快適な日常生活を送るために健康の維持は欠かせないが、現実には多くの人が何らかの症状に悩まされている。

多くの人を悩ませる代表的な症状を端的に表すのが、ドラッグストア・薬局の店頭の品揃えだ。

これら店舗の棚の多くを占める代表的な医薬品は、かぜ薬や解熱鎮痛薬、胃腸薬や整腸薬などの消化器官用薬、ビタミン薬などの滋養強壮保健薬である。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)の「スイッチOTC医薬品」に注目集まる

ちなみにドラッグストア・薬局で販売される医薬品は「OTC医薬品」、俗に「市販薬」と呼ばれる。OTCとは英語の「Over the counter」の略で、直訳すれば「カウンター越し」。これは医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」と対比し、「カウンター越しに販売される薬」と表現されているものだ。

 

前述の代表的な症状の中でも、比較的深刻なのが消化器官用薬が必要となる胃腸の不調である。厚生労働省が行う「国民生活基礎調査」の中で、3年おきに実施される健康状態調査の最新2022年の結果では、回答者の22.2%が「胃のもたれ・胸やけ」、16.2%が「腹痛・胃痛」に悩んでいることが明らかになっている。ざっくり言えば、日本人の約5~6人に1人が何らかの胃の症状で苦しんでいることになる。

こうした人の中にはOTC医薬品を利用した経験がある人もいるだろうが、最近、この領域で新たな治療薬が登場した。従来から医療用医薬品で使われていたプロトンポンプ阻害薬(略称PPI)である。

今年(2025年)に入り、発売されたPPIはタケプロンs(アリナミン製薬)、パリエットS(エーザイ)、オメプラールS(佐藤製薬)の3種類。このような医療用医薬品をOTC医薬品に転用したものは「スイッチOTC医薬品」と呼ばれる。すでにアメリカ、イギリスなどではPPIがOTC医薬品化しており、日本もようやくそれに続いた形だ。

PPIは端的に言うと、胃酸の分泌を抑える薬。今回発売された3種類の効能・効果はいずれも「胸やけ、もたれ、胃痛」である。こうした症状の原因は、暴飲暴食やストレスなどさまざまだが、いずれも胃酸の分泌と密接に関係している。

たとえば、胸やけは胃酸が食道下部に逆流した際の食道粘膜への刺激、胃痛の一部はストレスなどを起点に知覚過敏を起こした胃や十二指腸への胃酸の接触、胃もたれは十二指腸への大量の胃酸流入が原因となっていることが多いからだ。

アリナミン製薬、飲みやすい工夫として錠剤をイチゴ風味に

では、PPIはこれまでの既存のOTC医薬品とはどのように違うのか? 今回タケプロンsを発売したアリナミン製薬・プロダクト戦略本部 サイエンスコミュニケーショングループの川上亙氏は次のように語る。

「胃酸は3つの神経伝達物質の関与により、胃粘膜にあるプロトンポンプという機構が働くことで分泌されます。
従来の胃酸関連のOTC医薬品は、分泌された胃酸を中和するか、いずれかの神経伝達物質の関与を抑えるものでした。
これに対し、PPIは胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプの働き自体を抑えるため、強い胃酸分泌抑制作用を発揮します」

ちなみに、アリナミン製薬が発売したタケプロンsは、錠剤が口の中で唾液に触れると素早く崩れることで水なしでも飲める「口腔内崩壊錠」という技術を採用したことに加え、薬っぽさを緩和して飲みやすくするため、錠剤にイチゴ風味まで添加している。

さらにPPIの有効成分は、胃酸と触れると壊れてしまうため、タケプロンsでは、錠剤の中に7層コーティングを施した直径約0.3mmの有効成分の細粒を約5000粒含む設計にし、胃酸の影響を受けずに有効成分が腸に届いて吸収されることを実現した。実はこの技術は、ほかにも利点をもたらしているという。

「胃から十二指腸への食物通過を調節する出口機能とも言える幽門がありますが、ここは閉じている時でも直径約2mmの隙間があります。
タケプロンsの有効成分を含む細粒はそれよりも小さいため、胃の動きに関わらず幽門を通過しやすく、腸への到達時間を短縮できます。

さらに、細粒を小さくしたことで、服用時に口の中で感じる不快なざらつきを軽減しています」

今回、タケプロンsは、薬剤師が対面で情報提供と指導を行ったうえでの販売が義務付けられている要指導医薬品となる。そのため購入希望者は、予め用意されたチェックシートを使って症状、基礎疾患、アレルギー歴、他の服用薬の有無などを薬剤師から確認を受け、問題がなければ購入が可能になる。

なお、使用上の注意では、3日間服用しても症状が改善しない場合は服用を中止して医師・薬剤師に速やかに相談すること、たとえ効果を感じていても2週間以上の服用は避け、医療機関を受診することも求めている。これは重大な病気などを見過ごさないようにするためである。

昨今、「セルフメディケーション」という言葉をよく耳にするようになったが、この言葉の意味を医療機関を受診せずに自力・自己判断で症状改善を実現することと誤解している向きもある。しかし、真の意味は、「医師・薬剤師などの専門職に適宜相談をしながら、自身の健康管理に自発的取り組むこと」である。

PPIのようなスイッチOTC医薬品は、今後増えてくることが予想されている。身近な医師や薬剤師に相談しながら、こうした薬剤を上手に活用したい。

編集部おすすめ