「こういった国の褒章は僕みたいなテレビに出たり映画に出たり演劇をやったり、そういう役者にはいただけないと思っていました」

11月3日に行われた主演映画『劇場版 きのう何食べた?』初日舞台挨拶で、自らの紫綬褒章受章について神妙に語った内野聖陽(53)。隣にいたW主演の西島秀俊(50)は「恋人役としてすごくうれしい」と笑顔で拍手を送った。

「内野さんは今回の『何食べ?』のプロモーションの際、『見る側に常に意表を突きたいという思いがあり、意地悪な俳優でいたい』と話されていました。今回の受章は“出演者やスタッフ、そして視聴者の予想を裏切り続けたい”という、内野さん流の“反骨精神”のたまものだったのだと思います」(映画関係者)

内野が俳優を志したのは大学在学中から。本来なら実家の寺を継ぐ身だったが、実父の猛反対を押し切って文学座の門をたたいた。彼は金融広報中央委員会の広報誌『くらし塾 きんゆう塾』(2019年春号)でこう振り返っている。

《寺を継いでほしいという父の期待に背いて役者の道に進んでしまったので、『役者としてやっていける』ということをいち早く父に証明したかったのです。そういう意味でも、朝ドラに出演できたことの意味は大きかった》

内野は’96年の朝ドラ『ふたりっ子』に出演。’99年に読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞した際には、賞金を持って会いに行ったという実父はその3年後に他界している。

《父には、僕が想像する以上の絶望感を与えてしまったと思っています。自分が役者になったことで、父をはじめ多くの人たちを裏切ってしまったという気持ちは今でもあります。だからこそ、中途半端なことはできないという意識が常にありますね》(同誌より)

■実家の寺に話を聞きにいくと…

神奈川県内にある内野の実家は、戦国時代から続く名刹。本堂と山門は指定文化財になっている。現在、その住職を務めている叔父に今回の受章について聞こうと寺院を訪ねたところ弟子が応対。

内野から受章の連絡はなかったが

「『おめでとうございます』と伝えておいてほしいのことでした。うれしいことだと言っていました」

30年前、跡継ぎを拒否し《中途半端なことはできない》という実父への贖罪が、「意地悪な俳優でいたい」矜持に至ったのだろう。

「先日までの朝ドラ『おかえりモネ』に主人公の父親役として出演したのも“父親が喜んでくれるから”という思いがあったのだと思います」(NHK関係者)

内野は紫綬褒章受章時、「まだまだ役者の道のりは長いです。そして自分の目指す高みも雲に隠れて見えません……というような心境でもあります。これからも、さらに新たな挑戦と失敗を繰り返して新しい境地を目指せたらと思います」

とコメント。いまは彼の信念に亡き父も喜んでいるはずだ。

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