

そして、関西国際空港のアクセス輸送をJR西日本とともに担う南海電鉄の空港線の2021年3月期の利用者数は514万4千人で、前期比67.0%減。

3分の1に減ったことになる。全路線では同じ期間に25.6%減少した。

JR東日本は5177億円の巨額な経常赤字

通勤・通学輸送の主軸であるJR各社も旅客の減少に苦しんだ。

JR東日本は2021年3月期には単体で5177億円と巨額の経常赤字となった。2022年3月期決算の内容は、単体で営業収益が1兆4142億円と、1495億円の営業赤字。最終損益も992億円の赤字となった。

2019年3月期末のキャッシュ残高は2637億円であったが、2020年3月期末には1538億円まで、1099億円減少した。

キャッシュ不足に対して、2020年3~4月に無担保の約束手形、CP(コマーシャル・ペーパー)と社債で3650億円を調達した。さらに、4~5月には銀行から1500億円の借入をしたのに加えて、当座借越枠を利用して2600億円を確保したという。

コスト削減のため、房総各線や相模線、宇都宮線、日光線などでワンマン運転を行うほか、山手線などで自動運転に向けた試運転を始めた。また、駅の「みどりの窓口」の削減を進めており、2025年には70カ所程度とするという。

JR西日本も2022年3月期決算で営業収益が5776億円で、営業損益は1270億円の赤字、最終損益は1216億円の赤字となった。

構造改革として2022年4月入社の採用人数を前年の約750人から大幅に減らした約200人とした。運転士や車掌、事務部門の人員を約800人削減することも計画している。

西武ホールディングスや近鉄グループホールディングスのように、ホテル・旅行業をグループに持つ鉄道会社も打撃を受けた。

増収の模索へ...新しい輸送サービスの可能性

コスト削減にとどまらず、余力を活用して、少しでも収益を増やそうという模索も行われている。

新しい輸送サービスとして、JR東日本は2021年4月に北海道・東北新幹線を活用した鮮魚・駅弁輸送を開始した。JR九州も2021年5月から九州新幹線を使って、博多と鹿児島中央の間で、企業や個人の荷物を輸送するサービス「はやっ!便」に取り組んでいる。

リモートワーク需要を取り込むコワーキングスペースの提供も各社が行っている。

需要喚起のため、全区間小児50円均一という画期的な運賃を設定した小田急のように、値下げした鉄道会社はごく少数だ。多くの鉄道会社は、コロナ禍による減収を埋めるための施策として値上げを検討、一部実施した。

また、JR東日本はピーク時の運賃を高く、オフピーク字を安くする、時間帯別の運賃を検討しているという。

「首都圏の鉄道会社は、混雑緩和のために巨額の投資を行ってきたので、ピークカットができれば、さらなる投資が必要なくなるという発想」と佐藤さんは説明する。

◆JR九州「西九州新幹線」、9月開業へ

本書ではこのほか、「ヨーロッパで起こった鉄道事業の新自由主義化」「規制緩和の波が日本へ」「鉄道をめぐる新たな政策課題」など、鉄道をめぐる政策についても章を割いている。

暗い話題ばかりになってしまったが、これから開通する新たな路線にも触れている。

JR羽田空港アクセス線、相鉄・東急直通線、大阪のなにわ筋線、北大阪急行の延伸などである。経済の起爆剤になるか、と期待している。

直近の話題としては、9月23日開業予定のJR九州の西九州新幹線がある。長崎駅から佐賀県の武雄温泉駅まで、約66キロの短い新幹線で、博多とは途中、武雄温泉駅で乗り換えなければならない。なんとも不幸な時期のスタートとなったが、鉄道ファンの一人として、幸多かれと願わざるをえない。

(渡辺淳悦)

「鉄道会社はどう生き残るか」
佐藤信之著
PHPビジネス新書
1023円(税込)